日本の食品製造メーカーにおける現状と課題
こんにちは。食の多様化対応を支援しておりますフードダイバーシティ株式会社の守護です。
日本の大手食品製造メーカーは長い歴史を持つ企業が多く、これまでも技術の進化、時代の変化、お客様のニーズの変化に合わせて変遷してきました。その中で、多くの企業がこれまでもハラール対応やヴィーガン対応といった多様化する食の対応に取り組んできましたが、私は今大きな変革期を迎えていると感じています。
例えば、先日ある食品製造メーカーの執行役員よりこのような講演依頼がありました。
「国内事業部の売り上げは、今後日本の人口減とともに縮小します。社内の意識を変えたいので、講演をお願いします。」と。
なぜ、この執行役員はどのような意識を変えたいのか、こちらについて説明していきたいと思います。
国内の現状
フードダイバーシティ株式会社では、大変ありがたいことに創業当初から多くの食品製造メーカーより講演依頼やコンサルティング依頼を頂いています。その中で、これまでも一貫して言い続けていることは「国内スペックと海外スペックという概念は今後なくしていくべき」ということです。
これは一体どういうことか。
現在多くの食品製造メーカーでは、国内流通を目的として国内スペックで作る商品と、海外流通を目的として海外スペックで作る商品は、それぞれ分けて製造しているのが現状です。当然ですが、日本の食品ルールと海外の食品ルールは異なっており、例えば、日本国内の流通では問題がなくても、日本から食品を輸出する場合においては「動物性原材料」が入ると、さまざまな規制で輸出のハードルが上がります。そこで、輸出用の商品は「海外スペック」として動物性原材料を不使用で製造していたりします。
もちろんそれ以外にも世界で販売するためには「ハラール」「ヴィーガン」「コーシャ」等のルールにも配慮する必要があります。
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なぜ弊社が「国内スペックと海外スペックという概念は今後なくしていくべき」と言い続けるのか。
その理由は、携帯電話で考えると分かりやすいのですが、国内スペックでガラケーを作り続けた日本の会社と、世界のマーケットで売ることを考えてスマホを作ったApple社などの現在の立ち位置を見るとよく分かります。
食品に限ったことではなく、日本国内にしか売れないものを作り続けることは、日本の市場縮小とともに売り上げの右肩下がりは避けられません。また国内にはガラケー、海外にはスマホを売るという戦略を立てたとしても、その場合は工場に別ラインを作るので、その分追加でかかるコストはとても大きいものとなります。
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つまり、日本も含めた世界のマーケットで販売することができる商品を一つのラインで作りましょうというシンプルな話です。
例えばイスラム教のハラールについて、日本の食品製造メーカーの多くは「海外スペックの特別商品」として認識していますが、ブラジルやタイなどの食肉製造会社は「(イスラム教徒は世界の1/4なので)世界で流通させるためにハラールは当たり前」と認識しています。この差、とても大きいと感じています。
ちなみに、昨今の食品製造メーカーは「インバウンド用の新商品」として、ハラールやヴィーガン対応の商品を別ラインで作ってきました。私は日本の食品製造メーカーが取るべき戦略は「既存の商品を、国内だけでなく世界でも売れるようにハラールやヴィーガン等に改良する」が正しいと考えています。実際に「インバウンド用の新商品」としてハラールやヴィーガンの商品を作った会社のほとんどが、売り方に躓いて結果を出すことができませんでした。
課題となるのは?
日本の多くの食品製造メーカーは、まだまだ主要な売り上げは日本国内であり、国内事業部の人員がほとんどで、社員の多くが日本人です。また、高度経済成長期に大きな成長を遂げた会社が多く、社内には過去の成功体験がまだ強く残っていて「ガラケーがこれまでも正、スマホは海外事業部に任せています」という会社がほとんどです。
しかし冒頭の話に戻って、執行役員が危機感を感じているのはこの部分です。何が課題となっているのかを具体的に見ていきましょう。
1、今までのルールがこうだから、現状を変更する必要はない
繰り返しですが、日本の市場は今後確実に縮小していきます。短期的視点で競合他社との争いに勝ったとしても、胃袋の数が増えないと市場全体が伸びることはありません。当然、今までのルールがあることはよく理解できるのですが、そのルールができたのかはいつなのか、その時の時代背景はどうだったのかをしっかりと考える必要があります。
電気業界で「ガラケーの売り上げが伸びていたから、スマホを作る必要はない」と判断した未来が今どうなっているのか、見るべきだと思います。
2、もしスペックを変えて味が変わったら、売れなくなる、そしてその責任も負えない
例えば100年前と現在で使用できる食材は全く異なりますし、地球環境も変わっているので、昔はあったけど今はないものもたくさんあります。従って、これまでどんな食品でも少しずつ味などは変わってきています。今一度、その事実にしっかりと向き合い、味が変わることは本当にリスクなのかを考えるべきだと思います。また、使用食材が変わっても味が変えたくないなら、研究開発部がその研究をすべきです。
「ガラケーをスマホにして、スペックが変わったら売れなくなるのか」をしっかりと考える必要があると思います。
3、○○はかくあるべき、▲▲を使わなかったら定義が変わる
例えば「讃岐うどんはイリコを使わないと讃岐うどんと呼ばない」という定義があった場合、そうなると讃岐うどん業界としては、日本からの商品輸出も難しくなるとともに、世界6.3億人のベジタリアン市場を捨てないといけません。しかし、海外で展開する丸亀製麺はイリコを使っていない讃岐うどんを開発して、世界中でビジネスを行い「讃岐うどん」の認知度向上に貢献しています。
「携帯電話とはガラケーであるべき、スマホなんて携帯電話と呼ばない」というのは、食品業界では結構起きていることです。それも老舗の食品製造メーカーほど、それは強いと感じています。
最後に
私は日本国内全ての商品を海外スペックにすべきだとは少しも考えていません。まずは、動物性原材料を使用しなくても大きく味に影響が少ないものがいいと思っております。具体的には、カレー、シチュー、麻婆ソースなど、もともとの味がしっかりとしていて、動物性原材料の構成要素が少ないものからがいいのではないでしょうか。
日本国内だけを見ると、イスラム教徒やベジタリアン・ヴィーガンは大きなマーケットではないのかもしれませんが、世界でイスラム教徒は18億人、ベジタリアン・ヴィーガンは6.3億人、さらに輸出規制では動物性原材料などが使えないことを、全社的にしっかりと学んでいき、今から対策をしていくべきと考えています。
ヴィーガンやハラールに対応すると原材料費が上がるのでは?いえ、全く上がりません。
著者
守護 彰浩(しゅご あきひろ)
フードダイバーシティ株式会社 代表取締役
流通経済大学非常勤講師
1983年石川県生まれ。千葉大学卒業。2006年に世界一周を経験後、2007年楽天株式会社に入社し、食品分野を中心に様々な新規事業の立ち上げに関わる。2014年、多様な食文化に対応するレストラン情報を発信する「HALAL MEDIA JAPAN」を立ち上げ、フードダイバーシティ株式会社を創業。ハラールにおける国内最大級のトレードショー「HALAL EXPO JAPAN」を4年連続で開催し、国内外の事業者、及びムスリムを2万人以上動員。さらに2017年からはハラールだけでなく、ベジタリアン、ヴィーガン、コーシャ、グルテンフリー、アレルギーなどに事業領域を広げ、全国自治体・行政と連携しながら普及のための講演活動、及び集客のための情報発信を行う。2020年には総理大臣官邸で開催された観光戦略実行推進会議にて、菅総理大臣に食分野における政策を直接提言した。著書に「開国のイノベーション」(株式会社スリースパイス)。
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