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イスラム教最大国家・インドネシアで代替肉はどう広がる?

2021年6月、大手ハンバーガーチェーン店「バーガーキング」がインドネシア・ジャカルタ首都圏の店舗で大豆由来の代替肉を使ったプラントベースハンバーガーの販売を始めました。インドネシアは、人口約2.7億人の80~90%近くをイスラム教徒が占めており、「世界で最大のイスラム教徒の人口を誇ります。代替肉といえば、ヨーロッパやアメリカで広く浸透しているイメージですが、東南アジアのイスラム教徒が多いインドネシアで浸透するのでしょうか。

「木に実るハンバーガー」をテーマにしたプラントベースバーガーの告知動画

代替肉とは?

そもそも代替肉とは、その名の通り畜肉ではなく、豆類や米などの植物性の原材料で作られた肉を模した製品を指し、海外ではビヨンドミートやインポッシブルミートが一般的に流通しています。日本では大豆ミートなどが普及していますが、フードテックによるテクノロジーを用いて、お肉そっくりに作られた植物性代替肉(英語ではプラントベースミート: plant-based meat)に近年注目が集まっています。国内外代替肉メーカーの比較まとめ: https://fooddiversity.today/article_57309.html

インドネシアの代替肉業界の流れ

スターバックスでプラントベースメニュー導入

2021年2月、スターバックスはインドネシアのジャカルタ首都圏及びバリの57店舗でプラントベースメニューの導入を開始しました。お客様の好みやライススタイルにカスタマイズするためにプラントベースメニューの提供を開始し、今後はアジア圏で各地域にローカライズしたプラントベースメニューの提供を進めていくと発表しています。今回、プラントベースメニューの開発に携わった「Green Bucther」(現在は「Green Rebel Foods」に社名変更)はプラントべースの鶏肉や牛肉の開発を手がけており、今年5月にシンガポールのベンチャーキャピタルから2億円を調達するなどインドネシア国内では非常に注目度が高い代替肉開発のスタートアップとして知られています。

スターバックスのプラントベースメニュー

お隣のマレーシアでは、植物由来の代替豚肉を開発している「Phuture Foods」が2019年に約8000万円、シンガポールでは、スタートアップ「Karana」が約1.9億円を資金調達しており、東南アジアでの代替肉業界が盛り上がり始めています。

インドネシアのバーガーキングもプラントベースメニューを提供開始

大手ハンバーガーチェーンのバーガーキング・インドネシアは、大豆由来の代替肉を使ったハンバーガー5月6月中旬まで期間限定で販売し、ジャカルタ首都圏の店舗から始まり、全国175店舗で販売の予定です。価格は4万5,455ルピア(345円、1ルピア=約0.0076円)と、通常の「ワッパー」(4万9,090ルピア)よりも低く設定されています。

キャッチフレーズは「似ているけど、同じじゃない!」

キャッチフレーズは、「Serupa Tapi Tak Sama(似ているけど、同じじゃない!)」という謳い方をしており、「Which team are you?(あなたはどっち派?)」という問いかけとともに、プラントベース肉100%と牛肉100%の「ワッパー」との食べ比べセットも販売するなど、ヴィーガン・ベジタリアンの客層だけでなく一般消費者層への新たな代替肉という提案を試みるマーケティングのようです。インドネシア総人口に占める若者世代の割合は、2020年9月時点で、Z世代が27.9%、ミレニアル世代が25.9%となっており、若者層への訴求が目立ちます。SNS上では、「普通の牛肉パテの味と変わらなくて驚いた!」「めちゃめちゃうまい!よくやったバーガーキング」などといったポジティブな反応が見られています。なお、同店舗はハラール認証を取得しており、「プラントベース肉の調理場は、通常の牛肉と共有しています」との注意書きも書かれています。

プラントベース肉100%と牛肉100%の食べ比べセット「あなたはどっち派?」

芸能人やインフルエンサーの影響

2021年のミス・インドネシアでグランプリに輝いたSophia Roganさんは、気候変動・森林破壊・世界飢饉・水質汚染などの環境問題に意識を強く感じ、ヴィーガンになりました。現在は、そのような社会問題の啓蒙活動の一環としてミス・インドネシアに参加しています。

ミス・インドネシア グランプリのSophia Roganさん

女優のTara Basorさんや歌手のDewi Gitaさんもベジタリアンであることを公にしています。このように著名人やインフルエンサーが積極的に情報発信をしていることも今後のインドネシアの代替肉市場に影響を与えていくことが想定されます。

インドネシア人消費者の代替肉に対する反応

弊社は独自にインドネシア人ムスリムを対象に「プラントベース肉」に関してのアンケートを実施しました。(対象:752名)

「ソイミート」という言葉を耳にしたことがありますか?

あります(66%)

初めて聞きました(34%)

「ソイミート」を食べたいと思いますか?

思います(81%)

思いません(19%)

「ソイミートの味はどうでしたか?」 (食べたことある人のみ回答)

おいしい(78%)

好きじゃない(22%)

その他寄せられたコメント

・味付けが大事。味付けが美味しくできれば、ソイミートを食べていることに気づかない。
・食べた後の残った味(アフターテイスト)が気になるので、頻繁には食べられない。
・普通のお肉の味がするので、美味しい。
・ジャカルタでは販売店舗が少なく、簡単に購入できない。

このようにアンケート結果からソイミートへのイメージ・感想も概ね好反応が見られ、抵抗感が少なく満足度や意欲も高いことが伺えます。中には、「大豆臭さ」に対して言及するコメントもありますが、フードテックが進み、質の高い代替肉が普及し始めている今、消費者の捉え方が変わるのも時間の問題かもしれません。

「ソイ(大豆)」はインドネシア人にお馴染み?

実は、インドネシアでは大豆を使った料理はお馴染みで、特に「テンペ」という大豆の発酵食品は現在日本でもスーパーフードとして注目されています。日本の納豆は納豆菌で大豆を発酵させますが、テンペは大豆にテンペ菌で発酵させたもので糸を引いたりしません。クセがないことから、インドネシアでは広く料理食材として用いられ、地域によって様々なアレンジがされています。

今注目のインドネシアのスーパーフード「テンペ」

甘塩っぱいソースで炒めたテンペ料理

テンペの他に、日本の豆腐(インドネシア語では「タフ」と呼ばれます)も広く浸透しており、豆腐を揚げたり炒めたりして、路面の屋台でも売られているほど広く食されています。そのようなインドネシアの食文化的な背景を踏まえると「ソイミート」に対する抵抗感もさほどなく、大豆由来の代替肉へのハードルもそんなに高くありません。

代替肉の波はインドネシアにやってくるのか?

インドネシアの経済は著しいスピードで成長しています。評価額が10億米ドル以上で未上場のスタートアップ企業を意味するユニコーン企業の数は5社と、日本や香港の4社を上回り世界トップ10に位置しています。経済発展だけではなく、インドネシアの人口の平均年齢は29歳(日本は約48歳)と非常に若く、Z世代やミレニアル世代の環境や社会、健康に対する意識も年々高くなっています。

現在ヨーロッパやアメリカ、中国が代替肉市場として盛り上がっていますが、それ以上の波がインドネシア・ASEANにやってくるのもそう遠い未来ではないかもしれません。