2016年6月28日

これまでの4回では訪日ムスリム(イスラム教徒)客をターゲットに見立て、様々な独自データを用いて彼らの動向を分析してきました。今回は逆の、供給者側の状況に注目してみましょう。「ハラール」「ムスリム対応」といった言葉を頻繁に目にするようになった昨今、訪日ムスリム客を取り巻く状況はどうなっているのでしょうか。

地方にも広がるムスリム地図


 まずご紹介するのはムスリムマップです。これはハラールメディアジャパンが制作している特定エリアにおけるムスリム対応店舗を紹介しているもので、北から札幌、台東区(浅草・上野)、新宿、京都、大阪版を発行しています。ハラールメディアジャパンはウェブとアプリを主体に情報発信していますが、「手に持って歩けるマップが欲しい」との読者の声に応えたものです。
 内容はムスリム対応しているレストラン、お土産店、お祈りスペース、観光名所、その他お役立ち情報を掲載しています。レストランは何料理(どこの国の料理)かに加え、ハラール、ベジタリアン、ビーガンといった内容を一目でわかるように紹介しています。訪日時の心配ごとトップであるムスリムの食事とお祈りスペースの問題を解決しているだけでなく、そのエリアの中をブラブラしてもらえるように面展開を意識した作りとしています。
 意外だったのは、ムスリムだけでなく一般の外国人客にも利用されているという点です。英語対応している店舗が掲載されているのが重宝されているようです。それが影響してか、最近は地方都市から「ムスリムマップを制作して欲しい」との声が増えています。ハラール認証を最高峰と捉えながらも、まずはできることから対応していこうという都市が増えているのです。実際大阪版の次は、Obihiro Map for Muslims(帯広版)を年内に発刊する予定です。

渇望ニーズを取り込め


 次に掲載店舗の内訳を見てみましょう。供給者はどんな料理のレストランなのでしょうか。一位は日本料理、二位はインド料理、三位はトルコ料理となっています。日本料理が一位であるとはいえ、現実的には圧倒的に多いはずですので、この数字は今後飛躍的に増えると予想されます。二位と三位のインド料理やトルコ料理レストランは開店数十年の老舗レストランが多いことから、ムスリム対応の日本料理レストランはまだまだ少ない、すなわち需要に対して供給が少ないと考えられるのです。
 前回ご紹介したデータ「日本でやりたことトップ10」では、すし、和牛、ラーメンといったキーワードが出ていました。需給バランスが崩れている今こそビジネスチャンスと捉えるレストランは少なくないでしょう。それには、食べたくても食べられなかった、したくてもできなかった渇望ニーズをいち早く取り込んだレストランが繁盛店になる可能性が高くなります。

動き出した「ポスト爆買い」

 過去5年の年平均成長率が33%超という驚異的な伸びを見せた訪日外国人客数。その主体は中国人であったことは周知の通りで、その購買行動は爆買いと称されました。中国経済が減速する中でその行方が注視されていますが、今後も中国人客の重要性は揺るがないでしょう。
 一方で、それだけに頼るいわゆる一本足打法では心もとない、次の対策を練らねばという中で注目されているのがムスリム客です。それにはハラール対応が必要。でもこれがなかなか難しい。それであれば、「できることから対応しています。ここまではしっかりやっています。それで良かったら是非ご利用下さい。」という情報開示・伝達型の店舗が増えているのです。
 ハラールメディアジャパンはそうした地方都市を応援すべく「ムスリム対応できることからセミナー」を各地で開催しています。そこで出会う人々は、最初戸惑いながらも徐々に自信を深め、本当にできることから一つずつ対応することで、「自分たちなりのおもてなしを再発見した」と口々に言います。中央に頼らない自力での地方創生。動き出したムスリムインバウンドは、そのきっかけの一つになっているのです。

PDF版はこちらからダウンロードしてください。

<筆者紹介>

横山真也
Yokoyama & Company (S) Pte Ltd マネジングディレクター
ハラールメディアジャパン株式会社 共同創業者
ハラール関連事業としては2014 年元日に「世界初 の英語発信による日本ハラール専門ポータルサイト」HALAL MEDIA JAPAN を開設、同年にはハラール・ベジタリアンレストラン検索サイト・アプリHALAL GOURMET JAPAN をサービスイン。日本最大のハラー ルイベントであるJAPAN HALAL EXPO を14 年と15 年の2年連続で幕張メッセなどと共催、合わせて約1万人を動員した。