前編はこちら。
2.普段の食事
「外食はできるの?」「家でもカレーとかケバブばかり食べてるの?」
この2つは、私が「何が食べられないの?」の次に、聞かれることが多い質問です。ムスリムは、食事が制限されているイメージが強いからか、普段の食事に関する質問をよく受けます。在日ムスリムの中でも答えはバラバラでしょうが、私自身の経験から答えていきたいと思います。
まず、「外食はできるの?」という質問です。
上で述べたように、ハラームな食品以外は食べることができます。そのため、私は、「お寿司もパスタもパンもうどんも、原材料によっては食べられるから、外食できるよ。」と答えています。
例えば、回転寿司に行くとき、魚介は基本的にOKなので、問題はシャリと醤油になります。私たち家族は、シャリで用いる寿司酢の中にアルコールを使用している、と明記されていない限りOKとしています。
以前、それまで行っていた回転寿司に、新しく「シャリにアルコールを使用しています」という張り紙がされていて、その後行けなくなったことがありました。きっと、お店側がアルコールの使用有無に関する質問を受けて、このように情報を公開してくれたのだろうと思います。
ムスリムは、飲食店が公開してくださる情報によって、ハラールかハラームかを判断するので、これは有難いです。個人的には、その回転寿司のおいしい寿司が食べられなくなって、少し残念な部分もありました。もう1つの問題は醤油ですが、アルコールが含まれていることが多いため、ハラールの持ち運べるミニボトルの醤油を持参しています。
ハラールのミニボトル醤油
また、パスタやパン、うどんが食べたいときは、事前にお店のHPや電話で原材料を確認しています。原材料については、許容範囲が人それぞれです。私たちは主に、パスタだとお肉やアルコールの使用有無、パンだと動物性ショートニングの使用有無、うどんだと出汁におけるアルコールの使用有無を調べています。お店によっては、ベーコンやハム、アルコールを取り除いて作ってくださるところもあります。ただ、飲食店や商品を購入する際に、お肉の使用有無を尋ねることが多いため「ムスリム=ベジタリアン」だと誤解されることがあります。
私たちは、ハラールマークのついているお肉なら食べられるので、ベジタリアンではありません。日本で流通しているお肉の大部分がハラームなため、私たちは飲食店ではお肉を避けている、というわけです。逆に、私の周りの在日ムスリムはお肉好きな方が多く、家ではお肉料理がメインとなっています。
チェーン店においては、アレルゲン情報をのせている飲食店も多く、牛肉、鶏肉、豚肉、ゼラチンの有無は簡単に確認でき、ハラールかを判断する参考にしています。他にも、最近は、ベジタリアンやヴィーガン対応している飲食店も増えてきて、こうしたお店ではアルコールにだけ気を付ければいいので、気持ちが楽です。ただ、私の住んでいる地域にあるヴィーガン対応のお店は、他のお店と比べて値段が高いため、友人を誘いづらいという面もあります。
次に、「家でもカレーとかケバブばかり食べてるの?」という質問です。
これは、私のルーツも影響を与えているのかなと思います。私は、パキスタン人の父と日本人の母をもつミックスなので、余計にカレーなどの中東料理を連想させてしまうのかもしれません。
私自身の答えとしては、「普段は日本食を食べているよ。」です。日本で生まれ育ったからなのか、私はお米が大好きで、家では基本的に日本食です。ただ、父は、1日に1回はカレーを食べないと食事をした気にならないらしく、夕食にはカレーと日本食が両方並んでいます。周りのミックスの方たちも同様に、1日に1食カレーを食べるかどうか、という頻度です。
一方、純パキスタン人(両親がどちらもパキスタン人のこと)の方々だと、2つのタイプに分かれます。1つは、パキスタン料理以外に触れてこなかったことで、毎日カレーを中心に食べているタイプです。こちらは、日本語が分からないことが大きな要因になっていると感じます。商品の情報を知りたくても、日本語で書かれているため、ハラールかどうかを判断できず、結局普段の食べ物に落ち着くからです。ただし、最近は、業務スーパーなどでハラールマークの付いた商品が売られているため、日本語の分からないムスリムにとっては、安心して買える数少ない商品となっています。
もう1つは、パキスタン料理も食べるが、それ以外のパスタやお米も積極的に食べるタイプです。こちらは、若い世代に多い感じがします。純パキスタン人の親を持ちながらも、日本で教育を受けたり、自ら学んだりして、日本語が話せる方が多いです。こうした方々は、日本人の友人がいて日本食と触れ合う機会も多いため、前者のタイプと比べて、ハラールを見つけやすいです。中には、お寿司やみそ汁、納豆まで好きな方もいて、驚かされます。
面白いなと思うのが、純パキスタン人の方が作るパスタやマカロニ、コロッケ、スープなど大体すべてのお料理に、少なからずのスパイスが入っていることです。自分たち好みに味をアレンジしていて、それはそれでとてもおいしいです。
このように、在日ムスリムはハラールを見つけることさえできれば、外食をし、普段の食事にも様々な料理を取り入れています。日本食を好きな方も多く、母に「これどうやって作るの?」と尋ねてくることもあります。中東料理だけがハラールなのではなく、洋食にも和食にもイタリアンにも、原材料によっては食べられる料理があるということです。
3.おわりに
ムスリムは、都会に行くとよく見かけますが、地方ではまだ目立つような存在であるため、日本人の方からするとミステリアスな部分が多いのかなと思います。
私自身、ヒジャブのことや食事のことについて、小学生のときから様々な人に質問をされてきました。幼いときは、恥ずかしかったり、異質な人だと思われないかなと怖くなったりして、答えるのに躊躇することが多かったです。しかし、説明してみると、周りの友人は自分を理解してくれました。
例えば、お土産を買ってくるときやバレンタインのチョコを手作りするときに「これが、食べられないんだよね。」「これなら大丈夫?」などと確認してくれて、私も安心して食べられるようになりました。こうした経験を踏まえて、今回、在日ムスリムの食事についての記事を書かせていただきました。
この記事が、在日ムスリムの食事についてよく分からなかったことや知りたかったことを解決するきっかけになれば幸いです。また、在日ムスリムに対して少しでも身近なイメージを感じていただければ嬉しいです。
最後に、ここまで読んでくださり、ありがとうございました。