災害の多い日本で考えたいこと
地震、台風、豪雨。自然災害が頻発する日本において、災害時の備えはもはや生活の一部です。中でも「食の備蓄と配給」は、避難生活の安全と尊厳を支える基盤。しかし、そこに「誰でも安心して口にできる食」が含まれているかどうかは、まだ十分に議論されていません。
特に課題となるのが、食物アレルギー、宗教戒律、思想的制限など、多様な食のニーズにどう応えるかという点です。
災害時、「一人ひとりに合った食事」は現実的ではない
平時であれば、食事制限に応じて個別のメニューを用意することは可能です。しかし、災害時の避難所や炊き出し現場では、限られた物資・人手・時間の中で全員分の個別対応をするのは極めて困難です。
それでも、宗教や健康上の理由で「食べられない」人が一定数存在するのが現実。対策がなければ、「食べるものがない」という命に関わるリスクに直面する人も出てきます。
優先順位は命に関わるアレルギー
災害時のアレルギー対応についてはこちらのサイトをご参照頂き、然るべき対応をする必要があります。
「最大公約数」としてのヴィーガン食の可能性
そこで注目されているのが、「ヴィーガン」という選択肢です。ヴィーガン対応食は、動物由来の食材(肉・魚・卵・乳・蜂蜜など)を一切使用しないことで、実に多くの食の制限にまたがって対応できます。
ヴィーガン食がカバーできる主なニーズ:
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乳・卵アレルギー(特に子どもに多い)
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ハラール(イスラム教)
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コーシャ(ユダヤ教)
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ベジタリアン・ヴィーガン
つまり、特別対応ではなく“共通対応”としてヴィーガン食を備えることで、より多くの人が安心できる状況をつくれるのです。もちろん全ての方々に対応できるわけではありませんが「一人ひとりに合った食事」を提供する難しさを考慮すると、非常に重要な対応になります。
「対応できていない」ことのリスクは想像以上に深刻
避難所で「食べられるものがない」と感じた外国人観光客や留学生が、やむなく水やビスケットのみで数日を過ごした、という報告は過去の災害でも実際にありました。これは一時的な健康リスクにとどまらず、日本への信頼の喪失にも直結します。
「日本は観光先進国を目指しているのに、非常時の食に配慮がなかったのはショックだった」
— 2016年 熊本地震後に帰国したフランス人旅行者の声
日本在住者の命を守るだけでなく、観光立国として「おもてなし」を掲げるならば、平時だけでなく非常時でも尊重する姿勢があってこそではないでしょうか。
いま動き始めている自治体・企業の取り組み
東京都荒川区
ヴィーガンかつアレルゲンフリーの非常食を備蓄計画に追加。避難所での配給にも柔軟に対応できるよう整備を開始。
尾西食品
動物性原料や、アレルギー28品目不使用の長期保存可能なごはん・おかず類を展開。
ドライカレー アレルギー28品目不使用 (5年6か月保存)
カレーうどん(米粉) アレルギー28品目不使用(5年6か月保存)
五目ごはん アレルギー28品目不使用(5年6か月保存)
まとめ:災害時も「誰もが安心できる」食の提供を
「非常時だから仕方ない」ではなく、「非常時だからこそできる配慮を」。日本は現在多様な方々が在住していて、且つ世界中から訪れる国となっています。災害時の食の多様性対応は、“あったらいい”ではなく“なくてはならない”備えになりつつあります。非常時に差し伸べられた一皿が、今後日本への信頼と尊敬を生む未来をつくるのではないでしょうか。