2017年1月31日
本コラムでは独自のデータを用いて急増する訪日ムスリム(イスラム教徒)客の動向をご紹介しています。ハラールメディアジャパンはこれまで3年間で965本、2016年だけでも395本のニュースを報じました。今月はそれらデータを用いて、2016年の総括と2017年の展望について考察したいと思います。
ニュースの3分の1は食関係
まずご紹介するデータは「カテゴリー別ニュースの内訳」です。これは昨年ハラールメディアジャパンが報じたニュースがどのカテゴリー(全10種)に属するかを示したもので、サービス提供者の属性を俯瞰できます。1位はレストラン、2位はトラベル、3位はビジネス(企業紹介)という順位でした。ハラール認証を取得するというプロダクト対応よりもレストラン対応が進んでいるのは、私がかねてより参考にすべきと提言しているシンガポールのムスリム対応の歴史と重なっています。
一方で意外と少なかったのが宿泊施設です。残念なことに、日本ならではの観光資源である旅館や温泉施設での対応が進んでいないのです。ムスリム客からのリクエストが多いものの、貸し切り風呂や食事などでの対応の難しさから、訪日客全体の増加で需給が逼迫していることもあり、ムスリム対応を後回しにしている宿泊施設が多いのでしょう。
こうした中、グループでまとまって宿泊可能で、自分で調理もできる民泊施設が人気となっています。これは日本に限ったことではないですが、サービス提供者側にムスリム対応を求めるのではなく、自分でそうした環境を作るという現実的な判断をするムスリム旅行者が増えているのです。現にヨーロッパやASEAN(東南アジア諸国連合)ではムスリム民泊施設を専門に扱う事業者が出現しています。したがって今後は日本でもこうした民泊や、旅先でのムスリム向けの食材調達、ケータリングなどのサービスに対する需要が増えるのではないかと考えられます。
次に、実際にどういったニュースが読まれたのかを見てみましょう。
ムスリム観光マップが引き続き人気
「アクセスランキング・トップ10」で、ムスリム観光マップに関するニュースが3本ランクインしています。ムスリム観光マップは現在7エリア(札幌、佐野、千葉市、台東区、新宿、京都、大阪)のマップを発行していますが、いずれも版を重ねる毎に発行部数を伸ばしており、ニュースリリースの際にはアクセスが集中します。上位にランクインしたニュースは、大阪は待望の初版、台東区は第四版(旧浅草版含む)、新宿は第二版に関するものでした。ここで興味深いのは、マップによってページに滞在する平均時間にばらつきがある点です。
このチャートはランク10位のユニクロとハナタジマとのコラボに関するニュースを基準として、PV(ページビュー)とページでの平均滞在時間を比較したものです。PVと平均滞在時間に大きな相関関係は確認できませんが、大阪マップは初版であったことから両方の数値が大きくなったと推測されます。2位にランクインした台東区マップは既に4版目という事で、ニュースをじっくり読む前にマップをダウンロードするという傾向にありました。また第2版となった新宿は、ニュースの中にゴジラ、ラーメン、カラオケを紹介した事が奏功したのか、PVは9位ながら平均滞在時間は3位となりました。訪日客は点ではない面を求めていることが、ここでも確認できます。
ムスリムの旅行先として評価上昇
16年は、海外においても日本のムスリム対応が注目された年でした。二つの国際的な機関が「日本はムスリム旅行者にとって有力な選択肢になっている」と評価したのです。
まず、アラブ首長国連邦(UAE)アブダビで開催されたワールド・ハラール・ツーリズムアワードで、日本は「(ムスリムの旅行先として)非イスラム協力機構国の中で最も成長著しい市場」として表彰されました(*1)。これは世界116カ国からの国際投票による383のブランドと国がノミネートされた上で選出されたもので、16年は各分野で19の国と団体が表彰されました。またムスリムツーリズムの格付け会社であるクレセントレーティングは、日本を「非OIC国のムスリムフレンドリーな旅行先として8位」と発表したことでした。(*2)同社は毎年、各国をランク付けしていますが、日本はこれまで23位、17位、11位とランクアップし、16年に初めてトップ10入りを果たしたのです。
このように国内外でさまざまな動きがある中で迎えた17年は、日本にとって更に好機となる国際イベントが目白押しです。まず2月には札幌市と帯広市で冬季アジア大会が開催されます。約30のアジアの国と地域から参加する選手・役員は1,500名以上に上り、観客・ボランティア等の来場者は10万人が見込まれています。次に5月には10年振りの日本開催となるアジア開発銀行(ADB)の年次総会が、創立50周年の記念総会として横浜市で開催され、各国の重要閣僚含む5,000人の来場者が見込まれています。
さらに17年は日本とマレーシアとの外交関係樹立60周年記念の年で、年間を通じてさまざまなイベントが予定されています。ハラール産業の振興を国策とするマレーシアのナジブ首相は昨年末に訪日した際、同国が日本のハラール産業のアドバイザーになることを安倍首相にオファーしており、20年とその後を見据えて動きを活発化させています。
トランプ米大統領の就任などで、世界の不確実性が高まるといわれる17年。Islamophobia(イスラームフォビア)という言葉に象徴される、世界的なイスラム教への偏見の中で、異なる宗教に寛容な日本はどのようにムスリム対応を進めるのでしょうか。今年も、現場から得られた独自のデータを用いて解説してまいります。
*1 World Halal Tourism Awards “World’s Best Non OIC Emerging Halal Destination”
*2 CrescentRating “Best Muslim/Halal Friendly Holiday Destination Ranking”
<筆者紹介>
横山真也
Yokoyama & Company (S) Pte Ltd マネジングディレクター
ハラールメディアジャパン株式会社 共同創業者
ハラール関連事業としては2014 年元日に「世界初の英語発信による日本ハラール専門ポータルサイト」HALAL MEDIA JAPAN を開設、14 年にはハラール・ベジタリアンレストラン検索サイト・アプリ「HALAL GOURMET JAPAN」をサービスイン。日本最大のハラールトレードショーであるJAPAN HALAL EXPO を14 年と15 年に開催、16 年には新たにHALAL EXPO JAPAN として日本初のムスリムファッションショーTOKYO MODEST FASHION SHOW と併せて東京で開催した。17 年11 月には東京・浅草で4度目となる同イベントを開催する。