2019年5月28日

前回は、4月発表された2019年版のGMTI 2019(グローバル・ムスリムトラベル・インデックス*)から、前回はイスラム協力機構(OIC)非加盟国の中で日本が第3位にランクインしたニュースをご紹介しました。日本は何が評価されてランクアップし、逆に何が評価されなかったのでしょうか。今回は、日本とランキングで競合している国を比較し、日本が上位を狙うためには何が必要かを考察します。

評価対象は昨年以上に細分化

 まずGMTI 2019の評価項目について確認しましょう。今年はムスリム旅行市場に関する40以上のデータが15項目に集約され、それが4つのカテゴリーにまとめられています。昨年は23のデータが11項目に集約されていましたので、元のデータが大幅に増えたことになります。
 4カテゴリー15項目の内訳を見ると、◇アクセス(ビザ、接続生、交通インフラ)◇コミュニケーション(広報、コミュニケーション力、オンライン上の情報量)◇環境(治安、信仰の自由、インバウンド経済、積極性)◇サービス(ハラールの飲食店、礼拝施設、ホテル、空港、ユニークな体験)――となっており、ムスリム以外の旅行者にも重視される項目が含まれています。
 ランキングはこれら4カテゴリー15項目に荷重係数を乗じて算出されているのですが、ここでは単純に各評価項目について日本と他国を比較してみましょう。

低評価が続く日本のコミュニケーション力



 チャート1は4つのカテゴリー別に日本と他国を比較したものです。比較したのはOIC非加盟国ランキング首位のシンガポール、2位のタイ、それから日本と同点で3位に入った台湾です。まず差が大きくないカテゴリーとしては、環境とアクセスです。タイの積極性に対する評価以外は、各国総じて大きな差はないといえます。
 逆に点数差が大きいのはコミュニケーションです。日本はオンライン上の情報量で他国よりも優位にあるものの、コミュニケーション力は最低と評価されています。シンガポールは75点、タイは34点、台湾は20点、日本は17点です。
18年も日本のコミュニケーション力は低い評価だったのですが、問題はその差が大きいことです。シンガポールとは17年は50ポイント、18年は59ポイント、19年は58ポイントと、その差が大きく開いたままなのです。
 日本政府はデジタルデバイスを活用して日本のコミュニケーション力を改善しようとしていますが、この評価を見る限りでは、まだその効果は確認できません。コミュニケーションはホスピタリティーの基本です。おもてなしの国を自負する日本が、その基本中の基本において低評価であるというのは、私は真剣に対策を講じる時期にきていると考えます。

ハラールトラベル2.0時代に求められるもの

 09年にGMTIのレポートで紹介された「宗教的ニーズに対するサービス」は6つありました。Need to Have(必須)なものとしてハラール食品と礼拝施設。Good to Have(あればグッド)なものとしてシャワー付きのトイレとラマダン(断食月)期間中のサービス。Nice to Have(あればナイス)なことして、非ハラールのサービスや娯楽施設がないことが挙げられていました。
 それから10年経過した今年は、ハラールトラベル2.0として新たな項目が追加されました。必須事項に「ムスリムに対して偏見がないこと」、あればグッドなものとして「社会的意義がある体験と現地でしかできない体験」、ナイスな事項として「ハラールではないサービスや娯楽がプライバシーが守られた中で提供されること」です。富裕層向けのカスタムメードのサービスなどが該当します。
 日本はOIC非加盟国の中でムスリムフレンドリーな国として3位にランクアップしましたが、加盟国含むグローバルランキングでは昨年と同じ25位のままです。必須とされるハラール食品と礼拝施設は各地で普及し始めていますが、それ以上にムスリム旅行者のニーズは細分化し、評価が厳しくなっています。
 ムスリム旅行者の数は18年に、世界で1億4千万人に達したと推計されていますが、訪日ムスリム客は推定100万人に過ぎません。これをプラスに捉えると、治安が良く信仰の自由がある日本では、まだまだムスリム客を取り込める可能性があります。
その観点からも、延べ1,000万人の観客のうち3分の1がムスリムとされる20年の東京五輪は、大きな契機になるでしょう。GMTI が示した課題と評価が交錯する中、観光立国ニッポンの大きな正念場が近づいています。

* Master Card Crescent Rating Global Muslim Travel Index 2019

PDF版はこちらからダウンロードしてください。

<筆者紹介>

横山真也
ヨコヤマ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役
フードダイバーシティ株式会社 共同創業者
ハラール、ビーガン、ベジタリアン、グルテンフリーといった食の多様性対応~フードダイバーシティ~のプラットフォーマー。Halal Media Japan(ウェブ)、Halal Gourmet Japan(アプリ)、Halal Expo Japan(商談会)、Tokyo Modest Fashion Show(フ
ァッションショー)、UPSTARTS(オンラインBtoB=企業間取引=商談会)といった複数ブランドの事業を展開している。今年11 月には5度目の開催となる商談会をリニューアルした「多文化社会エキスポ―あしたのニッポン展―」を開催する。ビジネス・ブレークスルー大学LA(ラーニングアドバイザー)、同大学院TA(ティーチング・アシスタント)。