持続可能な体制を作るために考えるべきこと
近年、ベジタリアン・ヴィーガン・ハラール・グルテンフリー・アレルギー対応といった「フードダイバーシティ」への対応は、多くの飲食店にとって避けては通れない課題になっています。一人ひとりのお客様に寄り添った食事を提供することは、満足度を高めるだけでなく、社会的信頼や店舗のブランド力向上にもつながります。
しかし、何も考えずにフードダイバーシティ対応に取り組もうとすると、結果としてオペレーションの混乱や現場の疲弊、さらにはフードロスの増大を招きます。
そこで重要になるのが、フードダイバーシティそれぞれの「違い」を見るのではなく、「共通点」を学んだ上で、店舗の全体最適をしっかりと考えることです。

専用食材・専用調味料はできる限り避け、今あるものをチェック
フードダイバーシティ対応のために「専用食材」や「専用調味料」を導入する店舗は少なくありません。確かにそれらを使えば、「対応している」という形を簡単に作ることができます。しかし、その裏には大きなリスクが潜んでいます。
例えば、ヴィーガン対応メニューを作ろうと専用の食材を仕入れたとします。ところが、その日にヴィーガンのお客様が来なければ、その食材は在庫として残り、やがて廃棄対象となる可能性が高いのです。こうした状況が積み重なれば、食材ロスはコストとなり、店舗経営を圧迫しかねません。
つまり、安易な専用食材や専用調味料の導入は、「在庫リスク」を増幅させる存在なのです。だからこそ、まずは「今ある食材や調味料の中で対応できるものはないか」を探すことが重要です。

違いを見る考え方

共通点を見る考え方
どうしても専用食材・専用調味料が必要だと感じたら
どうしても専用食材や専用調味料を使用せざるを得ない場合には、それを一般メニューにも使用できないかを検討することが重要です。
例えば、ヴィーガン対応の食材を仕入れた場合でも、既存の定番メニューに取り入れられれば、特定のお客様だけに使う必要がなくなります。こうすることで、在庫の偏りや余剰を防ぎ、食材の無駄を最小限に抑えることができます。
さらに、一般メニューへの活用は単に在庫リスクの軽減にとどまりません。調理スタッフが新しい食材や調味料に慣れ、味のバリエーションや調理技術を広げる訓練にもなります。また、通常メニューでも使用できる食材を増やすことで、フードダイバーシティ対応を自然に店舗のオペレーションに組み込むことができ、特別感だけに頼らない持続可能な対応が可能になります。
つまり、専用食材や専用調味料を「特定の顧客対応だけ」に限定せず、店舗全体で活用できる形にすることが、効率的で無駄の少ないフードダイバーシティ対応のカギ なのです。
一歩目は調味料の「さしすせそ」の共通化
一歩目としては料理の基本である「さしすせそ(砂糖・塩・酢・醤油・味噌)」を共通化してみることから始めてみるのはいかがでしょうか。これをやってみるだけでも、フードダイバーシティ対応の簡素化、調達の効率化、ロスの削減、味の安定化といった効果がすぐに実感できると思います。
See Also

「こうでないといけない」を見直す重要性
料理の世界には伝統やこだわりがあり、それは文化の魅力の一部でもあります。しかし、「この料理には必ずこの食材・調味料でなければならない」というこだわりが多すぎると、フードダイバーシティ対応の際に専用の食材や調味料が増えしまいます。
その結果、オペレーションは複雑化し、在庫管理も難しくなり、フードロスを引き起こす原因にもなります。つまり、「こだわりの積み重ね」が、フードダイバーシティ対応の大きな障壁になることもあるのです。必要なのは、違いに縛られるのではなく、共通点を受け入れる柔軟性です。
例:お好み焼きソースで考える発想の転換
具体的な例を挙げましょう。
お好み焼きソースは、多くのメーカーが販売していますが、肉などの動物性原材料を含むものと、含まないもので味自体はほとんど変わりません。もし、若干の違いが気になる場合でも、通常のお好み焼きには肉を入れたり鰹節をかけたりしますので、そこで調整が可能です。つまり、ソースに動物性原材料を入れる必然性は本来ないのです。
ここで「うちのソースはこうでないといけない」「うちは長年このソースだから変えられない」「ソースが変わると常連客が離れるのではないか」と考えてしまうと、結果的に「専用ソース」を仕入れざるを得なくなります。一方、「味は大きく変わらない」という事実に気づき、共通化できる発想を持てば、動物性を含まないソースを全体のベースにしても問題ないわけです。
この「発想の転換」こそが、フードダイバーシティ対応における大きなヒント です。
参考までに、創業100年以上、広島で多くの方に愛されているサンフーズ社の「ミツワソース」は実はヴィーガン対応していますが、その味に疑いを持つ人はほとんどいません。これはつまり、お好み焼きソースは動物性原材料がなくても長年成立している、といってもいいのではないでしょうか。
専用食材・調味料を勧めるセミナーやコンサルタントに注意
専用食材・専用調味料を使うことを勧めるセミナーやコンサルタントには、注意が必要な場合があります。これは、彼らの知識やノウハウを否定するものではありません。例えば、ヴィーガンのコンサルタントはヴィーガンに関する知識に特化しているため、一般のお客様や、他の食文化との「共通点」を十分に考慮できず、結果として「専用食材・専用調味料を使ったヴィーガンのお客様専用メニュー」を提案する形になってしまうのです。
同様のことは、ハラールやグルテンフリー、アレルギー対応などの専門家にも当てはまりますが、「特定のお客様にしか売れないメニュー」はやはり販売量が伸びませんし、持続可能ではありません。
See Also
フードダイバーシティに対応したメニュー、ABC分析で「A」に入るためには?
お客様は徐々に増える
忘れてはならないのは、フードダイバーシティに対応したからといって、すぐにお客様が押し寄せるわけではないということです。フードダイバーシティに対応しているという情報が口コミやSNSを通じて徐々に広がり、「このお店なら安心して食べられる」と信頼が積み上がったときに結果に繋がってきます。
フードダイバーシティ対応は短期的な利益のためではなく、中長期的な視点を持つことが重要です。
See Also
フードダイバーシティ対応したらいつ成果が出る?多くの企業様が通る道とは?
まとめ
フードダイバーシティ対応の本質は「違いを増やすこと」ではなく、「共通点を学び、応用すること」 にあります。
-
違いではなく共通点を重視
特定の食文化に固執せず、店舗全体の最適化を意識する。 -
専用食材・専用調味料は最小限に
既存の食材や調味料で対応できる方法をまず検討。 -
どうしても必要な場合は汎用性を考慮
一般メニューへの応用で在庫リスクを減らし、オペレーション効率も向上。 -
調味料の共通化から始める
「さしすせそ(砂糖・塩・酢・醤油・味噌)」を共通化すると、調達効率や味の安定化に効果。 -
専門家の指導には注意
専門家は特定分野に特化しているため、提案が偏ることがある。 -
中長期的な視点を持つ
フードダイバーシティ対応は短期的な利益よりも、信頼の積み重ねによって徐々に成果が現れる。
これらを徹底することで、店舗はフードロスを減らし、効率的かつ持続可能に、多様なお客様を受け入れることができるようになります。