表示の一言が信頼を左右する――問われる企業の知識と姿勢

2025年12月25日、スターバックス コーヒー ジャパンは、新商品として販売予定としていた「米粉カステラ」2種について販売中止を発表し、その理由を以下の通り説明しました。

本商品はグルテンフリー商品として企画・開発を進めておりましたが、製造工程および原材料の最終確認を行った結果、原材料の一部に微量ながら大麦麦芽が含まれていることが判明いたしました。このため、本商品はグルテンフリー商品としてお客様にご案内することが適切ではないと判断し、販売を中止することといたしました。(スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社のHPより)

一見すると分かりにくい表現ですが、グルテンフリー表示を巡る繊細な問題が存在しています。

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「米粉=グルテンフリー」とは限らない

一般的に、米粉はグルテンを含まない穀物であり、原料としての米自体はグルテンフリーです。しかし、製品として「グルテンフリー」と案内できるかどうかは、米粉を使っているか否かだけでは判断できません。今回のケースで特に重要なのが、大麦とグルテンの関係です。

大麦はグルテンフリーではない

大麦(barley)は、小麦・ライ麦と同様にグルテンを含む穀物です。

  • 大麦に含まれるグルテン:ホルデイン(hordein)

  • セリアック病や医療的にグルテン除去が必要な人にとっては、微量でも摂取不可

上記が国際的にも共通した認識です。

補足:グルテンフリー表示ルールについて

例えば欧米等の法規制では、食品が「グルテンフリー」と表示されるには食品中のグルテン濃度が20ppm未満 である必要がある、という基準があります。 大麦由来タンパク質が一定以上含まれる食品は、この基準を満たさない可能性が高いとされています。

見落とされやすい「大麦由来原料」

食品業界では、次のような大麦由来原料が、少量でも使われることがあります。

  • 麦芽エキス(モルトエキス)

  • 麦芽糖

  • 香ばしさ・風味付け目的の副原料

これらは製品の味や焼き色を整えるために使用されることが多く、「小麦不使用」「米粉使用」という表示だけでは、消費者が判断しにくいポイントでもあります。

なぜ「案内しない」という判断に至ったのか

グルテンフリーには厳格度の違いがあります。

利用者 グルテンの扱い
セリアック病 微量も不可
医療的グルテンフリー 微量も不可
体調管理・嗜好 ある程度許容
小麦を控えたい層 少量の小麦や大麦は気にしない場合も

企業が「グルテンフリー」やそれに準ずる形で案内した場合、最も厳格な層(医療対応が必要な人)に誤解を与える可能性があります。

そのためスターバックスは、原材料や製造環境を踏まえると「誤解を招きかねない案内は避けるべき」と判断し、販売中止という選択を取ったと考えられます。

今回の件が示す、フードダイバーシティ対応の本質

この事例は、単なる商品トラブルではありません。

  • グルテンフリー

  • アレルギー対応

  • ヴィーガン

  • 宗教・医療上の食制限

こうした領域では、「食べられるかどうか」よりも、「どう案内するか」が極めて重要になります。あいまいな表現によって安心感を与えるのではなく、十分な知識に基づき、事実を正確に伝える姿勢が求められます。