イスラムの聖地メッカでも環境問題が注目! 〜Green Hajj(地球にやさしい巡礼)とは?〜

イスラム諸国と環境問題

近年、環境問題への解決や持続可能な取り組みが世界中で謳われています。日本でも2030年までの二酸化炭素排出量削減目標を2013年度比46%減とする新目標を発表しました。そのような世界トレンドの中、イスラム諸国の現在地を見てみましょう。グローバルノート社が発表する環境パフォーマンス指数(EPI)からイスラム諸国のランキングをまとめました。

対象国:世界180カ国

12位 日本
42位 アラブ首長国連邦
46位 ブルネイ
68位 マレーシア
88位 ウズベキスタン
90位 サウジアラビア
94位 エジプト
99位 トルコ
106位 イラク
116位 インドネシア
122位 カタール
142位 パキスタン
162位 バングラデシュ
178位 アフガニスタン

上記のランキングは、国の経済状況や主要産業と密接に関係していますが、人口が約1000万人のアラブ首長国連邦、45万人のブルネイを除き、多くのイスラム諸国が中央値から後半に位置していることがわかります。しかし、サウジアラビアのムハンマド皇太子が「2060年までに温室効果ガスの排出ゼロ」を発表していることから、世界規模の環境問題への意識は高まっているようです。マレーシアでも「2030年までに世界のメタン排出量を2020年比で3割削減」を掲げています。

ハッジとは?

ハッジとは、イスラム教におけるメッカ巡礼であり、ヒジュラ暦(=イスラム暦)における巡礼月の8日から10日の間に行われる儀式に参加する宗教実践のことを指します。
このハッジは、健康的かつ経済的に可能であるイスラム教徒は人生で1回は行うことが義務であり、五行六信の「五行」の一つとされています。日本に暮らす多くのイスラム教徒も日本で稼いだお金を自分や自国の家族のハッジのために費用として充てています。

大手旅行代理店H.I.Sでは、日本で増加している外国人イスラム教徒、改宗した日本人イスラム教徒を対象に、日本からのハッジ旅行パッケージを販売するなど、近年日本でも注目を浴びています。

ハッジにおける環境問題と「Green Hajj」の登場

イスラム教徒としての義務行為であることから、毎年巡礼月には世界中から200万〜250万人のイスラム教徒がメッカに集結します。近年、ハッジに伴う環境問題も注目されています。世界中で気温上昇が叫ばれていますが、このメッカ市もこの30年間で2度も気温が上昇しているのです。また、巡礼が行われる聖地メッカではハッジの期間中である10日間で4万トンのゴミが捨てられています。つまり、毎日4,000トンのゴミが捨てられていることになります。

サウジアラビア政府およびメッカ市は、このゴミ問題を死活問題として捉え、最新テクノロジーの活用、国民の公衆衛生に関する教育プログラムを実施したりしています。
日本からのハッジ団体が、ゴミ袋を持って清掃活動を行っている姿はSNSで広がり、たちまち世界で賞賛を浴びることとなったことも皆さんの記憶に新しいかもしれません。

日本からのハッジ団体がゴミ拾いをする様子 (Twitterより)

そのような環境への意識が高まる中、2021年7月には国際連合環境計画がイギリスのGlobal One社が提唱した「Green Hajj(地球にやさしい巡礼)」を紹介しています。
Green Hajjとは、環境保護と関連づけたイスラムの教えを巡礼で応用することを指しています。このGreen Hajjのガイドには巡礼に向かい出国前、目的地へ到着した時、巡礼終了後の3つの時系列で環境へ配慮すべきチェックリストがまとめられています。では、具体的にどのようなものか見てみましょう。

巡礼へ向かう出国前

・Green Hajjに関するセミナーやワークショップに出席すること
・マイボトル、マイ食器、エコバックを持参すること
・宿泊先や旅行代理店のサステナビリティに関する信頼性があるか確認すること

目的地へ到着した時

・団体で目的地へ回ること。ディーゼル及びガソリン車・バスでの移動を控えること。巡礼の目的地へ地下鉄を使うこと。メッカ・マディーナ間は高速列車を利用すること。可能な範囲は徒歩で移動すること。
・車を使用しなければならない時は、電気自動車を活用すること
・イフラム(巡礼の時に纏う布)は、再利用のもの、可能であればフェアトレードで仕入れたものを使用する
・必要な分だけを購入し、消費すること。プラスチックで包装された食べ物・飲み物は避けること
・食事のお持ち帰り用容器を事前に準備し利用すること
・時期にあった、オーガニックで地のものを選ぶこと
・ウドゥー(お清め)の水は最小限にすること。ペットボトルは避け、マイボトルを持参すること
・ポイ捨てせず、ゴミはゴミ箱へ捨てること
・犠牲祭の時は、ひと家族につき一匹の動物を犠牲とすることを検討すること
・電気の使用は最小限にすること。電気を使用しない場合は、電源を切ること。太陽光携帯充電器や太陽光ランプなどの電力節約を図ること

移動手段は自転車を活用(ISLAMTICSより)

巡礼終了後

・巡礼地への植樹または自宅での植樹を検討すること。在来種を選ぶこと
・消費習慣を減らすこと。できるだけ新しいものを買わずに再利用やリサイクルをすること。これは精神的かつ環境的にも有益なスンナ(推奨行為)です。
・衝動買いや浪費を控え、サスティナブルな消費を心がけること
・紙などの分解可能なエコバックを利用すること
・天然素材を使用した衣服を選ぶこと。ポリエステルやナイロンなどの人工素材は避けること。
・可能な限り太陽光デバイスなどを使うこと。
・巡礼で学んだ控えめで持続可能なライフスタイルを残りの人生でも継続すること
・Green Hajjのメッセージ性を周知すること

マディーナで植樹する様子

参考:イードとは? https://youtu.be/8G0Juyl3X-k

イスラムにおける環境へのメッセージ性

このGreen Hajjのガイドブックには以下のようにクルアーンを引用してイスラムにおけるムスリムの環境への責任を説いています。

「本当にわれ(アッラー)は、地上に継承者を置こう」(聖クルアーン 日亜対訳注解 キングファハド クルアーン印刷コンプレックス版)

つまり、ムスリムはこの地球の継承者であり、神様によって信頼を与えられています。従って、私たちはこのように地球上の自然秩序を守り、適切な資源分配に徹しなければなりません。

聖クルアーン 日亜対訳注解 キングファハド クルアーン印刷コンプレックス版
https://epub.qurancomplex.gov.sa/issues/translations/japanese/

このようにイスラム社会の間でも環境問題への意識が高まり、このような取り組みが散見されるようになってきています。例えば、世界最大のムスリム人口を誇るインドネシアでも環境保護や森林保全に関するデモが頻繁に行われています。

一方、ライフスタイルという観点で見ると、
アラブ首長国連邦では、これまでイスラムの休日である金曜日と日曜日が休日でしたが、2021年からは金曜日は半休、土曜日を全休とする週4日半労働が採用される見込みです。

このようにイスラム諸国・社会も従来の宗教的または伝統的な制度を時代の流れ、社会の急激な変化に合わせる必要性が出てきたと言えるかもしれません。

Green Hajj
https://greenhajj.org/wp-content/uploads/2021/07/The-Green-Guide-for-Hajj-Umrah_Low-Resolution.pdf
国際連合環境計画
https://www.unep.org/events/publication-launch/launch-green-guide-and-app-hajj-and-umrah