商品開発において重要な考え方
こんにちは。食の多様化対応を支援しております、フードダイバーシティ株式会社の守護です。
最近は様々な企業様から「フードダイバーシティ対応における味の方向性」について、お問い合わせをいただくことが増えてきました。具体的には、ハラールやヴィーガン対応をする際に「通常のモノにどれだけ味を近づけるか」という、味の再現性に関するお問い合わせです。
結論、当社としては「会社の戦略により異なります」という回答をさせていただきますが、今回はこの、商品開発において重要な考え方の一つである「味の再現性」について深堀りをしていきます。
※最近は、商品名に「ハラール●●」「ヴィーガン●●」「大豆ミートの●●」と付けたり、認証マークを前面に押し出したりしても、その商品は特定の消費者にしか売れないことを多くの企業が気づき始めています。特定の消費者のみをターゲットにした売り出し方は経済合理性が低いことから、現在多くの企業が「一般消費者・特定の消費者のどちらにも販売する」という戦略に移行してきています。
登る山はどちらですか?
味については、以下二つのアプローチがあると考えています。
・完全再現を目指す
・別の味としての美味しいを目指す
味の「完全再現」を商品のゴールに設定した場合、比較対象は「ホンモノ」です。つまり、ホンモノを100点とした時に、「その味と比べてどうか」が評価軸となるため、減点方式での採点となります。
一方、「別の味として美味しいか」をゴールに設定した場合は、「一料理として美味しいか否か」が評価軸となるため、基本的には加点方式での採点となります。
つまり、その商品を通じて「市場からどのような評価を受けたいか」が味の方針を決める大きな判断軸なのです。具体的な事例を紹介していきます。
事例① 豚不使用のとんこつ味ラーメン?それとも鶏白湯?
一つ目に紹介したいのは、エースコックさんと一幸舎さんの事例です。どちらもとんこつラーメンを主力としている点では共通していますが、それぞれ戦略が異なります。
まずはエースコックさんが2020年5月に発売した「豚ゼロなのにこってり濃厚とんこつ味ラーメン」ですが、こちらの商品は豚を一切使わずにとんこつの味を再現しています。
インターネット上の声を拾ってみると、
「豚を使っていない割にはよくできている」
「とんこつっぽい味がした」
といった概ね好意的な意見が多く挙がっていましたが、比較対象が実際の豚を使用した本物のとんこつになるため、あくまで評価軸は「本物のとんこつラーメンに味が近いか否か」です。
仮にこの商品の名前が「鶏と牛のダブルスープこってり濃厚ラーメン」だった場合、おそらく異なる評価がされていたことでしょう。※残念ながら発売して3か月、2020年7月に終売しています(お客様相談室確認済 03-3982-9518)。
続いては2021年3月にアラブ首長国連邦のシャルジャに新店舗をオープンした一幸舎さんの事例です。一幸舎さんといえばとんこつラーメンが有名ですが、店舗のホームページを見ると「鶏白湯」を推していることが分かります。
元々豚肉を食べることが禁止されているアラブ首長国連邦では、「とんこつの味」を完全再現する形では勝負をしなかったわけです。(そもそも豚肉を食べたことがない人々は「豚肉が使われている本物のとんこつに味が近いかどうか」という評価軸を持ちません)
また、同国に住む豚肉を食べる日本人にとっても、「本物のとんこつと比較して」ではなく、「鶏白湯として美味しいか否か」が基本的な評価軸になります。
同じとんこつラーメンを主力とする会社でも、違う山を登ろうとしていることが分かりますね。
事例② 世界一のヴィーガンレストラン自由が丘「菜道」は完全再現?
東京・自由が丘には「世界一のヴィーガンレストラン」の称号を持つ「菜道」というお店があります。
うなぎ料理、カツ、焼き鳥、ラーメンなど、日本の所謂日常食をヴィーガンの方々向けに作るレストランですが、チーフシェフの楠本氏に話を聞くところによると、見た目は再現性を重視することもあるが、味については「完全再現」することは考えていないとのことでした。
その理由として楠本氏は「様々な工夫をして無理に肉や魚の味を再現しようとするよりも、野菜や穀物の美味しさを最大限に引き出した方が、料理としての完成度が上がる」と話します。
例えば、菜道さんが作るうなぎ料理は「本物のうなぎの味に近いかどうか」よりも、「野菜や穀物で作った、あくまで”別の”うなぎ料理として美味しいこと」を目指して料理を振る舞っているとのことです。
現に菜道さんの店舗レビューに目を向けても、
「ベジタリアンでない方にもおすすめ」
「味も食べごたえも抜群」
「お野菜たっぷり」
という声が多く寄せられており、店として”ホンモノ”と比較するのではなく、一料理としての美味しさを追求していることが分かります。
事例③ 大豆ミートの唐揚げ?それとも旬の茸の唐揚げ?
ヴィーガン系の商品を開発する際、商品名に「大豆ミートの●●」と付ける企業様は多いですが、その時点で世間の人々からは「一般のお肉と比べて美味しいか否か」という評価軸で見られます。
最近では、大豆ミート特有の臭いを消すための調理方法やレシピ等も公開されていますが、その臭いをわざわざ消そうとするくらいなら、そもそも大豆ミートを使わないほうがいいのでは、とも考えられます。
例えば、無理に鶏の唐揚げの味を大豆ミートで再現しようとするよりも、「すだちでさっぱり!旬の茸の唐揚げ」というレシピを売り出したほうが、「一般のお肉と比べて美味しいか否か・味は似ているか」という評価軸から、「一つの料理として美味しいかどうか」という評価軸に移行することができます。
参考記事:大豆ミートが売れにくい3つの理由
弊社の考えとして
「完全再現」か「別の味を持つ料理としての美味しさ」か、そのどちらかを目指すかは「会社の戦略により異なります」と冒頭でもお伝えしました。これは、どちらが正しい・間違っているの話ではなく、何より大切なのはお客様のニーズを捉えることです。
例えば、長年醤油ラーメンにこだわってきたお店が、醤油不使用のラーメンを作ろうとする時、
・醤油を使わずにこれまでの味を再現しようとするのか
・味噌ラーメンや塩ラーメンなどのこれまでとは全く異なる味に挑戦するのか
という二つの選択肢の内どちらを選ぶかを決めるには、お店に足を運んでくれるお客様が何を求めているのかをマーケティングする必要があります。