アレルギー対応でお客様が求めるポイントとは?

こんにちは。食の多様化対応を支援しておりますフードダイバーシティ株式会社の守護です。

本日はアレルギーについてです。前回アレルギーに関する卒論を書いた香川さんからの寄稿記事となります。
※卒論はこちらです。

私はこの記事を読んで「専門知識ももちろん必要ですが、心の持ち様で解決できることも多い」と正直感じました。当然個人差もある分野ですが、まずは寄り添って一歩から出来ることも多々あるのではないでしょうか。この視点で是非ともご一読頂ければと思います。
※前提として彼女のアレルギーは、『卵、乳製品、いか、たこ、えび、かに、貝類、キウイ、パイナップル、蕎麦』です。

①外食に対する「心理的な壁」を取り除いてほしい

私たち食物アレルギー持ちが外食をする際は、必ずお店の人に病気のことを告げなければなりません。正しく言うと、「告げなければ怖い」のです。店に入ってまず渡されるメニューには「写真」と「料理名」しか載っていないことが多く、「〇〇と〇〇にアレルギーがあるんですが、このなかで食べられるものは何ですか?」「この料理に〇〇と〇〇は含まれていますか?」そう尋ねて答えが返ってくるまでは、安心して料理を選ぶことすらもできません。私の大半のアレルゲン(卵・乳製品・甲殻類等)が省かれているヴィーガン料理店では店頭で確認することが多いのですが、そういったお店でない限りは来店前にあらかじめ電話でお伺いするようにしています。

もちろん、アレルギー持ちであることを伝えなければ命の危険もあるため仕方なく伝えますが、これまで病気のことを伝えた際の応対で、悲しい思いも少なからずしてきました。その経験から、私にとって外食は気軽にできるものではなく、ハードルが高いものに思えてしまうようになりました。

先日、渋谷スクランブルスクエア地下1階にある「Gourmand Market KINOKUNIYA」で買い物をした際、すべての食品に特定原材料7品目が含まれているか否かが一目で分かるような仕組みが施されていました。

どんな商品を買うにしても、必ず裏面に記されている原材料表示を確認しなければならない私にとって、「卵の欄に〇があるからこれは無理だ」と商品を手に取る前から分かるのは、心理的にも時間的にも楽に思えました。小麦アレルギーのない私が「このうどんだったら食べれるかな」と手に取ったうどんを裏返してみると、つゆに乳成分が入っていたりします。落胆して棚に戻すときのあの気持ちを、少なくとも7品目分は味わうことなく買い物ができました。くわえて、欲しいものの原材料をくまなくチェックするのは、膨大な時間がかかります。間違えて買ってしまっても食べればいい、という選択肢はなく、その場でチェックせずにアレルゲンのある商品を購入してしまっても食べられないので、本当に大丈夫か要確認してからカゴに放り込みます。

このような仕組みが全飲食店にあれば、どれだけ嬉しいだろうと思いました。もちろん7品目だけではなく、料理の原材料を詳細に記したものがメニューの最後に載っていたら。来店前にホームページで確認できたら。コンタミネーション(混入)の可能性が表記されていたら。食べられないものは諦めがつくし、食べられるものはわざわざ食物アレルギー持ちだということを告げなくても注文できるかもしれません。

国土交通省より抜粋 https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001339698.pdf

国の新たな取り組み「Go To Eatキャンペーン」の条件冒頭には「オンライン飲食予約サイト経由で予約・来店し」とあります。指先で簡単に行えるオンライン予約ですが、アレルギーの詳細について文字だけで伝えられる自信はなく、いつも電話をかけて確認します。せめてアレルギーを問う欄が当たり前のようにあれば。そのお店のアレルギー対応方針を記してくれる一文があれば。気軽にアレルゲンを選択し、オンライン予約を使える日が来るかもしれません。

注文という皆がする行為の前に1クッション「アレルギー持ちなんですが」と告げるあの瞬間はいつまで経っても慣れません。その行為の必要性がなくなる表記、アレルギーに対して「特別だ」「面倒だ」と思ってしまう皆の心。外食に対して感じる「壁」を取り除くような仕組みが1つでもできたら。そう願うばかりです。

②アレルギーを起こすのは「直接的」に含まれている食品だけではないと知ってほしい

例えばホタテが食べられない、と告げるとホタテそのものが食べられないことまでは誰でも分かってくれます。そこにホタテという物体がなくとも、ホタテパウダーが含まれている食品が危険であることも想像してもらえれば分かってもらえると思います。
ですが、野菜などの残留農薬や有害物質などを除去できるというホタテ貝殻パウダーで洗った野菜がアレルギーを引き起こす可能性があることについてはどうでしょうか。

ヴィーガンを謳うお店や、アレルギー対応をしてくださるお店にも意外とホタテパウダーを使用して残留農薬を除去しようとするところは多いです。農薬を除去しようという試みまでは良いのですが、アレルギー的観点から見ると危険です。なぜなら野菜をどのように処理しているかをわざわざ告げる店は少なく、メニューにも書かれることはないからです。なにより「洗浄の過程で使われたもの」は、表示義務のある「原材料」ではないからです。

アレルギーを引き起こす可能性がある物質は、食物に直接的に含まれたものだけではないと知ってほしいです。そのたったひとつの知識で救えるものは、少なくないと考えています。

洗剤にもアレルギー物質が含まれるケースがあります

③「食べない」ことと「食べられない」ことの違いを理解してほしい

私は、選択の結果として「食べない」ことを選んだ人と、選択する余地を与えられず「食べられない」人は大きく異なると考えています。例えると、医者を志し勉強に励み医学部に入って夢の一歩を踏み出した方と、実際なりたくはないが親に「医者になれ」と言われてその道に進まざるを得なかった方。同じ医学部所属という結果でも、そこに至るまでの背景も現在の心持ちも大きく異なることが想像できます。

例えば同じベジタリアンでも、たくさんの種類があります。卵・乳製品などの動物性食品を摂らないヴィーガン。乳製品は食するラクト・ベジタリアン。乳製品と卵は食べる、ラクト・オボ・ベジタリアン。それに加えて魚を食べる、ペスコ・ベジタリアン。ひとりひとりの経緯こそ知ることはできませんが、彼らの背景にはいろんな出来事があり、数あるベジタリアンのなかのひとつを選択し、行動に移しているのだと思います。私は彼らのおかげで増えたヴィーガン、ベジタリアン向けレストランや商品などの恩恵を(私のアレルゲンと重複する点が多いため)たくさん受けているので、需要を広げてくださった彼らの存在には深く感謝しています。好き嫌いもそうです。たくさんのものを食べて、自分の舌に合うものを好物と呼び、どうしても合わないものを苦手な物として挙げます。私自身も、大好きなものも苦手なものもあるのでよく分かります。

ですが、私にはもともと選ぶ余地がありませんでした。これが好きだから食べよう、これが嫌いだからやめよう。環境のために、動物のために。そのどんな理由も持てることなく、命が危険に脅かされないために、意思の前に身体がその食品を拒んできました。

それが良いとか悪いとかの話をしたいわけではありません。ただ、飲食店で働く方々、経営される方々には是非ともこれを知ってほしいと願っているだけです。「アレルギーでこれが食べられなくて」と告げると「ああ、好き嫌いですか」「じゃあ取り除けば大丈夫ですか?」と言われたこともあり、正直びっくりしたし、悲しかったです。命を任せられないと感じ、その店で飲食をするのはやめました。アレルギーは死に至る危険性もあり、好き嫌いや選択の結果ではなく食べられないのだという正しい知識を持っている人がひとり増えるだけで、そのひとりぶんだけでも生きやすい世界になると感じています。

最後に

ここまで挙げた飲食店への要求は、ただ求めるだけではなく、こちら側の伝えようとする思いとわかってもらうための努力なしには叶えてもらえないと思っています。なんでわかってくれないんだろう、なんでこんなことも知らないんだろう、と思うのではなく、私たちの常識は他人にとっての非常識であり、アレルギーを持っていない人にアレルギー対応をしてもらうことがいかに難しいことかもよくわかっています。
しかし現在、生活様式も考え方も、多様性を認める社会になってきていると感じます。食文化も、同じようにならないでしょうか。多様な食のあり方を社会で認め合える一歩を、まずは飲食に影響力のある、ひとつのお店から始めてはくれないでしょうか。そんな気持ちで綴った3つの願いです。