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ハラールメディアジャパン株式会社の横山です。
今月から毎月二回、私が各誌に寄稿したコラムをご紹介いたします。
それらの読者は海外在住の日本人および外国人ビジネスマンですので、「海外から見た訪日ムスリム客の動向分析」をテーマにしているとご理解下さい。
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「ハラールという戦略上の選択肢」第一回
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2015年の訪日外国人は実質2000万人に至り、インバウンドという言葉を聞かない日はなくなりました。爆買い、民泊、地方創生といった言葉が飛び交う中、新たに注目されているのがハラールです。中韓台香からの訪日客に次ぎ急増しているASEANからの訪日イスラーム教徒(ムスリムと呼ばれます)が注目されているのです。
訪日ムスリムの80%はハラール認証にこだわっていない
「ハラール認証あり18.18%」というデータがあります。これはハラールやベジタリアンレストランの検索サイト・アプリ「ハラールグルメジャパン」にあるピクトグラムの使用率です。同サイト・アプリでは「ハラール認証あり」や「アルコールの提供なし」といったムスリムやベジタリアンにとって必要な16の条件をピクトグラムで選別し店舗を検索することができます。その中で最も使われている条件が「ハラール認証あり」でしたが、しかしそれは全体の20%にも満たなかったのです。
「ハラール認証あり」に続くのは「ハラールミート(イスラームの戒律に沿って処理された食肉)使用メニューあり」と「お店に豚肉なし」です。豚肉のみならず肉そのものに気を遣っている様子と、日本ではハラールの認証店舗や食材が少ないことを知ってか、訪日ムスリムは許容範囲の中で現実的な選択をしている状況が伺えます。
この検索サービスを利用した80%はハラール認証以外を条件としているのですから、「ムスリム対応に認証は必須」という日本の風潮とは異なっているといえます。つまり逆説的には「認証がなくてもムスリム対応はできる」といえるのです。
ハラール認証の前に1つずつ、できることから対応を
私はハラール認証を軽視しているのではありません。トレーサビリティが高く専門機関による厳しい監査を受けるハラールの認証は、ムスリムのみならず多くの消費者にとって安全安心の最高峰であるとさえ考えています。特にイスラーム諸国への輸出においては、非常に重要視されていると理解しています。
しかしその要求水準は概して高いため、大手企業でさえ認証の取得に躊躇しているのが実状です。中には「今は中韓台香からのお客様だけで充分。ムスリム対応はまだまだ先でいい」という企業もあります。いつまでも中韓台香からの訪日客だけをあてにするのはリスクが大きいですし、これでは観光立国には成り得ません。インバウンドにおいては、いきなり認証を目指すのではなく16のピクトグラムについて一つずつできることから対応するのが現実的なのです。
食事と同じくらい重要視されている礼拝場所
もう一点注目したいは、検索条件5 位の「礼拝場所あり」。ムスリムにとって一日五回の礼拝は必須であることは知られていますが、旅先でも礼拝場所とそのための時間は重要であることが伺えます。礼拝場所にはお清めのための手洗いがあればベターですが、「畳一枚程度のスペースだけでよい」というムスリムも少なくありません。
実際日本国内の礼拝場所は少なく、レストランや商業施設に設置されている礼拝場所は全国でも30ヶ所程度に留まっています。(ハラールメディアジャパン調べ) 空港や駅などでは徐々に整備が始まっていて、中には立派な設備を備えたものもあります。しかし絶対数はまだ少なく、街なかのレストランや食堂ではほとんどないといって良いでしょう。
質素なものでよいという声と、立派な設備でなければという対応。データと現状を見比べると、需要と供給のミスマッチが見えてきます。
地方こそムスリム対応の効果は大きい
インバウンド消費は大都市から今後地方都市へ波及すると期待されていますが、ムスリム対応はその有効な打ち手になる可能性を秘めています。ASEANにはない美しい田園風景、四季折々の自然、雪を見ること触れることなどが訪日理由の上位にあることから、対応を始めた地方からムスリム訪日客の選択肢になってくると考えられます。
現に中部北陸9県の自治体、観光関係団体、観光事業者等で構成する「昇龍道プロジェクト」は、2012年当時注力していた中華圏に続き、昨年からはムスリム訪日客をターゲットに精力的に誘客を図っています。そのうち岐阜県高山市と三重県鳥羽市は国のムスリム訪日客の受入環境整備等促進事業に採択されるなど大きな注目を集めており、早くもムスリム観光客の増加が見られます。
地方の特産物である農林水産品は、加工や調理に気をつければムスリムにも安心して食べられる、そもそもハラールな食材が実は多いのです。従って、地方こそムスリム対応の効果は大きく、そう遠くない将来あちこちで具体例が散見されるようになると思います。
(注)このコラムはThe Daily NNAシンガポール&アセアン版(2016年2月23日)にて「ハラールという戦略上の選択肢・第一回」として掲載されました。
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