「できない」では済まされない現場のリアル

日本社会は、確実に多文化共生へと向かっています。中でも教育現場は、変化の最前線に立たされていると言っても過言ではありません。とりわけ「学校給食」は、異文化がぶつかる“生活の交差点”とも言える場。今、全国各地でインクルーシブな給食への取り組みが始まっています。

 外国にルーツを持つ子どもは過去最多

文部科学省の調査によると、2023度に公立学校に在籍する外国籍の児童生徒数は約15万人に達し、過去最多を記録。2022年対比でも10%増となり、今後も日本の教育現場はもはや「多文化社会」抜きでは語れない状況にあります。

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【事例1】姫路もく保育園:「One Table Day」で全員が同じ食卓に

兵庫県姫路市にある「もく保育園」では、毎月1回、すべての子どもたちがアレルギーや宗教などの制限にかかわらず、同じ食事を食べられる日として「One Table Day(ワンテーブルデー)」を実施しています。
この取り組みでは、プロのシェフと連携して動物性食品や、アルコール由来調味料などを一切使わないメニューを開発。宗教や体質に配慮した調理方法で、誰もが安心して同じテーブルを囲めるよう工夫されています。

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園長のコメント

「“あの子だけ食べられない”という疎外感をなくしたかった。One Table Dayは、食べられない子が“合わせてもらう”のではなく、みんなが“歩み寄る日”なんです。子どもたちは自然に“違いって悪いことじゃない”と感じています」

保護者からの声

「アレルギーを持つ娘にとって、初めて“みんなと一緒”の給食を体験できた日でした。家では泣いて喜んでいました」

このOne Table Dayは、「みんなが食べられる給食は“おいしいし楽しい”」という共通体験を生むことで、子どもたちの意識を自然と変えていく力を持っています。また、この取り組みは姫路市外の教育関係者や自治体からも注目を集めていて、他地域への波及も期待されています。

【事例2】神奈川県川崎市:ハラール対応が進むモデル地区

川崎市では、イスラム教徒の子どもたちの増加に伴い、給食対応が注目を集めています。市内の一部小学校では「豚肉・アルコール不使用のメニューを用意」し、宗教的理由で食べられない児童にも対応。さらに、献立表には英語やアラビア語の補足が添えられるなど、保護者との連携も進んでいます。

栄養士のコメント(川崎市立小学校)

「最初は戸惑いもありましたが、“できない”と決めつけてしまうと、結果的に現場がもっと苦しくなると気づきました。少しずつでも仕組みを整えることで、児童も安心して食事できるようになりました」

【事例3】長野県上田市:ヴィーガン・ベジタリアンにも対応

上田市の一部学校では、外国籍家庭だけでなく、日本人でもベジタリアンやアレルゲンを持つ児童への配慮が進んでいます。保護者からの聞き取りをもとに、動物性食品不使用の献立を一部導入。「できる範囲で最大限寄り添う」姿勢が地域の信頼を得ています。

保護者の声

「息子は宗教上の理由で卵と肉が食べられません。他の子と同じ食卓を囲めるように工夫してくださっている学校には感謝しかありません」

対応しないことが、むしろ負担になる現実

「対応が大変そうだから後回し」という姿勢が、実は学校現場にとって一番の負担になります。特定の児童が「これ食べられません」と毎回先生に伝える、周囲の子どもたちにからかわれる、職員室に預けた弁当を温め直すといった“個別対応”が、実務的・心理的な負荷を増やしているのです。

中学校教員(東京都)

「一律のルールがないと、担任の裁量に任されてしまい、その先生の“理解度”によって対応がバラつく。制度化・ルール化が求められています」

食を通じた“異文化理解”が教育になる

一部の学校では、給食を「学びの機会」として活用する試みも進んでいます。例えば、月に一度「世界の食文化メニュー」を導入し、イスラム圏・ヒンドゥー圏・アフリカ・南米の料理を学ぶなど、食から始まる異文化理解教育の好例です。

小学校校長(愛知県)

「最初は“なにこれ?”という反応もありますが、食べてみて“おいしい!”という声が出ると、子ども同士の距離も一気に縮まります」

多文化対応は“特別対応”ではなく“未来への標準”

多文化社会における食のインクルージョンは、もはや一部の例外に向けた“特別対応”ではありません。社会の構造が変わる中で、それに合わせて教育も変化すべき段階に来ているのです。

これからの日本で求められるのは、「誰もが安心して食べられる給食」を“当たり前”とする視点。その実現には、学校・自治体・保護者・企業が連携し、制度・知識・意識をアップデートすることが求められています。