2016年8月30日

これまでの6回の中では、訪日ムスリム客とは誰か。どんな情報をどうやって探し、どこに向かって何をやりたがっているかをご紹介してきました。今回は食の観点から、訪日ムスリム客だけではなく在日ムスリムも含めたデータを検証します。

留学生「とにかく肉が食べたい」


 まずご紹介するデータは「日本のスーパーで何を買いたいですか」という質問に対する回答結果です。これはハラールメディアジャパンが運営しているFacebookグループ「ムスリムフレンドリーインフォメーション・イン・ジャパン」の調査によるもので、同グループには在日ムスリム、海外ムスリム、ハラール市場関係者の約4万人が参加しています。
 ランキング1位はハラールビーフ、2位はハラールチキン、パンが3位につけています。ラーメン、たこ焼き、餃子といったB級グルメの人気が高いことがここでも確認できますが、一方で「ハラールであれば何でもいい」という切実な声も聞かれます。
 ラムは7位ですが、食肉類が望まれているのがよく分かります。これは私も肌感で感じるところがあります。日本でムスリム留学生に会うと「とにかく肉が食べたい。インスタントラーメンやお菓子はお土産でもらう事が多いが、肉がまだまだ少ない」という声をよく聞くからです。留学生の多くは若年層が多いため、がっつり食べたいという欲望が強いのでしょう。

進展が遅いハラールミート事情

 では日本のハラールミートの供給状況はどうなっているのでしょうか。和牛は世界ブランド、さぞ大量に輸出しているのかと思いきや、残念ながらハラールミートに至ってはほとんど進展がありません。牛肉を例にとってみると、理由は三つあります。そもそも国内の牛肉生産量が増えていないこと。それから比較的安価な輸入牛肉が増えていること。そしてハラール認証問題です。
日本の牛肉の自給率は40%*で、年々微減傾向にあります。いくらハラールが注目されているといっても、認証を取得してまで対応しようという企業は少ないというのが現状です。加えて食肉におけるハラール認証の要件は特に厳しいため、関心はあっても対応できないという企業が少なくないのです。
 そこでにわかに注目されているのがハラールミートの輸入です。日本への牛肉輸入相手国の1位は豪州で全体の54%、2位は米国で同じく36%。両国だけで、日本の輸入牛肉のシェアは90%にも及んでいます。とりわけ畜産大国豪州のハラールミートの輸出は好調で、インドネシアやマレーシアはもとより、近年は中東へも「クリーンかつグリーン」(衛生的で、環境負荷の小さい)なハラールビーフとしてシェアを拡大させています。日本へ輸出されているビーフも実はハラールだったという事例もありますので、国産に拘らなければ在日ムスリムの悩みも軽減されるかもしれません。

訪日してもムスリムはホット&スパイシーがお好き

 本連載の第2回でご紹介したように、ムスリム対応した焼肉店やしゃぶしゃぶ店は訪日ムスリム客に「食べたかった日本食」として人気を博しています。東南アジアでは、目の前でシェフに焼いてもらう鉄板焼きスタイルは定着していますが、七輪やコンロを使って自分で焼くスタイルはまだ珍しいため、訪日して「やってみたかった」という“コト消費”の一つになっています。

 提供する食肉は国産と海外産を併用している店舗が多いようですが、ムスリム客の中には焼肉タレを楽しんだ後にチリソースやワサビをオーダーする人がいます。ホットでスパイシーな味が恋しくなるようで、自国から日本へ持参してくる人までいるほど、彼らには必須の味のようです。日本の味、自分の店の味を楽しんでもらうのは基本的姿勢として崩すべきではありませんが、海外客のこうした嗜好に柔軟に対応することも必要といえるでしょう。
 次回は旅の最後の悩み、お土産について取り上げます。ハラール商品のお土産はあるのか?何を買って帰りたいと考えているのか?アンケート結果と実際の声をご紹介します。

*「食料自給表平成27年度」農水省大臣官房政策課食料安全保障室より

PDF版はこちらからダウンロードしてください。

<筆者紹介>

横山真也
Yokoyama & Company (S) Pte Ltd マネジングディレクター
ハラールメディアジャパン株式会社 共同創業者
ハラール関連事業としては2014 年元日に「世界初 の英語発信による日本ハラール専門ポータルサイト」HALAL MEDIA JAPAN を開設、同年にはハラール・ベジタリアンレストラン検索サイト・アプリHALAL GOURMET JAPAN をサービスイン。日本最大のハラー ルイベントであるJAPAN HALAL EXPO を14 年と15 年の2年連続で幕張メッセなどと共催、合わせて約1万人を動員した。