2017年6月27日

毎年春になると、観光業界の関係者が固唾(かたず) をのんで見守るイベントがあります。そこで発表され るランキングはムスリム(イスラム教徒)旅行者に大 きな影響を与えると言われ、その結果に一喜一憂する 業界関係者は少なくありません。今回は、世界が注目する、そのランキングについて考察してみましょう。

「業界標準」となったインデックス

GMTI(グローバル・ムスリム・トラベル・インデックス、※1)は、ムスリム向けの旅行施設を格付けするシンガポールのクレセントレーティングが2011年から発表しているランキングで、ムスリムフレンドリーな旅行先が国単位で順位付けされます。15年に米マスターカードと提携したことで世界中に知られるようになり、現在は130の国と地域を対象とした、他に類を見ないムスリムトラベルのデファクトスタンダードとなっています。
インデックスは48のイスラム協力機構(OIC)加盟国と82の非OIC国を対象として、ランキング形式で発表されます。全ての項目について数値化しているため透明性が高く、各国の評価を容易に比較できます。◇アクセス◇コミュニケーション◇環境◇サービス ――の4つのカテゴリーに関する23の項目で評価され、それを11の項目に集約して指数が算出されます。ハラールレストランや礼拝施設の整備状況だけでなく、渡航の容易さ(空路の利便性やビザ)や治安・安全性も評価の対象となっており、ムスリムではない旅行者にとっても有益な情報です。毎年各国で悲喜こもごものドラマが繰り広げられるのですが、これまでOIC加盟国のランキングで3位だったトルコは今年初めてインドネシアに逆転され、現地の新聞でも大きく報道されました。そのインドネシアでは観光大臣が「わが国はランクを上げたが、まだ首位のマレーシア、2位のアラブ首長国連邦(UAE)に次いで3位だ。今後さらにムスリムツーリズムを推進し、早期の首位獲得を目指す」と意気込みを示しています。急速に増加しているムスリム旅行者を獲 得するために、各国はランキングアップに必死なのです。

実は日本が大躍進

グラフは非OIC国のGMTIランキングの推移です。直近4年で最も躍進しているのが日本であることが確認できます。日本は13年に23位にランクインしてから毎年順位を上げ続け、今年は6位に付けています。ランクアップのペースはOIC加盟国のランキン グでも他に例がなく、日本は「ムスリムフレンドリーな旅行先」としての評価を世界で最も急速に上げているのです。本連載の第12回でご紹介したように、昨年 にUAEアブダビで開催されたワールド・ハラール・ツーリズム・アワード(※2)では、日本は「非OIC国で最も成長著しい市場」として表彰されています。


次に日本に対する評価の推移を見てみましょう。「安全性」は3年連続で満点の100点で、「空路の利便性」「ハラールレストラン」「空港施設」と合わせて、「ムスリム旅行者に対するホスピタリティー」の評価が上がっています。これは(1)ムスリム人口(2)ムスリ ムツーリズムに関する国際会議、ワークショップ、セ ミナーなどの開催(3)ガイドブック(4)ムスリム 旅行者をターゲットとしたマーケティング活動――に 対する評価です。近年の日本でのハラール・ムスリム インバウンドの盛り上がりが評価されているのでしょう。

コミュニケーション力が課題


最後に、マレーシアおよびシンガポールと日本を比較してみましょう。マレーシアはOIC加盟国と非OIC国を合わせた総合ランキングで7年連続、シンガポールは非OIC国のみのランキングで5年続けて、それぞれ首位を維持しています。特に非OIC国でトップのシンガポールは、同様にムスリムがマイノリティーである日本にとってお手本となる国です。日本がシンガポールを上回っているのは、ファミリーフレンドリーであるという点とムスリム旅行者に対するホスピタリティーです。ショッピング、伝統文化、 アミューズメントパークなどを、ムスリムも家族で安心して楽しめる旅行先だと評価されているのです。
一方、日本はシンガポールと比較して空路の利便性や宿泊施設では大差はないものの、ハラールレストランとプレイヤールーム(礼拝室)で劣位であることが確認できます。
そして、シンガポールと最も大差が付いているのは コミュニケーション力です。バイリンガルやトリリン ガルが一般的なシンガポールにどう追いつくか、日本 にとっては大きな課題です。多様化しているニーズに 応えるためにコミュニケーション力は必要不可欠であり、即戦力として外国人人材の活用を考えるなど早急な改善策が求められます。「日本人は親切な人が多い」と話す訪日観光客は少なくありません。コミュニケー ション力を強化し、こうした評価を確固としたものに できれば、さらなるランクアップが期待できるでしょう。
次回は、このトラベルインデックスから日本が何を すべきかを、さらに深掘りします。
※1 Master Card Creascent Rating, Global Muslim Travel Index
※2 World Halal Tourism Awards, World’s Best Non OIC Emerging Halal Destination

PDF版はこちらからダウンロードしてください。

<筆者紹介>

横山真也
Yokoyama & Company (S) Pte Ltd マネジングディレクター
ハラールメディアジャパン株式会社 共同創業者
ハラール関連事業としては2014 年元日に「世界初の英語発信による日本ハラール専門ポータルサイト」HALAL MEDIA JAPAN を開設、14 年にはハラール・ベジタリアンレストラン検索サイト・アプリ「HALAL GOURMET JAPAN」をサービスイン。日本最大のハラールトレードショーであるJAPAN HALAL EXPO を14 年と15 年に開催、16 年には新たにHALAL EXPO JAPAN として日本初のムスリムファッションショーTOKYO MODEST FASHION SHOW と併せて東京で開催した。17 年11 月には東京・浅草で4度目となる同イベントを開催する。