ついに実現!世界一のシェフが作る地産地消のヴィーガンメニュー

2020年12月3日、人吉球磨観光地域づくり協議会が主催で「食の多様性を2日間で学ぶ」と題したセミナーが開催され、人吉・球磨地方の飲食店、宿泊事業者が30名参加した。人吉・球磨地方は2020年7月に大規模な洪水被害のあった街ですが、今回は食だけでなくSDGsも学びながら、復興に向けて持続可能(サスティナブル)な街づくりを進めていく予定で、今回はその一環として開催されました。

■開催概要詳細
https://fooddiversity.today/article_72652.html

そして今回の目玉は、なんといっても世界一のヴィーガンレストラン自由が丘菜道の楠本シェフが、人吉・球磨地方の食材でヴィーガンメニューを披露することです。実際にどのようなメニューが作られたのか、どのような解説がなされたのかを見ていきます。

1日目は地域の製造者、道の駅、まちのスーパーで食材探し

食材を目利きする楠本氏

道の駅で特に乾物を入念にチェックする楠本氏

楠本氏が絶賛した「たもぎ茸」 出汁きのことも呼ばれる

楠本氏が「ありえない濃さ」と絶賛した豆腐系の食材

親父のガンコ豆腐
五木屋本舗
アスリー(たもぎ茸)
道の駅
・まちのスーパー

2日目は調理&実食

がんもどきと地域野菜を使ったうなぎ

豆腐の厚揚げをくり抜いて作るコロッケ(豆腐+じゃがいも+地域の野菜+オムニミート

精進出汁と野菜出汁の合わせスープ

最初に楠本氏から「今日の味のベースはこちらです」ということで、精進出汁(乾物、親父のガンコ豆腐の大豆も使用)と地域の野菜(たもぎ茸も使用)で取った出汁を合わせたスープが提供され、その味わいの深さで参加者の舌を唸らせました。また過去の経験上「清汁(すましじる)」などは外国人旅行客には受け入れられなかったなどの経験談も語られました。

続いて提供されたのは「うな重」と「コロッケ」です。「うな重」や「コロッケ」は既に世界で知られている日本料理であることを利用し、外国人にとってもある程度の見た目と形と味の想像がしやすいようなメニューを作ることで「食べてみようと興味を引いてもらう重要性」について語りました。「どれだけ手の込んだ、どれだけ地域に根付いた伝統食であっても、まず手を付けられないと意味がない」ということで、これまで楠本氏自身が「こちら側が提供したい料理を残されてきた経験」なども踏まえて説明がなされました。

幻のみかんこと「くねぶ」@道の駅(五木村)

また、親父のガンコ豆腐さんの「濃厚豆乳」、幻のみかんと言われる「くねぶ」、味噌豆腐「山うに」を使ったヴィーガンマヨネーズも披露され、こちらも参加者は味を絶賛。楠本氏は「すでにある食材を組み合わせただけ」と話しましたが、参加者からは「その発想はなかった」という声が多く上がりました。

全体的に味については「割とハッキリとはさせながらも、基礎調味料に頼るのではなく、旨みをしっかりと積み重ねる作業が重要」というアドバイスがありました。試食をした方からは「国産の上品なうなぎの味がする。骨がないうなぎとしても十分に売れそう。」「コロッケは味だけでなく、食べ応えもいい。ヴィーガンのイメージが変わった。」という声が上がりました。

さらに菜道サムライラーメンのプロデュースを手掛けた白澤氏からは、ご自身のお店「ちゃぶや咖喱堂(鹿児島)」で提供されるヴィーガンカツカレー(カツは野菜ですが、詳細は企業秘密)が披露され、とくに特製のカツについては「野菜だと言われてもわからないレベル」という声も上がりました。

ちゃぶや咖喱堂で提供されるカツカレー https://fooddiversity.today/article_74732.html

楠本氏が伝えたこと(あくまでも菜道で取り組んでいるやり方として)

・例えば「がんもどき」はそもそも精進料理で「がん(鶏肉)もどき」、昔から日本にはヴィーガンメニューが存在する。
・しかし「がんもどき」だと、ウケない。例えばがんもどきにいろんな野菜を加えて、更にうなぎのように作るとウケるようになる。こういう一工夫が重要。
・精進料理をベースに考えて、現代和食や、人気のあるの料理に「上書き」したことが、世界一位を獲得した要因
・動物性や魚出汁が使えないからといって、醤油や塩などの基礎調味料に頼ると大抵失敗する。焦らずに旨みを地道に積み重ねていく。
・出汁は濁らせてもいい。とにかく旨みを取り出すことを重視する。乾物なども使う。昆布やキノコなどもミキサーかけて使えばより深い味が出せる。アクは取らない。
・「精進出汁と野菜出汁は混ぜて使っていいのですか?」というご質問に対して、楠本氏「どんどん混ぜてください。とにかく旨み重視です。」
・人吉、球磨の野菜は、東京では手に入らないほどの圧倒的なパワーがあり、そもそものアドバンテージを大きい。季節要素もいれて地方オリジナルをどんどん作るべき。
・「肉の代わり」を無理に考えるより、野菜からもっと旨みを取り出すことを考えるべき。この地方の野菜はそれができる。
・食べる人の五感を全て刺激しながら作るイメージ

参加者から

・ヴィーガンのイメージが完全に変わった
・日本人客へのメニューも「実はヴィーガン」で対応したい
・これまでの常識に縛られてはダメだということが分かった(特に出汁の濁りの部分)
・地域の食材がどれだけのものなのか立ち位置に気づくことが出来た
・「郷土料理」をそのまま出しても、現代アレンジがないとそもそも食べてもらえないことが分かった
・ヴィーガンをしっかりやると、アレルギー対策(乳・卵等)にもなることが分かった
・まだまだ地域に眠っている食材があることが分かった

まとめ

今回楠本氏が地方に出向いて、食材調達から、実食、詳細の解説まで行った事例は日本で初めてとなりましたが、「事前に考えていたメニューもあったが、食材調達時に食材の持つ素晴らしい力を知ることで、いろんなアイディアが浮かんできた」とのことでした。やはり日本の農産物の力において、地方のアドバンテージは非常に大きいのではないでしょうか。その地域食材をどう活かすかは日本としてとても重要なテーマですが、今回最も重要だったのは、お店側が提供したいものと、お客様が求めるもののすり合わせでした。例えば「出汁を濁らせてはいけない」という昔からの常識はありますが、楠本氏が伝えたのはその常識をどうするかではなく、「お客様に美味しく食べていただくためには」の一点でした。楠本氏が今回伝えたのはテクニック等ではなく「精進料理の上書き方法(現代アレンジ)」であり、それこそが楠本氏が世界一位の称号を獲得した理由でもあります。ヴィーガンと言っても新しいものを作るわけではなく、世界のニーズとすり合わせることを行うだけであり、そして地方にはさらにチャンスがあるということを、改めて感じる今回のセミナーになりました。