地域一体となった食の高付加価値化事業
こんにちは、フードダイバーシティ株式会社の守護です。弊社はヴィーガン・プラントベース分野にて講演、プロモーション、商品プロデュース等を支援しております。
昨今、インバウンドの業界では「高付加価値」という言葉が騒がれています。これはアフターコロナの観光再始動にあたって、現在旅行市場では富裕層が多く動いていることであったり、円安の影響でより消費額を上げていこうという流れから来ています。
旅行者が日本で消費するうちの22%を占めるのが「食」ということもあり、現在日本の各都市が食に関して「高付加価値」の取り組みを行なっていて、その多くは「我がまち自慢の高級和牛」「我がまち自慢の高級海産物」「我がまち自慢の高級地酒」を全面的に打ち出す取り組みになっています。
もちろん、それも非常に重要だと考えております。しかしながら、日本は全国各地で食のレベルが非常に高いこともあり、旅行者にとってはその違いを感じることは難しいという声も多く聞かれています。また高級食材を使うと販売価格は簡単に上げやすいのですが、当然ながら食材原価は高くなってしまいますので、事業者として手元に残る利益にはどうしても限界があります。
そのような中、もう一つの高付加価値戦略について注目が集まっています。それは「ヴィーガン」です。本日はどういったお客様がターゲットになりうるのか、そして日本として高額をお支払い頂くために、野菜や穀物だけでどのように高付加価値をつけていくかについて説明していきたいと思います。
「ヴィーガンフードはヴィーガンの方だけが食べる?」
尚、日本では「ヴィーガンは何人いる?その市場規模は?平均所得は?」といった数字の話によくなるのですが、それは「ヴィーガンフードはヴィーガンの方だけが食べる」とお考えの方が多いからだと思います。世界では「週2回は意識的にヴィーガンを食べる」「今日は野菜を中心に食べる」など、普段肉や魚を食べる人にとっても「ヴィーガンは食の選択肢のひとつ」になっていますので、ここの認識はとても重要になります。
どういったお客様がターゲットになるのか
事例として下記をご覧ください。日本は多くの飲食店が、食材原価から売値を決めているケースが多いですが、本件についてはその認識を大きく変えていく必要があると思っています。
事例1:イレブンマディソンパーク(ニューヨーク)
ミシュランの3つ星にも輝き、世界ベストレストラン50で1位(2017年)にも選ばれたお店ですが、2021年6月に完全ヴィーガンレストランになりました。理由は「贅沢を再定義する時が来た」「現在の食料システムは多くの点で持続可能ではないことがますます明らかになっている」ということです。
※詳細はこちらより
同店の価格は現在ランチもディナーも365ドル(2023年2月現在)からで、ワインのペアリングも安いものは195ドル、高いものは365ドルとなり、平均客単価としても500ドルを優に超えると思います。
もちろんヴィーガンレストランになったことで離れてしまったお肉やお魚が好きなお客様はいるかもしれませんが、完全以降から1年半以上経過した今でも、予約サイトや様々なレビューを見る限り、依然として非常に人気の高いレストランであることが分かります。同店の提唱する新しい価値に賛同したお客様が着実に増えているのではないでしょうか。
またイレブンマディソンパークのようにヴィーガンレストランにしないまでも、その他にも昨今世界を代表する多くの高級レストランが「持続可能」「脱炭素」「環境問題」などの理由でヴィーガンメニューの拡充を行なっています。このようなレストランに普段行くお客様こそ、日本として「高付加価値×ヴィーガン」のターゲットになります。
お客様の求めるものを提供することがビジネスの原理原則ですが、その「お客様の求めるもの」が時代と共に少しずつ変わってきています。
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野菜や穀物だけでどのように高付加価値をつけていくのか
事例として下記をご覧ください。日本でも野菜と穀物だけで高付加価値戦略を実現しているお店がありますが、どういったポイントが評価されているのでしょうか。
事例2:菜道(東京)
2023年1月にヴィーガンレストラン菜道が行った米ロサンゼルスでのPOP UPでは、1000名様の予約枠が情報公開から30時間で全て売り切れ、キャンセル待ちが2000名様以上となり、更にハリウッドスターまで来店するなど非常に注目度の高いイベントとなりました。
今回ディナーコースは70ドルで、飲み物やチップなどを入れて平均的に120ドルほどになるのですが、アンケートにおいて「価格が高い」と答えた人は僅か1.8%という結果となりました。120ドルほど出せばアメリカでもいいお肉やいいお魚をレストランで食べることができますが、どういったポイントが今回評価されたのでしょうか。
(以下、アンケートより抜粋)
・ビヨンドミートや大豆ミートなどを一切使わず、日本の伝統技術を使って料理をするのはとてもCoolだ
・一つ一つの料理のプレゼンテーションがアメリカ人の心をくすぐる素晴らしいものだ
・Japanese Food × Veganは最高の健康食、しかも美味しいからこれ以上のことはない
・とんこつラーメンやヴィーガンゆで卵はマジックだとしか思えない
・(トマト)ラーメンに水を一滴も使わず、スープを全て飲んだ方が体にいいというコンセプトはとても素晴らしい
・焼き鳥やうなぎなどそれぞれの料理が何で出来ているか聞いても”Secret”と言われるが、それも神秘的でとてもいい
・ラーメン、うなぎ、焼き鳥など、日本を代表する和食がヴィーガンで食べられてとても嬉しい
・乾物の椎茸がこのように肉厚でジューシーになるのは非常に驚きだ
上記が、お肉やお魚を使用しなくとも高価格を払っていただけるための要素です。
現在日本で多いヴィーガンメニューは「大豆ミートを使ったカフェ系メニュー」が中心になりますが、それらは基本的に自国で食べられるものですので、高価格をお支払い頂ける上記要素としてはほとんど当てはまりません。
野菜や穀物のみで食材原価が安い分、海外の方が日本に求める料理をしっかりと見つめ、日本の伝統技術やアイデアを形にしていくことが価値になると言えます。
以上となります。
2023年は本格的にインバウンド経済が復活する見込みです。高級和牛や高級海産物に高付加価値を感じる方もいれば、新しい価値観や新しいニーズに高付加価値を感じる方もいます。日本として観光消費額を上げていくためには、どちらも大事になっていくと考えております。
著者
守護 彰浩(しゅご あきひろ)
フードダイバーシティ株式会社 代表取締役
流通経済大学非常勤講師
1983年石川県生まれ。千葉大学卒業。2006年に世界一周を経験後、2007年楽天株式会社に入社し、食品分野を中心に様々な新規事業の立ち上げに関わる。2014年、多様な食文化に対応するレストラン情報を発信する「HALAL MEDIA JAPAN」を立ち上げ、フードダイバーシティ株式会社を創業。ハラールにおける国内最大級のトレードショー「HALAL EXPO JAPAN」を4年連続で開催し、国内外の事業者、及びムスリムを2万人以上動員。さらに2017年からはハラールだけでなく、ベジタリアン、ヴィーガン、コーシャ、グルテンフリー、アレルギーなどに事業領域を広げ、全国自治体・行政と連携しながら普及のための講演活動、及び集客のための情報発信を行う。2020年には総理大臣官邸で開催された観光戦略実行推進会議にて、菅総理大臣に食分野における政策を直接提言した。著書に「開国のイノベーション」(株式会社スリースパイス)。
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