“知っている料理”の差分こそが満足度の鍵
農林水産省の発表によると、海外における日本食レストランの数は約18.7万店に達し、この2年間で2割増加しています。いまや世界各地で日本食を楽しむ人々が増え、日本食は広く親しまれる存在となりつつあります。
そのような状況の中で、訪日外国人旅行者が日本で「食べたい!」と楽しみにする料理は、寿司、ラーメン、天ぷらなど、基本的にはすでに母国で親しんでいる日本食です。なぜなら、多くの旅行者は母国で食べている日本食と、本場日本での味や体験との違いを確かめたいと考えているからです。
つまり、旅行者にとっての食体験の核心は「その差分を発見すること」にあるといっても過言ではありません。
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海外の日本食レストランは何でも屋が基本
海外の日本食レストランは「何でも屋」スタイル
世界の主要都市には多くの日本食レストランがありますが、寿司・ラーメン・天ぷら・うどん・たこやきなどを同時に提供する「何でも屋」スタイルが主流です。つまり、旅行者の多くはこうした体験を経て来日します。
一方、日本では寿司専門店やラーメン専門店、天ぷら専門店など、一つの料理に特化した店が多く、その専門性こそが旅行者にとって「海外との違い=差分」を感じる大きなポイントとなります。
旅行者は「知っている料理」を日本で注文する
訪日する外国人旅行者は、日本でいきなり未知の郷土料理や地域特有のメニューに挑戦することはほとんどありません。多くの場合、まずは母国でも提供されている寿司やラーメン、天ぷらといった日本食を注文します。これは、味や見た目、食べ方のイメージがある程度把握できているため、安心して選べるからです。
さらに重要なのは、旅行者が「母国で食べた日本食」と「日本で提供される本場の日本食」との違い=差分を体験したいという心理です。たとえば、海外で食べた寿司と日本の寿司の酢飯の風味やネタの鮮度の違い、海外のラーメンと日本のラーメンのスープの濃厚さや奥深さを比較することで、「なるほど、これが本場の味か」と感動を覚えます。この“差分を知る体験”こそが、旅行者にとって食の楽しみであり、旅の醍醐味のひとつになっているのです。
そして、この差分体験は単なる個人の感動にとどまらず、母国に戻って家族や友人との会話のネタとなり、SNSでのシェアや口コミの材料にもなります。
逆の立場で、日本人も同じ体験をしている
これは訪日する旅行者だけの感覚ではありません。例えば日本人がイタリアを訪れたとき、
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「サイゼリヤのパスタとイタリア・ローマのパスタはどう違うのか」
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「ピザハットのピザとイタリア・ナポリのピザはどう違うのか」
といった比較を意識して食べる方が多いのではないでしょうか。つまり、知っているものを現地で食べて違いを楽しむことこそ、旅行の普遍的な楽しみ方です。特にイタリア語を話せない・分からない状況だと、全く知らないイタリア料理は選びにくいという方が多いのではないでしょうか。
差分を意識した受け入れが鍵
飲食店や宿泊施設が海外の日本食事情を理解し、「差分」を意識した演出や説明を行うことは、旅行者の満足度を大きく高めます。
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「海外のラーメンは一風堂などの影響でとんこつ系が多いですが、日本は地域性があります。うちの地域では味噌が有名です。」
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「海外の天ぷらは衣が厚めで油っぽいことがありますが、日本の天ぷらは軽くサクサクで素材の味を引き立てます。」
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「海外ではサーモン、マグロ、アボガドを中心としたロール系が多いですが、日本は数十種類以上のネタから選べて、握りスタイルで食べるのが一般的です。」
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「海外では麺はスープに浸かっているものという認識が主流のため、そばも温かいそばが多いですが、日本ではコシと香りを楽しむために冷たいそばで食べることが多いです。」
こうした案内は、旅行者に「学び」と「驚き」を与えるだけでなく、食を通じて旅の質を高め、より深い日本体験へとつながります。
まとめ
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海外の日本食レストランは「何でも屋」が多く、本場との違いが明確。
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旅行者は知っている料理を入口にし、差分を体験することで満足度を得る。
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店側が海外の日本食レストランとの「差分」を意識して伝えることが、満足度を高める。
“差分を楽しむこと”こそ、旅を特別なものにする最大のエッセンスです。
