今と未来を見据えた飲食店経営の重要性
昨今、飲食業界を取り巻く環境は大きく変化しています。
特に深刻な問題となっているのは、畜肉および魚介類の価格高騰に加え、地球環境の変化により生態系そのものが変わりつつあることです。その結果、これまで使用していた食材(特に畜肉および魚介類)を今後も安定して確保することが難しくなっているのです。
See Also
さらに、世界的なインフレ、輸入規制、紛争などによる物流の不安定化といった構造的要因も重なり、残念ながらこれらの資源価格が値下がりする見込みは極めて低く、高値で推移することが現実的なシナリオとなりつつあります。
こうした状況の中で日本の飲食店に求められるのは、BCP(事業継続計画)の観点から、魚介類に依存してきた和食の基本である出汁などの見直しを行い、「うま味の再構築」と「食材リスクの分散」に取り組むことです。
価格・供給の両面で安定性を持つキノコ
こうした中、椎茸、しめじ、舞茸などのキノコ類に改めて注目すると、現在は主に国産で栽培されており、天候リスクや国際情勢に左右されにくく、供給・価格の両面で安定していると言える食材のひとつです。
ご存知の通り、キノコにはうま味成分であるグアニル酸が豊富に含まれており、昆布のグルタミン酸と組み合わせることで、深い味わいの植物性出汁を生み出すことが可能です。
ヴィーガン対応のイノシン酸の登場
もうひとつの画期的な進展が、ヴィーガン対応のイノシン酸の登場です。従来、イノシン酸はカツオ節や動物性原料から抽出されていたため、植物性・ヴィーガンレシピには使用できない「最後の壁」とされていました。
しかし、2024年にクロレラ工業株式会社が植物由来のイノシン酸(ヴィーガンイノシン酸)を開発・販売を開始。これにより、グルタミン酸+グアニル酸+イノシン酸という3大うま味をすべて植物性で再現できる時代が到来しました。
See Also
ヴィーガンなのにイノシン酸を含む「mochotto with CHLORELLA 万能だし」で広がるうまみの可能性
今こそ、「味と価格のBCP」を始めるとき
飲食店にとって、味はブランドであり最大の武器です。しかし、その「味」が価格高騰中の食材や入手困難な食材に大きく依存している場合、それは今後“ビジネスリスク”となり得ます。たとえば、以下のような取り組みが今後ますます重要になってくるのではないでしょうか。
-
ヴィーガンイノシン酸+椎茸+昆布による“植物性出汁”の研究
-
日本の伝統的な料理技術の見直し、多国籍・他ジャンルの料理技術の研究
-
複数素材を組み合わせた多層的なうま味設計による「味の奥行き」の研究
これらの取り組みを単なる代替手段としてではなく、「新たなブランド価値の創出」「課題となっていたフードダイバーシティへの対応」として捉え実践すれば、お店としてのさらなる成長につながります。
もちろん、完全な植物性にこだわらなくても、既存レシピにおける動物性原材料の使用量を抑えつつ、味や価格の安定性を維持するための研究を進めることも大切な取り組みです。
フードダイバーシティ対応は、BCPであり成長戦略でもある
これまでヴィーガン、ハラール、グルテンフリーなどといったフードダイバーシティ対応と言えば、アレルギー、宗教、ライフスタイルへの配慮がメインで語られてきました。しかし今後は、原材料調達リスクを分散するBCP(事業継続計画)の観点から、その重要性がさらに高まっていくと考えています。
つまり、フードダイバーシティ対応とは、単なる“配慮”や“時代への適応”ではなく、経営の強さを育む選択肢でもあるのです。今こそ、レシピという“味の資産”を再設計する絶好の機会です。