パンデミックで有名レストランのシェフが決断したこととは

新型コロナウイルスにより休業しているニューヨークの有名レストランで、ミシュラン3つ星も獲得する「Eleven Madison Park」が、2021年6月10日の営業再開後にヴィーガンレストランになる方針を明らかにしました。本発表はレストランの公式サイトとオーナーシェフのダニエル・フム氏自身のInstagramで掲載されました。

今回、その発表をフードダイバーシティ株式会社が日本語に訳しました。

以下、日本語訳

レストランを閉鎖してから約15か月、2021年6月10日にEleven Madison Parkを再開できることをとても嬉しく思います。

今回のパンデミックは私たちの業界に大きな打撃を与えました。レストランの閉鎖に伴い私たちはチームメンバーの多くを解雇し、今後もレストランを継続できるのかどうかは本当にわかりませんでした。

私たちは最少人数のチームを雇用し続け、彼らの目覚ましい努力により、非営利団体のRethink Foodと協力して、食糧不安の状態にあるニューヨーカーのために100万食近くの食事を用意しました。私はこれまでにないこの仕事を通じ、「Magic of food」を経験しました。また、私たちの街の別の側面も見ました。そして、私はこれまで以上にニューヨークを愛しています。

困っている人々に食事を提供しながらも、私たちのチームを雇用し続けるための努力は、私のキャリアの中で最もやりがいのある仕事になりました。それは私の人生の中でもとても感慨深い期間であり、この経験ができたことに心より感謝しています。

この仕事が私たちのレストランにとって、今後の礎となることは明らかでした。

これらの経験を経て、私たちはビジネスモデルを進化させることを決定しました。6月10日にEleven Madison Parkを再開するとき、夕食の予約を受けるたびに、食糧不足の市民に5食を提供させて頂きます。この食事はRethink Foodと提携し、Eleven Madison Truckによって配達されます。私たちは、お客様、チーム、サプライヤーがすべて参加する循環エコシステムを作成しました。

昨年、新型コロナウイルスが猛威を振るう真っ只中、パンデミック後のEMP(Eleven Madison Park)がどうなるかを想像し始めたとき、私たちが再び創造的な食について考え始めたとき、私たちは世界が変わっただけでなく、私たちも変わったことに気づきました。 私たちはこれまでも周囲の状況に対してアンテナを高く張っていましたが、現在の食料システムは多くの点で持続可能ではないことがますます明らかになっています。

私たちは料理を通じて、自分自身を表現しています。そして私たちの創造性はいつも時代とともに変わります。

昨年私たちが経験したことを経て、これまでと同じレストランを再度開くことができないことは明らかでした。

そのことを念頭に置いて、プラントベースメニュー(動物性のものを一切使用しないメニュー)の提供を決定致しました。すべての料理は、陸と海の両方から取れる野菜で作られています。果物、豆類、菌類、穀物などもあります。

私たちはこの料理の研究ために努力を続けてきました。それは信じられないほどの苦難であり、多くのことを学ぶ時間でした。私たちがこれまでも深く関わってきた地元の農家の協力の下、使い慣れた食材で研究を続けていますが、今回私たちはそれらをより際立たせるための新しい方法を見つけました。

私は完璧に料理された野菜を中心とした料理に最も感動し、そこから多くのインスピレーションを得ており、自然にプラントベースの食事の魅力に引き寄せられてきました。この決定は私たちの食材をより深く知り、私たち自身の創造性を高めるための挑戦となりました。行き着く先はわかりませんでした。ただ、私たちが方向転換をするのなら「お客様に以前と同じ感動的な体験が提供できる場合のみ」と心に決めていました。

私たちは自分たちに問いかけました:私たちの料理の最も強みとすることは何か、そしてお肉を使わずに同じレベルの風味と食感を作ることはできるのか。

食材に関係なく、過去作ってきたものと同等レベルのものでなくてはいけません。私たちがこれまで作ってきたラベンダーハニーグレーズドダック、またはバターポーチドロブスターのような満足の高いものを作るのは、とてもやりがいのある挑戦です。

私はうそをつくつもりはありません。時々私は真夜中に起きて、以前に私たちが作ってきた料理に戻らないリスクについて考えています。

しかし、それから私は調理場に戻って、私たちが作ったものをチェックします。私たちは、香り高い野菜の出汁やソースを作ることに夢中になっています。私たちは全ての力を注いでプラントベースのミルク、バター、クリームを開発しています。また、現在私たちは発酵を研究しており、時間こそが最も重要な成分の1つであることを理解しました。限界から解き放たれ、今は単なる始まりにすぎないと感じています。

これらすべてが私たちに「Fine dining」がどうあるべきかを再定義する自信を与えてくれました。リスクを取るべき価値が大いにあると私たちは信じています。

贅沢を再定義する時が来ました。私たちは贅沢を「高い目的を果たし、コミュニティとの真のつながりを共に作る体験」と定義します。

レストランでの体験は、お皿にあるもの以上のものです。私たちは、街と地球のつながりを深めるプラントベースの料理に信じられないほど大きな可能性を感じています。

レストランにとって、もっともエキサイティングな時期が来ると思います。EMP(Eleven Madison Park)の本質はかつてないほど強固なものとなっています。私たちの新しい章をぜひ体験しに来てください。この挑戦を皆さんと共有できることを楽しみにしています。