2018年10月19日

28日から2日間にわたって、インドのモディ首相が訪日しました。安倍首相との首脳会談は通算12度目で、安全保障や経済分野に関する政策が協議されたほか、南アジア地域での連携についても突っ込んだ話し合われました。今月は「モディノミクス」で高い経済成長を続けるインドを考察します。

求められるインド系経営者

 近年、世界の経済界ではインド系ビジネスマンの活躍が際立っています。米国の上位500社のリスト「フォーチュン500」入りした企業のCEO(最高経営責任者)の30%、最先端IT企業の10%、米シリコンバレーのエンジニアの3人に1人はインド系といった具合です。彼らの多くは在外インド人として外国に居住していますが、ここではインド系と称することにします。
 有名なところでも、グーグルのスンダー・ピチャイ氏、マイクロソフトのサティア・ナデラ氏、マスターカードのアジャイ・バンガ氏、ドイツ銀行のアンシュ・ジェイン氏など枚挙に暇がありません。さすがにゼロを発見した国だからか、ITや金融に強いイメージそのままのCEOばかりです。大学で工学を学んだ後に大学院で経営学を修めるケースが多く、エンジニアリングとマネジメント両方の専門領域に強いという特徴があります。
 そうした人財を輩出するインド国内の有名大学は、グローバル企業にとって重要なリクルーティング先になっています。IIT(インド工科大学)はその代表格で、米オラクル社がIITの学生に対して約4,000万円の初任給をオファーしたと話題になりました。日本でも中国・華為技術(ファーウェイ)が日本の大学卒者を月給40万円で募集したことがニュースになりましたが、IT人財に対する報酬が世界的に高騰していることがうかがえます。

2050年には二つの宗教で世界一に

 「インドは2050年までにヒンドゥー教とイスラム教、それぞれの世界最大国になる」というレポート(*1)が15年に発表されました。現時点でのイスラム教徒数が世界1位のインドネシアと2位のパキスタンをあと数十年で抜くというのです。インドは現在、人口13億人のうちの10億人がヒンドゥー教徒、イスラム教徒が2億人弱がイスラム教ですが、イスラム教徒の急増ぶりが垣間見えるデータがあります。

 上のチャートはインド人に人気の旅行先トップ10です。サウジアラビアが断トツというのは意外ではないでしょうか。同国への旅行者数は12年時点で100万人を超えており、記録が確認できる12年から昨年まで6年連続で首位に立っています。サウジアラビア以外のクェート、バーレーン、マレーシア、インドネシアといったイスラム諸国への渡航が多いのは、イスラム教徒のインド人が多いからかもしれません。
 さて訪日インド人客ですが、17年は約13万人でした(*2)。ビザ(査証)が緩和されたのが今年1月ですので、目に見えて増えてくるのはこれからでしょう。13万人というのは、13年の訪日インドネシア人客数(約13.7万人)程度ですので、今では各地でインドネシア人客を見かけるように、今後数年以内にはインド人客を見かけるのも珍しくなくなるかもしれません。

ベジタリアンだけではなくハラールも

 ヒンドゥー教徒は菜食主義で、肉食を忌避することが知られています。肉を食べない代わりに豆と牛乳を多く摂取するのがインド人ベジタリアンの特徴ですが、イスラム教徒も増えていることから、今後はハラール対応のニーズも増えてくると予想されます。実際、先日当社にも「訪日インド人グループ20人。ヒンドゥー教徒15人、イスラム教徒4人、ジャイナ教徒1人に対する食事対応のアドバイスを」といった相談がありました。この時は最も制限があるジャイナ教徒向けの根菜なしのベジタリアン料理をベースに、イスラム教徒にはハラールミートを追加提供することで対応して満足してもらいました。
 日本在住20年のインド人の方に聞くと、「これまで訪日というとビジネス旅行がほとんどでした。しかしビザ緩和で今後は観光客が増えるでしょう。食事の対応がますます求められます。高齢のインド人は食事に対して保守的ですが、世界を旅している若年層は異なります。ロンドンやニューヨークで最先端の食事を楽しんでいる彼らは、ベジタリアンだけでなくハラール対応した日本食を求めるでしょう。日本は食材が豊富ですから、実は対応しやすい環境にあります。あとはやる気があるかないかだけです」と、期待しながらも少々厳しい見方をされていました。
 そういえば、1935年に建設された日本最古の神戸モスクは、当時トルコ人、タタール人、インド人による寄付や資金提供で建立されたものです。80年以上前から日本はインド人とイスラム教と関わりがあったということです。これまでのように、インド人客を在住インド人が作るカレーでもてなすだけでは十分ではありません。これからは、ベジタリアンだけでなく、ハラールだけでもない、日本の食の多様性対応が求められそうです。

*1 米国Pew Research Center
*2 日本政府観光局 2017年訪日外客数年間推計値

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<筆者紹介>

横山真也
ヨコヤマ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役
フードダイバーシティ株式会社 共同創業者
ハラール、ビーガン、オリエンタルベジタリアン、グルテンフリーといった食の多様性対応~フードダイバーシティ~のプラットフォーマー。Halal Media Japan(ウェブ)、Halal Gourmet Japan(アプリ)、Halal Expo Japan(商談会)、Tokyo Modest Fashion Show(ファッションショー)といった複数ブランドの事業を展開している。今秋新たにUPSTARTS(オンラインBtoB=企業間取引=商談会)を立ち上げ、食の多様性対応商品の輸出をサポートする。ビジネス・ブレークスルー大学LA(ラーニングアドバイザー)、同大学院TA(ティーチングアシスタント)