大学生が自ら考え、自ら動き、自ら形に

はじめまして。6月半ばからフードダイバーシティ株式会社でインターンをさせて頂いております、東洋大学国際学部の木村天音です。

私がインターンとして活動を行った「学食プロジェクト」について紹介させて頂きたく本記事を書いております。

 学食プロジェクト

この学食プロジェクトとは早稲田大学学食研究会が行っている「学食ランキング」で2年連続1位を獲得し殿堂入りを果たし日本一の学生食堂と謳われている東洋大学の学食を、スーパーグローバル大学に採択されている大学の学食を「全ての学生が食事を楽しめる学食にしたい」という私の願いから始めたピクトグラム付きオンラインメニューの導入のことです。

私がこの活動を行うに当たった根底にあるものは、私が「食は世界共通、食こそが世界共通語」であると考えているからです。中学・高校時代に私はホームステイホストとしてたくさんの海外留学生を家に迎え入れ何度も一緒に食事をしてきました。国籍も目の色も使う言葉も異なるけれど、食事を共にすることで、同じ時間を共有することで会話が増えて笑顔も増える。当時の私は英語力が乏しく流暢な会話をすることはできませんでしたが、食事の時間が一番彼女らと繋がれていると思えた、とても楽しく幸せな時間でした。そしてこの経験から世界の物事に強く惹かれ現在国際学部で勉学に励んでいます。

東洋大学には国籍・人種・宗教など異なる文化・習慣を持った世界中の留学生が学びにやってきています。彼・彼女らの中にはハラール・ベジタリアン・ヴィーガンなどの学生もいます。もちろん留学生に関わらず様々な宗教を信仰している学生やアレルギーを持った日本学生は多く在籍しています。

そんな食の禁忌のある学生も学食で同じ食事・メニューを楽しんで欲しい、一緒に楽しみたい。食の禁忌のない学生にとっても、より利用しやすい学食にアップデートして食事をする幸せ・共有する幸せをもっと感じてほしい。

と留学生をサポートするボランティアの活動や、ムスリム研究ゼミでムスリムの方との交流を通して強く思うようになり、アクションに起こすまでに至りました。

学食に関するアンケート

活動を始めるに当たってまず行ったことは「学食に関するアンケート」の実施です。学生が学食に対してどんなイメージを持っているのか、学食を利用する理由・しない理由は何なのか、もっと利用したいと思える学食はどのようなものなのか等リアルな学生の声を集めました。

対象は留学生を含む全東洋学生で、集計期間は7月上旬から約2週間、日本語版と英語版の2つで実施しました。私のSNSアカウントでのアナウンスや、履修している授業の先生に宣伝して頂いたため国際学部の学生に回答が偏ってしまいましたが、102人の学生から回答を頂くことができました。

質問内容は

・学年
・性別
・学食テナントの利用頻度
・利用する理由(利用回数が週4回以上の方)
・利用しない理由(利用回数が週2回以下の方)
・昼食の取り方(利用回数が週2回以下の方)
・価格は良心的か
・ボリュームは十分か
・料理はおいしいか
・栄養バランスは取られているか
・野菜を使用したメニューは充実しているか
・学食はアレルギーや宗教を持つ人々に対応できているか
・どのようなメニューがあると嬉しいか
・自由記入欄

以上の15問です。

このアンケートからわかった、学生が求める理想の学食像をまとめると

①リーズナブルで美味しい料理を食べられる学食
②待ち時間が少なくゆっくり食事ができる学食
③ムスリム学生にも優しい学食

ということでした。

提案・理想とできること

この結果を私なりにかみ砕いて理想に近づけるアイデアを考え、学食を管理している学生部と料理を提供しているテナントに「学食プロジェクト」の話をしに行きました。

最初に学生部の窓口に話にいった時はあまりいい反応をもらえず「後ほどメールで連絡します」と言われたまま1週間何もありませんでした。しかし、時間をかけて考えプレゼン資料まで作ったまま終われないので、その後も何度か通い、学生課の担当職員とオムライスが人気の東京食堂さんにプレゼンさせて頂ける機会を頂きました。

そこで私がした提案は:

①量を減らして価格を下げて販売すること
②6号館地下の教室に学食トレイの持ち込み可能に
③ピクトグラム付きメニューの使用義務化

の3つです。

プレゼンを行った結果は:

① 量を減らして価格を下げて販売すること

これはシンプルに「安くて美味しい」を求めている学生の願いを叶えるために提案しましたが、今の社会状況では難しいとのことで実現は叶いませんでした。

学生課もテナントも「安くて美味しい」にニーズがあることは重々承知でしたが、円安やロシア・ウクライナ情勢の悪化により学食運営も厳しく、今の価格を維持すること自体頑張っているとの返答でした。これに関しては私がどうにかできることではありませんでした。

② 6号館地下の教室に学食トレイの持ち込み可能に

これもシンプルに利用可能人数を増やすことを目的に提案しました。しかし「教室は基本的には飲食禁止で教室でお弁当を食べることすらグレーゾーン」と言われ、実現することは出来ませんでした。

白山キャンパスに通学している学生数は約2万人に対して、飲食ができる学食スペースは6号館・8号館・3号館を合わせても3000席程度。教室で飲食ができない?何馬鹿なことを?というのが本音です。しかし、ルール上はそうなっているらしいので学校側が大々的に「教室で飲食していいよ!」ということはできないとのことでした。。。

教室でお弁当を食べている学生を見かけても注意はしていないようなグレーゾーンで、、、。あくまでも「教室は勉強をする所」それが学校側の主張でした。

白山キャンパスはビル型キャンパスで敷地も広くないのですが学生数に合わせた飲食スペースの設置は早急に対応が必要な課題だと思います。

③ ピクトグラム付きメニューの使用義務化

これが私が実際に行動に移すことのできた唯一の提案アイデアです。食の禁忌をもつ学生へのバリアフリー化を目的に提案しました。

最初はハラール対応メニューの販売を提案しようと思っていたのですが、窓口に話をしに行った時チラッと話したら「常時販売は難しい」とバッサリ切られてしまいました。そのため学校もテナントも抵抗なく直ぐに取り組めそうなピクトグラムの使用に切り替えて提案をしました。

それまでの食の禁忌の方への学校側の対応は「アレルギー等原材料の把握をしている」と書かれた張り紙がされているだけでした。

ごった返している昼休みの学食で、注文する前に列に並んでスタッフに「〇〇には何が使われてますか?」なんて聞けるはずありません。

知り合いのムスリム学生に話を聞きましたが、「忙しいのに材料だけ聞きに行くのは気が引ける」と話をしていました。

実際の写真はこちらです。

(実際の写真)写真1 東洋大学6号館地下学食 張り紙

そして続けて「メニューに書かれていれば自分たちで判断できる」「新しくメニューが追加されなくても、材料が分かるだけで食べられるものってあると思うんだよね」と教えてくれました。

それを受けて私は特定アレルゲン7品目「エビ・カニ・小麦・蕎麦・卵・乳・落花生」にハラール・ベジタリアンの識別に必要な「牛・豚・鶏・羊・魚・貝・アルコール」の表示を加えたピクトグラムをメニューに付け加え、英語対応も行いメニューボードと大学HPで確認できるようにしたいと伝えました。

この提案に対する反応は良く、学生課は「こういった対応が必要とされているのは理解はしていた。けれどどう対応すればいいのか分からなかった」と、テナント側は「メニュー考案は難しいけど、ピクトグラム表示なら」と承諾頂けました。

ピクトグラムの作成に当たって

そしてここから学生課・テナント・私の三者でピクトグラム表示の準備に取り掛かり始めました。ピクトグラム表示をするに当たって最初に行ったことはメニューに使われている材料の整理です。東京食堂さんに定番メニュー4品の特定アレルギー7品目と肉・魚・貝・アルコールの使用不使用をExcelの表にまとめて頂きました。

実際の表がこちらです。

表1 東京食堂定番メニュー成分表

使用しているモノには〇、使用していないモノには×を記入してもらいピクトグラム作成の土台を作りました。

表作成に当たって注意しなければならない点は、使用されている肉はハラール屠殺が施された肉かどうかということです。

イスラム教の方が豚肉を食べてはいけない、お酒を飲んではいけない、アルコールを含んだ調味料を使用することができないということは何となく知っている方は多いのではないかと思います。

しかし、イスラム教の方は豚肉以外の肉であっても、ハラール屠殺というイスラム教徒と経典の民(キリスト教・ユダヤ教)が屠った肉しか口にすることができないのです。

そのため豚肉を使用していないからといって必ずしも食べられるわけではありません。

この問題を解決するために、商品規格書を確認していただきました。この問題を解決するために、商品規格書を確認していただきました。「パッケージにハラール認証が載っていなくても、ハラールという文字がなくても、実はハラール肉というのは結構存在する。商品規格書には記載されている。」と横山さんに教えて頂いたため、東京食堂さんにお願いしました。日本で流通しているオーストラリア産の牛肉の多くがハラール対応だったり、ブラジル・タイ産の鶏肉の多くもハラール対応だったりするそうです。「知らないだけで意外と身近にあるものなんだ」と私も初めて知ったことでした。

東京食堂で使用している牛肉・鶏肉はハラール対応ではありませんでしたが、この細かいところまでの調査・表示が禁忌のある人に取って大切な情報となるのです。

ハラール屠殺について詳しく知りたい場合はネットに多くの記事があるので調べて見てください。

オンライン化について

使用材料の整理が終わったらピクトグラムメニューの作成に取り掛かりました。

始めは以前から使用しているメニューボードにピクトグラムのシールを作成して貼り付ける形にしようと考えていました。貼って剥がせる仕様にすれば今後メニュー変更があっても簡単に管理ができるだろうと思っていました。しかし、シュミレーションをしてみた結果、シールをメニューボードに貼り付けるとボードの情報量が多くなりすぎてしまい、見にくくなってしまう、何を伝えたいボードなのか分からなくなるという問題が発生することに気が付きました。

そこで使用しようと思ったものがオンラインメニューです。

最近どこでもQRコードを読み込むことで自分のスマホでメニューを確認でき、注文ができる形が多く採用されています。オンライン上で表示することができれば、メニューボードが情報で溢れることもなく、分かりやすいメニューを提供できる。またオンラインにすることで食の禁忌を持たない人もいつでもどこでもメニューを確認でき、メニューを決めるために列を作らず昼休みを有意義に使えることができるメリットがあると思い、新たにオンラインメニューの提案を行いました。

オンライン化にすることは承諾して頂きましたが、専用アプリの使用には抵抗があるとのことだったので、メニューPDF、QRコードも自作する運びとなりました。

PDF作成について

メニューPDFは日本語版と英語版の2パターンで作成しました。この英語版メニューの作成も東洋大学学食内では初めての取り組みです。留学生が多い学校なのに今まで日本語表記しかなかったんです、、、。Google翻訳でメニューを撮影している留学生を何度見たことか、、、。

実際私が作成したメニューはこちらです。

写真2,3 東京食堂オンラインメニュー 日本語・英語

※全てのメニューはこちらから確認できます。
https://www.toyo.ac.jp/academics/student-support/support/cafeteria/hakusan/

見やすい、分かりやすいように作成しました。

英語版に関しては日本語をそのまま英語に訳してもどんなものか伝わらないだろうな、、と思ったものは私なりの解釈で変換しました。

英語でメニューを作成するどころか、メニューを作成すること自体初めてなので、どんな表現を使えば味を想像してもらえるかを考えることがとても難しかったです、、、。

メニューPDF作成後、学生課にPDFは東洋大学HP学生食堂ページに載せて頂き、そのページへ遷移するQRも作成頂きました。

QRコードの作成等私が技術・知識的に足りないところは学生課の担当者さんに助けてもらっています。私の本気に向き合って頂けて本当にありがたいです。

ポスター・これからについて

利用まであと一歩まできたところで、学生にアナウンスを行うためのポスター作成に取り掛かりました。

ポスター作成は学食でフードロス削減運動をしている公認環境系サークル「cueco」に協力頂き作成しました。

写真3 ピクトグラム付きオンラインメニューポスター

このように分かりやすく、目を引くポスターを作ることができました。

cuecoさんには私が11月から1年間タイへ交換留学している間・卒業後もこのプロジェクトを継続していけるように、これから一緒に活動していくことになっています。何度もポスターを作成したり、テナントさんに交渉していただいたりと、とても心強いです。

今後は白山キャンパス全学食・テナント(8号館・3号館地下学食)のメニューもピクトグラム付きオンラインメニューを導入するために活動していきます。

ピクトグラム付きオンラインメニューは2022年11月3日から利用開始です!!

以上が私が行った「学食プロジェクト」の軌跡です。

この活動を通して食についてじっくり考えることができました。

「食事が単なる栄養補給になってはいけない」

食は生きるために必要な行動です。しかし、ただ空腹を満たすだけの行動にしてはいけない、食事は空腹と一緒に心も満たす時間であるべきだとより強く思うようになりました。食べたいモノを食べられる、他の人と同じものを食べられる、おいしさを共有できる。当たり前のようで当たり前にできるものではありません。

ハラール・アレルギー・ベジタリアン・ヴィーガン、、、食に対する価値観はそれぞれ違うけれど、その人たちにも食を楽しむ権利があります。美味しい食事を大切な人と共有する権利があります。

人の数だけ異なる考え方が存在・発生するグローバルな世界です。そのため理解できない部分が出てきてしまうことは仕方のないことだと思います。ですが、それを他人事だと線引せず、多様な価値観を持った人がいることを理解し「どうしたら一緒に食事を楽しめるか」を考えることが「全ての人が食を楽しめる社会」を作る第一歩になると、私は心から確信することができました。できるようになりました。

私はイスラム教徒でなければ、ベジタリアン・ヴィーガンの価値観も持っていないし、ましてや食物アレルギーも持っていません。今まで食で困ったことはないし、悲しい思いをしたこともありません。日常的に「食の禁忌」という側面から食を考えたこともほとんどありません。

そのためフードダイバーシティ大学の動画や毎週月曜の横山さんとのMTGで様々な情報を新たにインプットしました。興味のある内容なのでずっとワクワクしながら知識を得ることができました。そして提案を考えたり、大人に向けて話をしたり、見やすいメニューの構成を考えたり、慣れないことに苦戦することも多くありましたが、学生課へのアプローチ方法、メニュー・ポスターの作成等実践的なこともアドバイスをして頂いたおかげでこの活動を行うことができました。

今は自分の考えたアイデアを形にすることが出来たこと、学生課がこのプロジェクトを機に学食のダイバーシティ化に乗り出してくれたことに大きな達成感と喜びを感じています。

まだ動き始めたばかりの活動で手探りな所は多々ありますが、これからはcuecoの力も借りながら「全ての学生が食事を楽しめる学食」を目指して励んでいきます。

学生・教職員以外もキャンパスに入構出来るようになりましたら、オンラインメニューと日本一の学食を味わいに是非東洋大学へお越しください。お待ちしております。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。