ハラール認証は“必須”ではない?

イスラム教徒が70%を占めるマレーシア。日本の食品業界でも「マレーシア輸出=ハラール認証が必須」と考えられがちですが、実はそれは一部にすぎません。

本記事では、輸出規制の基本から、ハラール認証の制度までを整理しながら、マレーシア市場を正しく理解するための視点をご紹介します。

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マレーシア(Malaysia) 基礎データ ※外務省

多民族国家マレーシア

日本からマレーシアへの食品輸出:基本的な規制

マレーシアでは、以下の法律や制度が輸入食品に適用されます:

項目 内容
食品法1983食品規則1985 成分、表示、添加物などの規定あり。
輸入承認制度(AP) 2022年以降、多くの加工食品では簡素化されつつあるが、乳製品・動物性食品は依然審査対象。
検疫・衛生書類 畜産物・水産物には日本国内の認定施設からの出荷や証明書が必要。

※詳細な輸出可否や必要書類の最新情報は、JETROマレーシアの保健省(MOH)農業・農業基盤産業省(MAFI)などに確認しましょう。

マレーシアには非イスラム教徒も多いので、ハラールでなくても輸出は可能

マレーシアはイスラム教が国教とされている国ではありますが、多民族国家でもあり、約3割の国民が非イスラム教徒(中華系・インド系など)です。当然ですが多様な食文化を持ち、ハラールでない食品も日常的に購入・消費しています。

また、在住外国人や観光客向け市場も一定規模存在し、特に日本食に対する関心が高まっていることから、ハラールでない日本食品も一定の需要があります

実際にハラールでない日本食品が販売(NON HALALコーナーにて)

  • 日本酒やアルコール分を含む調味料(料理酒、みりんなど)

  • ゼラチンを含む和菓子や洋菓子

  • ポークエキスを含むインスタントラーメン

ただし、バイヤーは「幅広く売れる商品」を好む傾向がある

一方で、商業的&実務的な観点から見れば、多くの現地バイヤーや輸入業者は、「イスラム教徒を含む、多くの方に売れる商品」を優先的に求める傾向にあります。その理由は明確で、

  • 小売店舗の多くが国家の大多数であるイスラム教徒をお客様として呼び込みたい

  • 販売先(例:大手スーパー、飲食チェーン)が広がる

マレーシアのハラール認証  JAKIMとは?

マレーシアにおけるハラール認証は、国家イスラム開発庁(JAKIM)が唯一の公式ハラール認証機関として運用されています。

項目 内容
認証機関 JAKIM(マレーシア国家イスラム開発庁)
対象商品 食品・化粧品・医薬品など広範囲に適用
申請条件 工場の原材料、食肉の屠畜方法、製造工程、保管方法などがハラール基準に適合していること
取得期間 書類が整っていれば、1〜3か月程度で取得可能(製品により異なる)

相互認証とは?

ハラール認証の「相互認証(Mutual Recognition)」とは、ある国・地域のハラール認証機関が発行した認証を、他国の公式ハラール機関が正式に認める取り決めのことです。これは、国境を越えたハラール商品の流通をスムーズにするための制度です。

なぜ相互認証制度があるのか

項目 内容
✅ 輸出時の信頼性 相手国政府が認めているため、現地バイヤー・小売への信用が高まる
✅ 二重認証が不要 相手国で再認証を取る必要がなく、コスト・時間を削減できる
✅ 輸入手続きが簡略化 通関や流通時のトラブルが起きにくい

JAKIMと相互認証されている日本のハラール認証機関(2025年7月現在・JAKIMのHPより)

No. Organization & Address Contact
1 Japan Muslim Association (JMA)
3-17-23 Higashigotanda, Shinagawa-ku, Tokyo 141-0022, Japan
Mr. Yahya Toshio Endo (President)
Tel: +813 6277 3561
Fax: +813 6277 3597
Email: info@shariah-inst.com
Website: www.muslim.or.jp
2 NPO Japan Halal Association (JHA)
2F Excel Abiko, 3-17-4 Karita, Sumiyoshi-ku, Osaka 558-0011, Japan
Mdm Hind Hitomi Remon (Chairperson)
Tel: +816 4703 5966
Fax: +816 4703 5977
Email: info@jhalal.com, remon@jhalal.com
Website: www.jhalal.com
3 Japan Islamic Trust (JIT)
3-42-11 Minami Otsuka, Toshima-ku, Tokyo 170-0005, Japan
Mr. Aquil Ahmed Siddiqui (Chairman)
Tel: +81 03-3971-5631
Fax: +81 03-5950-6310
Email: info@islam.or.jp, japanislamictrust.halal@gmail.com
Website: www.islam.or.jp
4 Muslim Professional Japan Association (MPJA)
Yoshioka Bldg 3F, 4-32-1 Yotsuya, Shinjuku-ku, Tokyo 160-0004, Japan
Mr. Akmal Abu Hassan (President)
Tel: +813 6869 5775
Fax: +813 6869 5775
Email: info@mpja.jp
Website: www.mpja.jp
5 Nippon Asia Halal Association (NAHA)
5F, CICC Building, 2-6-2 Matsunami, Chuo-ku, Chiba-shi 260-0044, Japan
Mr. Jamaldeen Mohammad Rifas Alias Anas (Chairman)
Tel: +8135 4138 418
Fax: +8143 2054 996
Email: info@nipponasia-halal.org
Website: web.nipponasia-halal.org
6 Japan Halal Foundation (JHF)
As-Salaam Bldg. 1F, 4-6-7 Taito, Taiko-ku, Tokyo 110-0016, Japan
Mr. Mohamed Nazeer (President)
Tel: +8150-3644-1045
Fax: +813-5812-4101
Email: info@japanhalal.or.jp
Website: www.japanhalal.or.jp

ハラール認証は必須ではない

ハラール認証はマレーシアでの販売において義務ではありません。実際、多くの日本製食品が以下のようにハラール認証なしで流通しています。

  • 一次産品なども含む、原材料・製法が明らかにハラールであると証明できる商品

  • ヴィーガン対応商品(動物性原材料不使用の商品)

  • 日本国内の輸出商社を経由して輸入業者が独自にハラール性を判断している場合

「誰に届けたいのか」「どんな価値を届けるのか」を明確にしたうえで、必要であれば認証の取得を検討するのがよいでしょう。

「ハラール認証は義務ではなく、取得企業の市場拡大を後押しする“付加価値”」
— JAKIM 事務局長コメント halaltimes.com

日本からマレーシアへの食品輸出について

マレーシアは国家施策としてハラール認証を推進

マレーシア政府は、ハラール産業を国家経済の柱と位置づけ、次のような長期計画を実施しています:

  • Halal Industry Master Plan 2030
    ハラール産業をGDPの11%、輸出2300億リンギット(約7兆円)規模に拡大する計画。

  • ハラール展示会「MIHAS」や産業団地「Halal Park」 を通じた企業支援・輸出促進。

政府は“ハラール先進国”ブランドを国家戦略として推進していますが、個々の事業者への取得義務化には踏み込んでいないのが現状です。ただし、ハラール認証の取得が義務ではないとはいえ、マレーシアにとっては「国を挙げたブランディング」である旨を理解するといいでしょう。

ハラール認証があれば売れるわけではない

これは非常に重要なポイントです。「認証がある=売れる」ではなく、「ニーズがあるものが売れる」のです。現地バイヤーや消費者が求めているのは、

  • 美味しさ

  • 珍しさや話題性

  • 健康志向(低糖質・ヴィーガン・自然派)

  • ギフト向きや高級感

など、商品の魅力そのものです。ハラール認証はその後の「安心感」を補完するものでしかありません。

この界隈では詐欺行為も横行しているため注意が必要

ハラール認証の注目度が高まるなか、残念ながら以下のような悪質業者による詐欺やトラブルも報告されています:

  • 「JAKIMと関係がある」と偽り、高額なコンサルティング費用を請求

  • 「ハラールは簡単に取れる」と言って不当なコンサル費用を請求

「すぐ売れる」「簡単に認証が取れる」という甘い話にはくれぐれもご注意ください。

まとめ:ハラールは“手段”。売れる商品をつくる視点を忘れずに。

  • ✅ ハラールではなくてもマレーシアへの食品輸出は可能

  • ✅ ハラール認証の取得は義務ではない

  • ✅ 国家としてハラール認証を「推進」しているので、その意図を理解する

  • ✅ ハラール認証があっても「ニーズがないもの」は売れない

  • ✅詐欺行為が多い分野なので、事実をしっかりと確認する

マレーシアに売り込む前に、自社の商品が“現地で求められているか”を、まず問い直してみてください。