ベジ・ヴィーガンのトップランナーによる講演 in インバウンドマーケットEXPO 2020

2020年2月18日、インバウンドマーケットEXPO 2020にて「食の新潮流~ベジ・ ヴィーガン対応最前線~ 」と題したパネルディスカッションが行われました。
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<パネリスト>
・日本貿易振興機構(JETRO) 群馬貿易情報センター 所長 柴原 友範氏
・八芳園 取締役専務 総支配人 井上 義則氏
・ベストヴィーガンレストランランキング世界1位「菜道」シェフ、Funfairフードスペシャリスト 楠本 勝三氏

<ファシリテーター>
・フードダイバーシティ 代表取締役社長 守護 影浩
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まずは弊社代表守護から前段としてベジタリアン・ヴィーガンの世界市況、下記のマトリクスを用いた食におけるルール全体感、ベジタリアン・ヴィーガンになる背景、国別のターゲット戦略、世界の具体的な事例などが話されました。


更にMarket Watchによると、代替肉を使用したヴィーガンハンバーガー食べている人の95%は肉食者であることなども伝えられ、ベジタリアン・ヴィーガン対象者以外を取り込む重要性について語られた。

各パネリストのサマリー

◎日本貿易振興機構(JETRO)群馬貿易情報センター 所長 柴原友範氏
JETRO群馬は群馬県産品の輸出促進に取り組んできました。コンニャク芋の95%が群馬県産であることに加え、全国3位以内の生産高を誇る野菜は20品目ほどあります。
しかし、色々なものがあるということはブランディング上は何もないことに等しく、世界に売り込むのは難しい状況。海外の方に馴染みがないものを売るのは難しいと感じ、そこで“モノ”ではなく、“ヴィーガン”という切り口で群馬県産品の魅力を活かそうと、「群馬ヴィーガン・プロジェクト」を立ち上げ、2019年からセミナーなどで群馬県の企業様に向けて啓蒙活動を行ってきました。本プロジェクトでは生産者が持続可能な輸出を実現するために、県内事業者のヴィーガン対応力の引き上げ、海外における群馬県産ヴィーガン食材の認知度の向上を目指しています。海外のヴィーガンレストランのシェフは素材にこだわるので、その土地の風土・歴史・生産者の思いなど、ストーリーのある素材をしっかりと伝えることが重要である。その一方で食材ロスに対してシビアで、小松菜の根を捨てることなどについて厳しい指摘があり、SDGsの観点も忘れてはいけない。実際にこの取り組みから世界的なベジタリアン・ヴィーガンアプリであるHappy Cowにおいて群馬県は登録店舗が0軒から8軒となった。

◎八芳園 取締役専務 総支配人 井上義則氏
これまで結婚式場として運営していましたが2020東京大会の開催決定後、MICE(Meeting・Incentive Travel・Convention・Exhibition/Event)の分野も積極的に受注してきました。世界中から多くのお客様が来られる中でアレルゲンはもちろん、ハラール・ベジタリアン・ヴィーガン・コーシャ等様々なルールに配慮して食事を提供しなければなりません。これに対応するのは本当に大変ですが、まずは手間暇かけてお一人様ずつのルールに対応していくと、その先に効率が生まれ、ノウハウを蓄積することができます。最近ではヴィーガンをベースに仕込みを行い、肉や魚はあくまでも「トッピング」という整理にしたことで大きく効率化を図りました。またベジタリアン・ヴィーガン対応の料理は、付加価値をつけたり、ストーリーを伝えることで単価を上げることができます。単価が上がれば仕入値を上げることができ、生産者の利益にもつながる、持続可能な取組みとなっています。立食パーティでのメニューや原材料の多言語表示が課題でしたが、ソースネクスト株式会社の翻訳機「ポケトーク」のカメラ翻訳機能によって、メニューを多言語で書く手間が省けています。ベジ・ヴィーガンの取組を通して、IT企業を始め様々な異業種交流や自治体間交流などが自然に派生し、イノベーションの根源となっています。ビュッフェで海外の方に人気がないのは、何が入っているのかがわかりにくい「練り物」。失敗事例としてはベジタリアン・ヴィーガンの方に対して、食材原価が低いことに配慮し、一般価格よりも下げた料金を提示したことで、お客様から「お金がなくてベジタリアン・ヴィーガンをやってるわけでない」という指摘を受けたこと。この分野においては自社側で勝手に配慮してはいけないことが分かった。

◎ベストヴィーガンレストランランキング世界1位 「菜道」シェフ、株式会社Funfairフードスペシャリスト 楠本勝三氏
2018年9月に自由が丘にオープンした「菜道」。動物性・乳製品・卵・アルコール・五葷(ネギ、ニラ、ニンニク、ラッキョウ、アサツキ)・MSG(グルタミン酸ナトリウム)不使用の和食のヴィーガンレストランです。理論上はほぼ全ての主義や宗教対応をしています。日本食は外国人の方に人気がありますが、ベジタリアン・ヴィーガン・ムスリムの方は何が使われているのかの表記がほとんどなく、何を食べていいのかわかりません。そもそも日本は「何にでも出汁などで鰹節が入っているんでしょう?」「日本語表記はわかりにくい」と言われています。そこで外国人に人気な居酒屋のメニュー(B級グルメな和食)をヴィーガンスペックで提供することを決めました。例えばおでん。「自分たちは食べられないけど、コンビニなどで見たことがあって食べてみたいと思っていた」というお客様のニーズを現場で拾って、「今度メニューにしておくから、また来てください」というやり取りなどをよくしています。こうした取組の結果、「菜道」はアメリカのベジタリアン・ヴィーガン向けのレストラン検索サイト「Happy Cow」の「Best Vegan Restaurants Worldwide」で、2019年11月に世界約11万軒の登録店の中からランキング1位を獲得しました。世界一になったことで、世界中からのお客様はもちろん、同業者の方やメーカーの方が毎晩お店に来られるようになって色々分析されています。人気メニューである焼きそばなどは皆さん「普通の焼きそばだね」と少しがっかりして帰ります。でも、私は「ヴィーガンスペックで普通の焼きそば」を目指しているので、「普通」が最高評価なわけです。そもそもヴィーガンの方に「普通」を提供したいのです。また、一般的な代替肉である大豆ミートはほとんど使用しません。焼き鳥もかつ丼もうな重も全て違う食材を使っていますが、全て同じでは食べた時につまらないのではないか?と考えています。鶏なら鶏の食感や風味が出るものをと工夫していたら、それぞれの代替肉が異なる食材になりました。食材探して特に注目しているのは地方に眠る乾物などです。日本の地方にある伝統食・食材・技法を掘り起こし、再解釈して現代版の和食にどう落とし込んで世界に発信していくか。こういったストーリーが付加価値になり、利益を生み出しています。

最後に

「本日の皆様のお話から、ベジタリアン・ヴィーガン対応等に取り組む際に、大豆ミートなどの新しい食材ももちろん重要ですが、昔からあるものや地域の伝統的な食材にもヒントがあることが分かりました。更に生産者とのリレーションをしっかりと築き、生産者の顔を見せること、こだわり、食材のストーリーをしっかりと伝えることで料理の付加価値が高まります。更に原価ベースでものを考えてはいけないことも分かりました。そして最も大事なことは、それらを相手の立場に立ちわかりやすく伝える工夫をすることです」。

弊社守護から最後にこのように述べ、セミナーは盛況のうちに幕を閉じました。