いま求められる「次の一手」とは?
2025年の夏、日本列島は観測史上最長・最強レベルの猛暑に見舞われています。平均気温の大幅な上昇により、農畜産業全体が大きな打撃を受け、特に牛・豚・鶏などの畜肉や卵の価格が急騰。小売や飲食店の現場では、仕入れコストの増加に直面し、対応に追われる状況が続いています。
この現象は単なる一時的な“高騰”ではなく、業界構造そのものを揺るがす「気候変動由来の食材リスク」として、より広く認識されはじめています。
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畜産品などに直撃する“猛暑リスク”
今夏の猛暑では、家畜の体調管理や飼料価格にも影響が及び、特に以下のような問題が発生しています:
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高温による乳牛や養鶏の産卵・採乳率の低下
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飼料価格の高騰(輸送費・飼料穀物の不作)
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畜舎の冷却費の増加
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熱中症などによる家畜の死亡リスク
結果として、牛肉、豚肉、鶏肉、卵といった主要食材の卸価格は、昨年同期比で軒並み2〜3割以上の上昇を記録。価格安定の見通しも立たないまま、飲食店にはメニュー構成の見直しが迫られています。
こうした事態は今後も起こりうる
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告によれば、今後10〜20年の間に、猛暑・豪雨・干ばつなど「極端気象」はさらに頻発・激化すると予測されています。
それに伴い、農作物だけでなく畜産物の生産安定性も今まで以上に脆弱になっていくことが予想されます。すなわち、「欲しいときに、いつでも、適正な価格で肉や卵が手に入る」時代は、もはや過去のものになりつつあるということです。
今、求められるのは「BCPとしての食の選択肢」
こうした不安定な供給リスクに備える方法として、近年注目を集めているのが、植物性食材や代替原材料を使ったメニューの導入です。
特にBCP(事業継続計画)という観点では、次のようなメリットが挙げられます:
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供給が比較的安定している:豆類、穀類、野菜などは気候の影響を受けにくく、生産国も分散している
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調達コストの変動が少ない:動物性に比べ価格変動が穏やか
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保存性が高くストックしやすい:冷凍や乾燥などで備蓄が可能
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多様なニーズに対応可能:ヴィーガン・ベジタリアンにも対応
これまで「選択肢のひとつ」だった植物性メニューが、「事業継続の要」へと位置づけが変わりつつあるのです。
具体的な代替例
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豆腐・高野豆腐:タンパク源として和・洋・中に活用可能
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植物性ミルク(オーツ、アーモンド、ソイ):カフェメニューやスイーツに
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卵の代替(ひよこ豆粉、豆乳+酢など):焼き菓子やドレッシングにも使用可能
また、調味料や出汁についても魚介を使用しない植物性出汁、グルテンフリーの醤油などが各メーカーから続々と登場しており、より“多様性対応”がしやすい環境が整ってきています。
気候変動時代の飲食店経営に必要な「備え」
今後も続くであろう猛暑や異常気象の影響を考えると、飲食業は「気候と共に変わる産業」へと進化していかざるを得ません。
その中で、動物性原材料への依存を減らし、植物性中心の柔軟なメニュー構成を取り入れることは、単なる“代替”ではなく、“経営の持続性”を高める戦略です。
最後に:フードダイバーシティは「危機回避」と「価値創造」の両立
動物性食材に頼らないメニューは、結果的にフードダイバーシティの実現にもつながります。宗教・文化・健康志向など多様なお客様に対応することができ、観光立国・日本の飲食店としての価値も高まります。
「未来に備える食のあり方」が、今問われています。