「言われたことがない=ニーズがない」は本当?
食の多様化を支援するフードダイバーシティ株式会社の守護です。
最近、飲食店様やホテル様とお話しさせてもらう際「ベジタリアン・ヴィーガンは現場で言われるけど、ハラールは言われたことがないので、今のところニーズはないです」という声を聞きます。
こちらについてどのように考えるべきなのでしょうか。
まず一つの事例として、今年から大阪でハラール対応を始めたあるお店には、すでに多くのムスリムのお客様が訪れ、瞬く間に人気店となりました。しかしながら、そのお店の創業は約30年ほどですが、これまで「ハラールメニューはありますか?」というお客様からの要望は一度もなかったとのことです。
そのお店の経営者は「お客様の声は当然重要で、これまでもずっと真摯に向き合ってきた。しかし、ハラール対応を始めてみるとムスリムのお客様の売上はあまりにも大きく、声になっていないニーズがこれほどまでに大きかったとは始める前は思いもしなかった。」と仰っていました。
ムスリムの方々の意見として
ここで、ムスリムの方々の声も聞いてみます。なぜ「ハラールメニューはありますか?」とお店に聞かないのか。
・「日本ではお店に”ハラールはありますか?”といっても基本は通じないので、旅行先で食べるところは”Halal Gourmet Japan”やGoogleなどで事前に下調べをしっかりとします。」(30代 マレーシア)
・「日本でハラールはインドカレーやケバブなどのことと認識しているケースが多いので、聞くことは基本的にはありません。日本に来たらハラールの日本食を食べたいので。」(40代 インドネシア)
・「どのメニューに豚が入っていないのかを知りたいだけなのに、ヒジャブをつけているだけで”No Halal Menu”と言われたり、”ハラール=ハラール認証”と認識しているお店が多く、そもそも会話にならない。」(30代 シンガポール)
さまざまな誤解も多くありますが、こちらが声を上げない理由のようです。
逆の立場で考える
ただ、これは逆の立場で考えてみるととても分かりやすいのではないでしょうか。
例えば、日本人で小麦アレルギーの方がイタリア旅行中に本場のピザを食べたいときに、選択肢は基本的に3つだと思います。
①イタリア語で小麦アレルギーであることを伝えて、お店と交渉する
②事前に下調べをして、小麦不使用のメニューがあるお店を選ぶ
③ピザを食べるのは諦める
おそらく①を選択する方はほとんどいなくて、②か③を選択する方が大半だと思います。そうです。つまりお店側としたら「小麦アレルギーの対応はお店で言われたことがない」となります。
「ニーズがない」と見るか、「お店としてニーズが拾えていない」と見るか。今後大きな差になっていくと感じています。
著者
守護 彰浩(しゅご あきひろ)
フードダイバーシティ株式会社 代表取締役
流通経済大学非常勤講師
1983年石川県生まれ。千葉大学卒業。2006年に世界一周を経験後、2007年楽天株式会社に入社し、食品分野を中心に様々な新規事業の立ち上げに関わる。2014年、多様な食文化に対応するレストラン情報を発信する「HALAL MEDIA JAPAN」を立ち上げ、フードダイバーシティ株式会社を創業。ハラールにおける国内最大級のトレードショー「HALAL EXPO JAPAN」を4年連続で開催し、国内外の事業者、及びムスリムを2万人以上動員。さらに2017年からはハラールだけでなく、ベジタリアン、ヴィーガン、コーシャ、グルテンフリー、アレルギーなどに事業領域を広げ、全国自治体・行政と連携しながら普及のための講演活動、及び集客のための情報発信を行う。2020年には総理大臣官邸で開催された観光戦略実行推進会議にて、菅総理大臣に食分野における政策を直接提言した。著書に「開国のイノベーション」(株式会社スリースパイス)。
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