2017年7月25日

前回は世界が毎年固唾をのんで発表を見守る、ハラールフレンドリーな旅先ランキングをご紹介しました。日本は今年イスラム協力機構(OIC)非加盟国内で6位と躍進しましたが、同加盟国を含んだグローバルランキングでは32位に甘んじています。そこで今月は、日本はどこまで行けるのか、そのためにはどうしたらよいのかを考察します。

20位以下は大激戦

上のチャートは今年のGMTI(グローバル・ムスリムトラベル・インデックス)(*1)のグローバルランキング上位40カ国・地域の得点を示しています。20位までのうちOIC加盟国が17ヶ国・地域を占めている一方で、非加盟国であるシンガポールが10位、同じく非加盟国のタイとイギリスがそれぞれ18位、20位と健闘しているのが確認できます。
ここで注目したいのは、ランクが下るにつれその差が小さくなっている点です。15.2、7.3、6.4、6.0と上から10カ国・地域ごとの差が縮まっています。これはすなわち、今後容易にランクが入れ替わる可能性がある事を示唆しており、直近5年で23位から6位と17もランクアップした日本にとっても安住としていられる状況ではありません。
それでは日本は、現実問題として、どの程度までランクアップを見込めるのでしょうか。今年の得点で見ると、30位までの差は0.8、20位までは7.2です。近年の日本の勢いであれば、来年0.8くらいは積み上げられると思いますが、7.2となると相当な戦略が必要になります。先月ご紹介した23にも渡る評価項目のどれをどう伸ばすかを徹底的に検討しなければなりません。それには自国でできる事と他国の力を借りる事の二つの側面があります。

ライバルと相互送客の仕組みを

 近年台湾が日本に負けず劣らず国内のハラール環境の整備を進めています。実はGMTIでは毎年、日本と交互に入れ替わりながら順位を上げてきているライバルなのです。その台湾は、中国に対して距離を置く蔡政権が昨年誕生して以来、それまで年間400万人以上訪れていた中国人観光客が半減してしまいました。その穴を埋めるため、ムスリム観光客の誘致に努めているのです。
 例えば、もともと対外貿易を促進する役割のTAITRA(台湾貿易センター: 日本のJETROに相当)は近年、インバウンド政策に深く関わっています。今春、台北市の中心部に「台湾ハラールセンター」を開設し、同職員を常駐させ、主に食品に対する「ハラール認証」、ムスリムオーナーのレストランに対する「ムスリムレストラン認証」、ノンムスリムオーナーのレストランに対する「ムスリムフレレンドリーレストラン認証」、ホテルに対する「ムスリムフレンドリーツーリズム認証」といった国内の認証に関するアドバイスを行っています。これに観光庁、ハラール認証機関、ムスリム団体、大学、企業が加わり、官産学宗がまさに一体となってハラール政策を推進しているのです。
 台湾は今後10年以内に100万人のムスリム客の誘致を目指しています。また香港と韓国も同様にムスリム客を積極的に誘致しています。このように日本の近隣諸国が積極策に出ているのは、日本にとっては好機であると考えます。日本人である我々が海外旅行へ行く際にも、できれば複数国を訪問したいと考えるように、今後は日本を含む東アジア諸国を周遊したいという旅行者が増えると考えるからです。東アジアは地続きではないため欧州とは事情が異なりますが、日本の地方空港と東アジア各地は密接に結ばれており、こうした東アジアの中での移動は今後は増えるでしょう。

日本の外を周遊する旅行者を開拓

海外からの訪日客数が日本から外国への出国者数を上回ったのは2015年です。つまり日本の旅行業界のインバウンドの取り組みはまだ始まったばかりで、多くの企業がその対応に追われています。しかし旅行業界全体を見渡すと、日本からのアウト・インだけではなく、「アウト・アウト」ともいうべき巨大な国際旅行市場が存在します。それは旅行者が日本を経由せずに外国から外国へと渡り歩くもので、その市場規模は12億人にも至ります。

 この市場に進出するには、特定分野に特化したユニークな旅行商品を創り出す必要があるでしょう。例えば海外客向けに、海外にある日本企業の工場視察を手配したり、日本の技術で完成させた海外プロジェクト視察を手配したりといったものです。スタディーツアー(研修旅行)やファクトリービジティング(工場視察)は新興国ではお馴染みの旅行商品ですが、海外客が訪れる場所で日本まで行かずとも旅行商品を提供できる可能性があります。ムスリム客誘致をきっかけとして始める東アジア近隣諸国との連携は、こうした巨大市場への布石になりGMTIでのランクアップのみならず、日本の旅行業界全体の発展に寄与するでしょう。

*1 Master Card CreascentRating, Global Muslim Travel Index

PDF版はこちらからダウンロードしてください。

<筆者紹介>

横山真也
Yokoyama & Company (S) Pte Ltd マネジングディレクター
ハラールメディアジャパン株式会社 共同創業者
ハラール関連事業としては2014 年元日に「世界初の英語発信による日本ハラール専門ポータルサイト」HALAL MEDIA JAPAN を開設、14 年にはハラール・ベジタリアンレストラン検索サイト・アプリ「HALAL GOURMET JAPAN」をサービスイン。日本最大のハラールトレードショーであるJAPAN HALAL EXPO を14 年と15 年に開催、16 年には新たにHALAL EXPO JAPAN として日本初のムスリムファッションショーTOKYO MODEST FASHION SHOW と併せて東京で開催した。17 年11 月には東京・浅草で4度目となる同イベントを開催する。