ベジタリアン・ヴィーガン大国イギリスの最新情報
こんにちは。食の多様化対応を支援しておりますフードダイバーシティ株式会社の守護です。
2022年の年末にHappy Cowは3年ぶりに「Vegan-Friendly Cities」TOP10を発表しました。そこで2019年に引き続き、連続で1位を獲得したのはイギリスのロンドンです。今回、そのロンドンを視察して参りました。
イギリスからの観光客は観光消費額も高く、2019年は241,264円(平均は158,531円となるので約1.5倍)となっており、日本においても非常に重要な市場であることは間違いありません。
※訪日外国人の消費動向より
その中で、英finderの調査ではイギリスにおいて肉を食べない人が14%(今後30%まで伸びる予測)、特にZ世代においては環境問題や動物愛護の観点で43%が肉の摂取を減らす計画をしているなどの結果が報告されています。
イギリスから旅行に来る方々が食に求めるサービスはどういったものなのか、日本としてどういったことを行えば更に観光消費額を伸ばしていけるのか。本記事はデータなどもひと通り目を通していますが、私が現場で見たもの・感じたものを中心に書いていきたいと思います。
See Also
ロサンゼルスにおけるヴィーガン等フードダイバーシティレポート(2022年8月)
サンフランシスコにおけるヴィーガン等フードダイバーシティレポート(2023年1月)
機内食
まず、British Airwaysの機内食は「チキン or マッシュルーム」でした。マッシュルームの方には乳は含まれていましたので、ベジタリアン対応とのことでしたが、”特別ミール”を予約しなくてもベジタリアン対応までの選択肢があることはさすがと感じます。
一方、日本航空は「チキンorビーフ&ポーク」で、ベジタリアンやヴィーガンに関しては”特別ミール”として事前予約する必要があります。日本もそうすべきだという話をしたいわけではないのですが「肉 or 肉」の選択肢だと、お客様が特別ミールの事前予約を忘れてしまった場合に対処が難しくなりますので、これは一つ参考にすべき点だと考えています。
レストラン
ランダムに入店したHappy Cowに掲載されていない普通のレストランでも、ベジタリアン・ヴィーガンオプションが半数以上あり「当たり前感」をとても感じます。
Purezza Camden
Happy Cowが選ぶVegan Friendly Restaurants in Londonで1位はPurezza Camdenです。「Vegan-Friendly Cities」で1位ロンドンの1位ということで期待値も高くお邪魔しました。11時半のOPENと同時に多くのお客様が来店し、100席以上は軽くあるかと思われますが瞬く間に満席となり、非常に人気の高さを感じました。
店内には本格的なピザ窯があり、熟練のピザ職人が手際よくピザを焼き上げています。メニューはもちろん全てプラントベースで、メニューを頼む際に店員さんからは地産地消やサスティナビリティに関する説明などもしっかりと受けました。
焼きたてで運ばれてくるピザは、小麦の香りが香ばしく、もちもちでしっかりとした生地にはたくさんの具が乗っており、見た目もボリューム感があります。ペペロニは味と食感共に非常に高品質で、さらに自家製のヴィーガンチーズもおいしく、トマトソースとよく合っていました。全体的にとても美味しく、ピザとしてのクオリティが非常に高いと感じました。
また、ピザ屋ですがメニューにはグルテンフリーオプションも充実していることにも注目です。
Wagamama・Itsu・Wasabi
ロンドンで複数店舗展開する日本食のレストラン「Wagamama」、「Itsu」、「Wasabi」でも同様にヴィーガンメニューが充実していて、それぞれ約半分ほどがベジタリアン・ヴィーガン対応メニューでした。
どのお店もラーメン、寿司、餃子、カレー、丼などを中心に、それぞれのメニューで肉か、ベジタリアン・ヴィーガンかを選ぶことができる形になっています。そしてどのお店に人気メニューを聞いても「カツカレー」と言われたので、それぞれでヴィーガンのカツカレーを食べてみました。
※どのお店もお肉は基本鶏肉で、これは人口比で1割ほどいるイスラム教への配慮とのことでした。
しかし、カツカレーを頼むも、まず下記の図左上「Itsu」のカツカレーヌードルは「いわゆるカツ」は乗っておらず、揚げた玉ねぎが上に乗っていました。店員さんに聞いてみると「揚げたものとカレーがあれば、カツカレーになる」とのこと。
左下「Wasabi」のカツカレーはカツカレー焼きそば(米はなし)でしたが、カツはいわゆる「野菜コロッケ」でした。最後に右「Wagamama」のカツカレーは米でしたが、下からカツ(豆腐のようなもの)、米、カレールウと見慣れない形で出てきました。
一般日本人の認識で食べると見た目や”定義”に違和感はあれど、どのメニューもいわゆる日本式のカレーで、味としてはとても美味しく食べることができました。ちなみに、どのお店もカレールウは基本ヴィーガン対応していて、トッピングで肉などを乗せる形でオペレーションを組んでいるとのことです。
そして、それ以上に重要なのは、日本だとベジタリアン・ヴィーガンを頼むと大抵「サラダ」や「精進料理」が提供されますが、お客様が日本に求めているベジタリアン・ヴィーガンメニューというのはいわゆるラーメン、寿司、餃子、カレー、丼などであることです。ここについて、日本側がしっかりと知識を持つことが重要です。
Marugame Udon
こちらはすでに記事化したので、詳細は下記レポートをご覧くださいませ。
ヴィーガンメニューが充実!英ロンドン「Marugame Udon」実食レポート
スターバックス
世界に行ったらスターバックスは必ずチェックします。ロンドンのスターバックスにおいて注目ポイントは、プラントベースミルクオプションが無料であることです(日本は+50円、アメリカは+80¢)。ロンドンのあるイギリス以外には、フランスとドイツも無料となっているようですが、ロンドンではスターバックス以外のカフェでも同様に無料化しているお店は多くあり、一般的な流れになっていることが感じられました。今後この動きは特にヨーロッパで広がっていく可能性が高いのではと考えています。
Starbucks Drops Vegan Milk Surcharge at All 145 Locations in Germany(2023年3月)
マクドナルド・KFC・バーガーキング
世界的なファストフード店マクドナルド、KFC、バーガーキングは全てヴィーガンメニュー完備して、タッチパネルのタブで選べるようになっています。2022年8月に行ったアメリカロサンゼルスの調査でもここまでの対応は見ませんでしたので、やはりニーズがとても高いのだと思います。マクドナルドのMcplantはビヨンドミート社との共同開発で、調理オペレーションも専用のトレイやトングなどの器具を使っているとのこと。また、ヴィーガンを選ぶと「フライドポテト」も出てきますが、当然ながら普通のフライドポテトもヴィーガンで作っているとのことです。
スーパーマーケット
いろんなスーパーマーケットを周りましたが、やはりベジタリアン・ヴィーガン商品は売り場にも非常に多く並べられていました。レストランでもこれだけ多くのベジタリアン・ヴィーガンメニューが本当に多いので、もはやなんの驚きもありません。
ただし、アメリカのスーパーと異なり「ビヨンドミート」や「インポッシブルミート」などのメジャーな代替肉製品は見かけることはほとんどなく、多く見かけたのはやはり欧州産の代替肉が並んでいました。これについて、イギリス在住のヴィーガンの方に聞いてみると「環境問題からベジタリアンやヴィーガンになる方も多いから、代替肉であったとしてもフードマイレージはとても重要な観点になる」とのことでした。
https://meatlessfarm.com/ (イギリス)
https://vivera.com/ (オランダ)
https://tofoo.co.uk/ (イギリス)
https://this.co/ (イギリス)
いま一度しっかり認識すべきこと
今回改めて感じたのは「当たり前をしっかりと表記すること」の重要性です。日本人からしたら当たり前かもしれませんが、「枝豆」「冷奴」「海苔のおにぎり」「いなりずしやかっぱ巻き」に動物性原材料は基本的に含まれていません。しかしながら、それは海外の方にとって一般的な情報ではありませんので、下記図のようにしっかりと表記することで、手に取って頂く可能性は格段に上がると感じました。
これは日本の飲食店でも、特別なメニューを作らなくてもすぐにできることではないでしょうか。
所感
「肉を食べない人は本当に14%?」というのが、正直な感想です。街中での対応は14%どころではなかったです。
ありとあらゆるレストランなどを視察しましたが、ベジタリアン・ヴィーガンオプションがないレストランの方が圧倒的に少なく、しかも1品2品の対応だけでなくメニュー全体で過半数を超えるような形で販売されていました。そして当然ですが、ベジタリアン・ヴィーガンオプションに事前予約は必要ありません。
現在、日本の観光市場では下記のような対応がほとんどです。
・予約があればベジタリアンメニューができます(食べたい時に食べられない)
・ベジタリアン、ヴィーガンメニューとしてはサラダや精進料理があります(食べたいものが食べられない)
これだと残念ながら観光消費額を大きく取りこぼしてしまうことは間違いないと感じます。
もちろん日本もこのようにやっていくべきだという話をしたいわけではありません。ただ、しっかりと取り組んで売り上げを上げたいお店は積極的にやっていくべきですし、そこまでお考えでなくても「当たり前を表記すること」は少なくともやっていくべきだと思います。
それを今回とても感じるロンドン市場の視察でした。
著者
守護 彰浩(しゅご あきひろ)
フードダイバーシティ株式会社 代表取締役
流通経済大学非常勤講師
1983年石川県生まれ。千葉大学卒業。2006年に世界一周を経験後、2007年楽天株式会社に入社し、食品分野を中心に様々な新規事業の立ち上げに関わる。2014年、多様な食文化に対応するレストラン情報を発信する「HALAL MEDIA JAPAN」を立ち上げ、フードダイバーシティ株式会社を創業。ハラールにおける国内最大級のトレードショー「HALAL EXPO JAPAN」を4年連続で開催し、国内外の事業者、及びムスリムを2万人以上動員。さらに2017年からはハラールだけでなく、ベジタリアン、ヴィーガン、コーシャ、グルテンフリー、アレルギーなどに事業領域を広げ、全国自治体・行政と連携しながら普及のための講演活動、及び集客のための情報発信を行う。2020年には総理大臣官邸で開催された観光戦略実行推進会議にて、菅総理大臣に食分野における政策を直接提言した。著書に「開国のイノベーション」(株式会社スリースパイス)。
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