日本と海外の違いを知って、対策を考える
インバウンド需要が年々高まる中で、日本の飲食業界は大きな転換期を迎えています。訪日外国人の多くは「本場の日本食」を楽しみにしている一方で、食文化や食習慣の違いから、日本の飲食店に対して戸惑いを感じることも少なくありません。こうした中で、訪日客の多様なニーズに柔軟に対応できるかどうかが、今後の集客力や売上に大きな影響を及ぼします。
特に日本食を提供する店舗においては、海外の日本食レストランとの違いを正しく理解し、そのギャップを埋める工夫をすることが求められます。例えば、メニュー構成や表記、内装、サービスの在り方など、細かな点を見直すことで、「外国人にとって分かりやすく、親しみやすいお店」に近づくことができます。
もちろん海外のやり方にそのまま合わせるのではなく、自店のスタイルやこだわりを大切にしながらも、グローバルな視点を取り入れることが、これからの時代の飲食店経営において欠かせない鍵となるでしょう。
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日本と海外の日本食レストランの主な違い
観点 | 日本国内の日本食レストラン🇯🇵 | 海外の日本食レストラン🌎 |
---|---|---|
店舗の業態 | 専門性重視(ラーメン専門、寿司専門など) | ラーメン、寿司、天ぷら、丼もの、餃子、たこ焼きなどを一店で提供する“何でも屋”が主流 |
Signatureの表記 | 基本的にはほとんどない | 多くのお店のメニュー表に「Signature(お店の看板料理)」マークがあり、一見の旅行者にとっては選択しやすい状態 |
フードダイバーシティ対応 | 特定のお店のみ対応 | ほとんどのお店がメニューにヴィーガン・グルテンフリーなどの表記や、対応を行なっている |
辛さ表記 | 特定のお店のみ対応 | Spicyマークの表示が一般的 |
メニューの価値観 | (例)たこ焼きは専門店のみで販売 | (例)多くのお店でたこ焼きが定番人気メニュー、高価格帯で販売されている |
Izakayaのイメージ | 大衆的でリーズナブル | おしゃれで高価格帯。デート、会食、記念日などで利用される |
内装 | 和モダン、シンプルが主流 | 赤提灯、富士山の絵、アニメの要素など様々で、日本人が入ると少し気恥ずかしい気持ちになるときもある |
料理のスタイル | 本場の味・本来の味を重視 | 現地でローカライズされたメニュー(例:カリフォルニアロール等)や、日本人がなかなか思いつかないメニュー(例:カツカレーラーメン等)があり、それらが人気メニューになっていることも多い |
寿司のネタ | バラエティに富んでいる | サーモン、マグロ、アボガド、うなぎなどが中心 |
ドリンクの種類 | ノンアル飲料が限定的 | モクテル、コンブチャなど種類が豊富 |
自店のスタイルを守りながら、インバウンド対応するためのヒント
1. 看板メニューには「Signature」表記を取り入れる
多くの外国人観光客は、基本的に初めてその店を訪れるケースがほとんどです。そのため、メニューに迷った際には「お店の一押し」を求める傾向があります。店主こだわりの一品やお店の代表的なメニューに「Signature(シグネチャー)」と明記することで、選ばれやすくなるだけでなく、「そのお店の看板メニューを食べた」という満足感も提供できます。

Signatureの表記は重要
2. 食の多様性への表記や対応を明文化する
ヴィーガン、グルテンフリー、ハラールなど、対応できる範囲をメニューに明記し、店内でのオペレーションルールを決めましょう。日本のお店でもフードダイバーシティに対応できるかどうかが、今後売り上げを大きく左右する時代になってくることは間違いありません。

メニューにフードダイバーシティに関する表記がある(辛さの表記も)
3. サイドメニューを“主役級”に見せる
たこ焼きや唐揚げといった料理は日本だと基本的にはサイドメニュー枠ですが、大きく打ち出しをすることで海外の感覚にマッチし、客単価の向上も期待できます。実際海外ではラーメンが100バーツ、たこ焼きや唐揚げが95バーツと、同等の価格で販売されているケースも見られます。

たこ焼きや唐揚げがラーメンと同等価格で販売
4. 内装や演出を“写真映え”する工夫に
日本人の感覚では少し気恥ずかしい、もしくは派手すぎると感じる演出も、海外からの観光客には魅力的に映るケースが多くあります。もちろんお店として全体的なバランスはもちろん重要ですが、赤提灯や暖簾、和紙装飾など「伝統×モダン」の演出で写真に撮りたくなる空間を作ることができます。

海外のラーメン屋の様子(日本人にとっては派手すぎる・・・)
5. 食べ慣れているものを理解したメニュー構成に
例えば寿司を提供する場合は、サーモン・マグロ・アボカドといった海外の方が食べ慣れたネタがあると訪日外国人にとっては安心感があり、なんだかんだで最初に手を伸ばしやすい傾向があります。また、日本人が寿司に求めないスパイシーさ、マヨネーズなどの調味料も海外では主流なので、対応するかは別として傾向を理解しておくことは重要です。一通りの安心感を与えたあとに、日本らしいものを薦めると売れやすい傾向があります。

寿司のメニューはサーモンを中心に組んでいるお店が多い
まとめ:違いは“チャンス”。文化のギャップを理解して、魅力的な提案を
日本と海外の日本食レストランの違いは、単なる「文化差」ではなく、売上を伸ばすためのヒントに満ちています。大切なのは「海外の期待」に迎合しすぎるのではなく、自店のスタイルを守りながら、相手に伝わる形に調整すること。ほんの少しの工夫で、外国人観光客の心をつかむことができるはずです。