ハラール物流の本質は如何に?
こんにちは。食の多様化対応を支援しておりますフードダイバーシティ株式会社の守護です。
本当はあまり触れたくはないのですが、弊社への問い合わせも最近増えている「ハラール物流」について書きたいと思います。私も以前いろんなイスラム教の先生にハラール物流の件を訪ねたことがあるのですが、大半の意見は「そこまでやる必要はない」と否定的なものでした。しかし日本の会社からは「ハラール物流が現実的に組めないのでハラール事業ができません」という声も聞かれます。一体何が起きているのでしょうか。
そもそもハラール物流とは
ハラールとはイスラム教の戒律において「許されているもの」のことを指し、食品でいくと豚肉やアルコールの摂取がそれに該当しません。
そしてハラール物流とは、ハラールに対応した製品や商品を輸送するための専用物流のことで、要は「豚肉やお酒と一緒に運ばないための仕組み」です。これはサプライチェーンにおいて生産から消費に至るすべての段階で、イスラム教の教義にもとづくべきという考えから成ります。またハラール物流における認証の種類は「ハラール認証済み倉庫」と「ハラール認証トラック」に分かれます。
ハラール物流、日本国内での現状は?
日本国内では下記の企業が取り組んでいるようです(それぞれハラール認証を更新しているかは不明)。
・日本通運株式会社
・兵機海運株式会社
・鈴江コーポレーション株式会社
・株式会社草津倉庫
・N&Aハラルロジスティクス株式会社
・山九株式会社
・キョクレイ株式会社
どうやらハラール認証済みの物流企業と物流センターも少しずつ増えているようです。
日本通運の資料を見ると「メーカーがハラール認証を取得していても、輸送過程でハラール性が損なわれることがあります」が営業文句のようですが、しかしながら弊社はこれまでメーカー様を含む数百のハラール関係企業様とお取引先等をさせて頂く中で「弊社はハラール物流を使用しています」というお話を未だに一件も聞いたことがありません。また、日本通運に問い合わせを行いましたが、現在は運用しておらず、今後も継続するかを協議中の旨をお伺い致しました(2020年9月に確認)。
事例として、とある日本の食品メーカーはハラール物流ではなく通常の物流を使用しているのですが、送るときには下記のようなシールを貼っています。これを貼られた普通の物流会社は一体どういうオペレーションで運ぶのかは不明ですが、メーカー側としては「シールは貼ったので、どういう運ばれ方をしても自社には責任がありません」ということを主張しているのだと思います。
もう一つの事例としてマヨネーズのキユーピー株式会社では、ハラールマヨネーズに関して「※保管・物流に関しては、ハラル認証を取得していない一般商品との区分けをしていません。」とはっきりと記載しています。
ちなみにN&Aハラルロジスティクス株式会社は3年ほどで「事業の発展性が見込めないと判断した」ということで撤退されているようです。
https://leaders-online.jp/keiei/international/nna2022413
このようにハラールに対応しているメーカーでも使用していないハラール物流、今後も含めてニーズはあるのでしょうか。
ハラール物流、その価格は?
各社のホームページなどを探るも、情報が全く出ていないので分かりません。
ただ通常とは異なるオペレーションで、且つ安くはないハラール認証費用を支払っているため、コストがどうやら上がることは間違いなさそうです。
ちなみに参考までとなりますが、ある企業様が一度ハラール物流の見積もりを依頼したところ、価格は約3倍ほどだったようです。
ハラール物流、本当に消費者は求めているのか?
ここが一番重要になります。私は今まで数万人のムスリムの方々と関わってきましたが、一般消費者のムスリムから「ハラール物流を気にしている」という声を聞いたことありません。
こういう状況で一体なぜ「ハラール物流」というものは存在しているのかについて、個人的にもとても気になっていました。
そこで、今回弊社ネットワークを使って下記のようにアンケートを取ってみました。
https://www.facebook.com/groups/473320006144600/permalink/1524318597711397/
ずばり「ハラール物流は必要でしょうか?」と聞いてみました。
結果は下記の通り。有効回答数 319
考察
いわゆる③の方々がハラール物流を使う必要のあるお客様ということですが、11.9%です。
この11.9%のお客様をしっかりと掴みたいということであれば、ハラール物流も企業として一つの選択肢になるかもしれません。
そして①の方々が今回一番多かったわけですが、大多数の方が「必要だけどコストに転嫁されるのは嫌です」ということですね。
そうなるともしハラール物流を使ったとしてもコストを上げてはいけないので、誰かがコスト負担をしなければいけなくなります。
最後に②と④の方は、全くノーマークでよさそうです。
事実として「必要」と回答したのは85.2%でしたので、諸条件はあるものの「ニーズはある」と判断すべきであり、物流についても今後何らかの情報を出す必要があるのかもしれません。しかし当然ビジネスなので、利用する側はコスト面をシビアに考える必要があります。
・11.9%のお客様を掴むためにコストをかけてもハラール物流を使用する
・上記事例のようにメーカー側でシールを貼ったり、ハラール物流を使用していない旨の情報開示を行う
・消費者はコストが上がってまでも求めるサービスではないと判断して使用をしない
上記方針を決めることが重要になってくると思います。
最後に
ムスリムの方々の考えも、基本的にはモスク関係、一般消費者、ハラール認証機関それぞれです。国の方針や立場上の話もたくさんあると思います。
そこに必要か不必要かなどの議論は不毛だと思いますが、結局ビジネス上の採算が合わない限りは継続ができないので、そこをシビアに考えてそれぞれの企業の方針を決めることが重要です。
以上、長文乱文となりましたが、ハラール物流をこれから考える企業様にとって有益な情報になっていれば幸いです。
いずれにせよ「ハラール物流が現実的に組めないのでハラール事業ができません」という事例を弊社としては今後減らしていきたく、これらについて出来る限りのサポートを行いますので、ご質問等がございましたらお気軽にお問い合わせくださいませ。