変わる素材、問われる柔軟性
ここ数年、全国的に気候変動の影響が顕著になっています。猛暑、豪雨、台風の大型化、春秋の短縮。これらの現象は、日本の農産物の生育環境に確実に影響を及ぼし始めています。収穫量の減少や品質のばらつきにより、従来当たり前だった食材が手に入りにくくなるケースが増えているのです。
たとえば、果物は糖度や色づきが左右され、米や根菜は高温障害や病虫害のリスクが上昇。これにより、数年前に起きた卵高騰、昨今の米騒動などからも分かる通り、これまで使っていた「定番食材」が突然使えなくなることも珍しくなくなってきました。
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BCPとしてのフードダイバーシティ対応──動物性原材料の価格高騰と供給不安に向き合う
「こうでなくてはならない」が柔軟性を奪う
このような変化の中で、提供する料理に対して「この食材でなければ」「この味でなければ」という原理主義的な姿勢を取り続けることは、大きなリスクとなり得ます。
もちろん、伝統や味へのこだわりは尊重されるべきものです。しかし、素材が確保できない状況で“こだわり”が過剰に硬直すると、結果的にメニュー縮小やサービス停止につながってしまう可能性すらあります。
今、必要なのは、変化を前提にした柔軟性と、料理の本質を守るバランス感覚です。
BCPの視点が飲食業にも求められる
気候変動によって「いつも通りの仕入れ」ができなくなるリスクが高まっている今、飲食業においても BCP(事業継続計画) の視点は不可欠です。
たとえば:
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メニューの素材に応じた代替案の事前準備
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地域や季節による仕入先の分散
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長期保存可能な食材の活用
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仕入れが今後も安定するであろう見込みが高い食材でのメニュー開発
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これらを日常業務の延長で準備しておくことで、突然の供給難や価格変動があっても、一定のサービス提供を維持することができます。
素材の変化は、食べるものの変化へ
気候が変われば、育つ作物も変わり、人々が日常的に食べるものも変化します。
たとえば、日本の一部地域では、かつては難しかった亜熱帯フルーツや雑穀類の栽培が広がり始め、逆に寒冷地向けの葉物野菜の収穫が不安定になるケースも見られます。
こうした素材の変化は、外食・中食のメニュー構成だけでなく、消費者の味覚や選択の基準も変えていきます。つまり、「何を食べるか」だけでなく「何が食べられるか」の前提自体が、今後ますます多様化していくということです。
“こだわり”と“しなやかさ”の両立を
こだわりを持つことと、変化を受け入れることは矛盾しません。むしろ、料理の本質を守りながら素材や手法に柔軟さを持つことこそが、これからの飲食店に求められる姿勢です。
料理の「かたち」や「材料」が変わっても、訪れる人に伝わる想いや文化は変わらない。だからこそ、変化を恐れず、持続可能な“自分たちらしい料理”を模索し続けることが、フードダイバーシティ時代の強みとなるのです。
まとめ:変化を恐れず、柔軟に“自分たちらしさ”を守る
気候変動はもう、将来の話ではありません。今、起きていることです。
だからこそ、料理人や飲食店経営者は「変わらないために、変わる」柔軟な視点を持ち、BCPとしてのプランニングを進めていくことが求められます。
「こうでなくてはならない」を一度手放し、素材や方法が変わっても「大切にしたい想い」や「らしさ」を軸に据え直す。そのしなやかさこそが、気候変動時代の飲食店に求められる新しい強さなのかもしれません。