旅館は泊まりたいけど、食事は・・・

日本の旅館といえば、四季折々の食材をふんだんに使った豪華なコース料理。美しく盛り付けられた料理の数々は、日本人にとっては「旅館の醍醐味」と言えます。しかし、外国人旅行客にとっては必ずしも魅力的に映らないケースが少なくありません。その背景には、文化や食習慣の違いが隠れています。

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1. 圧倒的に多い料理の量

日本人は「旅館のコース料理はかなりボリュームがある」と知っているので、昼食も軽めに抑えたり、チェックイン前から食事に備えてお腹をすかせる習慣があります。しかし旅行客はその事情を知らず、昼食もしっかりと食べ、日中に食べ歩きや観光を楽しんでから臨むことが多いのです。その結果、「量が多すぎて食べきれない」「残すのが申し訳ない」と感じた方は、それ以降素泊まりで予約したり、そもそも旅館の宿泊を避けるようになるケースもあります。

2. フードダイバーシティ対応や食材変更が難しい

海外からの旅行客の中には、ヴィーガン、ハラール、グルテンフリー、アレルギーなど、実に多様な食の制約を持つ人々がいます。欧米や東南アジアでは食の多様性への対応が一般的になりつつありますが、日本の旅館における伝統的なコース料理は、旬の食材や調理法があらかじめ組み込まれており、変更が難しいのが現状です。

その結果、「予約を断られた」「食べられない料理がいくつも出てきた」という体験は、旅そのものの満足度を大きく損ないます。本来なら文化体験のハイライトであるはずの食事が、「自分には合わない」「安心できない」と感じられると、その旅館へのリピートや口コミへの影響も避けられません。

3. 知名度のない料理が続くハードル

日本人にとっては馴染みのある小鉢や伝統的な料理でも、多くの外国人旅行客にとっては未知の料理であることが多ほとんどです。寿司やラーメンといった知名度のある料理ではない、見慣れない・聞き慣れない名前の料理が続くと、「これは何だろう?」「どうやって食べるのだろう?」と不安になり、手をつけにくいと感じるのは自然なことです。それは、日本人が海外旅行で見知らぬ料理を前にして、味の想像がつかずに箸を伸ばせない場面と同じ心理といえるでしょう。

さらに、「よく分からない料理」でお腹を満たすことに抵抗を持つ人も少なくありません。せっかくの旅の一食を「安心できるもの」「好きだと分かっているもの」で楽しみたい、という欲求はごく当たり前です。旅館のコース料理では、地元の食材を活かした郷土料理が誇らしげに並びますが、旅行客にとっては「名前も味も分からない料理が次々と出てくる」体験となり、食事を楽しむよりも戸惑いの方が強く残ってしまうケースがあります。

この心理的な壁は、最初の数品で「よく分からない」「口に合わない」と感じてしまうと、その後の料理に対する期待感が下がり、「残すのは悪いけれど食べきれない」という負担感につながってしまいます。本来であれば文化体験として魅力的な郷土料理も、適切な説明や食べ方のガイドがなければ、「知らない料理ばかりで困惑した食事」として記憶されてしまうのです。

4. 未知の料理には胃袋は開きにくい

「3. 知名度のない料理が続くハードル」に付随して、人は基本的に、食べ慣れているものや好物には自然と手が伸び、胃袋も開きやすいものです。しかし、見慣れない食材や調理法、味付けの料理に対しては、心理的な抵抗や不安が先に立つことが多く、胃袋はなかなか開きません。胃袋が開いていない状態でフルコースを楽しむのは、どうしても厳しいものがあります。

5. 毎日フルコースは負担

この記事をご覧になれている皆さまも、海外旅行で毎晩フルコースを食べ続けるのは体力的にも気持ち的にも大変なことはお分かりいただけるかと思います。慣れない土地での観光や移動で疲れた体に、量の多い料理が連日並ぶと「せっかくの料理だけれど食べきれない」「今日はもう少し軽めで良かったのに」と感じてしまうのは自然なことです。食文化の異なる外国人旅行客にとってはなおさらです。

そのため、旅館においても「フルコース一択」ではなく、軽めの「ショートコース」や「アラカルトから選択できる」といった夕食プランを用意することが、快適な滞在につながると考えられます。旅行客にとっては「自分に合った食べ方を選べる」こと自体が安心につながり、旅館側にとっても「全部は食べられなかった」という不満を減らすことができます。

実際、海外のホテルやレストランでは、コース料理に加えて「軽食プラン」や「アラカルト注文」が一般的です。旅館でも同様に柔軟な選択肢を提供することで、伝統を大切にしながらも多様な食文化を持つ旅行客に寄り添えるはずです。結果として「また泊まりたい」「友人に勧めたい」といった好意的な評価につながるでしょう。

まとめ

旅館のコース料理は、日本人にとっては特別な体験であり、誇るべき文化です。しかし、外国人旅行客にとっては「量が多い」「柔軟性がない」「知らない料理ばかり」という壁が存在します。これからの旅館業界には、

  • ショートコース、ライトプラン、アラカルトの導入

  • 多様な食文化・宗教への柔軟な対応

  • 料理の説明や背景を丁寧に伝えたり、説明不要なわかりやすい料理の提供

といった取り組みが求められるでしょう。伝統を守りながら、多様な旅行客に寄り添う食体験をどう提供していくかが鍵となります。