2019年4月30日

今年もGMTI(グローバル・ムスリムトラベル・インデックス*)が発表されました。ムスリムフレンドリーな旅行先をランキングするこのレポートは、世界130の国と地域を対象にしています。今年の発表会は3年連続でインドネシアのジャカルタで開催され、今年も発表直後からその結果を巡って各国で話題になっています。今回はランキングが大きく動いた2019年のGMTIについて考察します。

日本が非イスラム諸国で3位に

 下記のチャートはOIC(イスラム協力機構)非加盟国におけるGMTIのランキングを示しています。これまで他に例を見ないスピードでランクアップしてきた日本は、今年もランクを一つ上げて3位を獲得しました。13年は23位だったので、6年で20位ランクアップさせたことになります。13年にマレーシアとタイへの訪日ビザを緩和したのを皮切りに、各地でムスリム客を迎える環境を整備してきたことがこの結果につながっているといえるでしょう。

 しかしながら、他国との競争は激しさを増しています。確かに日本はOIC非加盟国として3位を獲得しましたが、同点で英国と台湾が並んでいるからです。中でも台湾は、これまで日本と抜きつ抜かれつのランキング競争を展開してきました。政治問題が影響して激減している中国からの訪台客の代わりとしてASEAN(東南アジア諸国連合)からのムスリム客を積極的に誘致したことが背景にあります。
 次のチャートはOIC加盟国を含むグローバルランキングで、日本は25位であることが確認できます。18年も25位でしたので、グローバルランキングではランクアップはなかったことになります。日本の前後には英国や台湾が確認できますが、今年特筆すべきこととしては韓国の躍進があります。韓国はOIC非加盟国ランキングで今年8位(18年は13位)、グローバルランキングで34位(18年は41位)にランクインしたのです。訪韓ムスリム客の誘致と韓国産ハラール食品と化粧品を積極輸出している韓国の台頭は、東アジア諸国間でのムスリム客獲得競争に拍車をかけそうです。

首位不動のマレーシアにインドネシアが並ぶ

 今年最も大きな話題になったのは、マレーシアとインドネシアです。マレーシアは11年のランキング開始以来、単独首位を維持してきましたが、今年初めてインドネシアに並ばれました。同点で首位というのは過去に例がなく、GMTI史上初の出来事です。インドネシアは観光省が17年に「早期にランキング首位を獲得する」と宣言してから、GMTIの評価ポイントに沿って環境整備を進めてきたのが評価されたようです。

 その一つとして、例えばリゾート開発が挙げられます。バリ島の東に位置するロンボック島がその代表例で、同島を「インドネシアを代表するムスリムフレンドリー・リゾートにする」としています。バリ島はバリ・ヒンドゥー教が多数派を占めますが、ロンボック島はイスラム教が多数派です。世界有数のリゾートであるバリ島のイメージを保ちつつ、ムスリム客を誘致するのに同島は適しているのでしょう。
 またインドネシアは昨年と今年2年連続で「インドネシア・ムスリムトラベル・インデックス(IMTI)」を発表しました。これはGMTIのインドネシア版で、国内10の州と地区をランキングしたものです。GMTIの各国版としては17年発表の「ジャパン・ムスリムトラベル・インデックス(JMTI)」がありますが、IMTIはその2例目となるものです。ロンボック島はこのIMTIで2年連続首位を獲得しています。

インスタントヌードル・トリップ

 今年のGMTIではユニークな新語も飛び出しました。『インスタントヌードル・トリップ』がそれで、出発数日前に突然決めるような旅行を指しています。売れ残った航空券を格安で購入し、予算は抑えながらもお気に入りの旅先をリピートするといったムスリム旅行者が増えているのです。

 これは行動的なミレニアル世代(1980〜2000年前後生まれ)ならではの旅のカタチですが、その裏には旅行コストの低下やビザの緩和といった環境の進展が影響しています。また会員制交流サイト(SNS)で旅先の情報をリアルタイムで入手できることも大きな後押しとなっています。
5〜6年前、ムスリムにとって日本は「未来の旅先」でした。しかし今では、「すぐ行ける旅先」になりつつあります。ではさらに彼らを呼び込むために、日本はどのような対応が必要なのでしょうか。来月はGMTIから垣間見える日本の次の打ち手について考えます。

* Master Card Crescent Rating, Global Muslim Travel Index 2019

PDF版はこちらからダウンロードしてください。

<筆者紹介>

横山真也
ヨコヤマ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役
フードダイバーシティ株式会社 共同創業者
ハラール、ビーガン、ベジタリアン、グルテンフリーといった食の多様性対応~フードダイバーシティ~のプラットフォーマー。Halal Media Japan(ウェブ)、Halal Gourmet Japan(アプリ)、Halal Expo Japan(商談会)、Tokyo Modest Fashion Show(フ
ァッションショー)、UPSTARTS(オンラインBtoB=企業間取引=商談会)といった複数ブランドの事業を展開している。今年11 月には5度目の開催となる商談会をリニューアルした「多文化社会エキスポ―あしたのニッポン展―」を開催する。ビジネス・ブレークスルー大学LA(ラーニングアドバイザー)、同大学院TA(ティーチング・アシスタント)。