光合成微生物の力でサステナブルな細胞培養を実現

2024年10月3日、早稲田大学、東京女子医科大学、神戸大学の共同研究グループは、自浄作用および栄養循環を果たす食料生産システムを構築するため、光合成微生物を利用した新しい細胞培養システムを開発しました旨を発表いたしました。

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培養肉

以下、プレスリリースより

発表のポイント

・乳酸を吸収する光合成微生物シアノバクテリアを動物細胞と共培養※1することで、相互に栄養素と老廃物を交換する培養システムを構築し、動物細胞の長期培養を実現

・成長因子※2を分泌する動物細胞とシアノバクテリアを共培養した時に得られる培養上清液※3は、動物細胞を単独で培養した時に得られる上清液よりも3倍以上骨格筋芽細胞の増殖を促進

・本培養上清液を用いることで培養肉※4生産の課題となっている動物血清の使用を削減できることを確認。今後、培養肉生産だけでなく、精密発酵やバイオ医薬生産に応用することで、食料・医薬品の生産コストの削減および環境負荷低減に貢献の可能性

早稲田大学理工学術院の朝日透(あさひとおる)教授、同大大学院先進理工学研究科(一貫制博士課程)の秋尚雅(チュサンア)、および東京女子医科大学先端生命医科学研究所の清水達也(しみずたつや)教授、原口裕次(はらぐちゆうじ)特任准教授の研究グループは、神戸大学先端バイオ工学研究センターの蓮沼誠久(はすぬまともひさ)教授の研究グループと共同で、自浄作用および栄養循環を果たす食料生産システムを構築するため、光合成微生物を利用した新しい細胞培養システムを開発しました。

近年、持続可能な食肉生産技術として培養肉が注目されていますが、動物血清の使用や老廃物の蓄積および栄養枯渇により、多量の培養液使用とその廃液の発生が課題となっています。本研究では、動物細胞の代謝老廃物(乳酸・アンモニア)を栄養源(ピルビン酸・アミノ酸)に変換する光合成微生物のシアノバクテリアを成長因子分泌動物細胞と共培養することにより、動物血清を使用せず、さらに培養液の使用量を削減する低コストで低環境負荷の培養肉生産につながる細胞培養システムを実現しました。

本研究成果は、2024 年8月23日にネイチャー・パブリッシング・グループのオンライン総合科学誌『Scientific Reports』に発表されました。
論文名:A serum-free culture medium production system by co-culture combining growth factor-secreting cells and L-lactate-assimilating cyanobacteria for sustainable cultured meat production

※1 共培養
2種類以上の細胞を同じ培養液で一緒に培養することを指します。これにより、細胞間の相互作用が起こり、情報伝達物質や生理活性物質の分泌が向上する効果が期待されます。

※2 成長因子
細胞の増殖や分化を促進するタンパク質やペプチドのことです。成長因子は、細胞の情報伝達を刺激し、さまざまな生理的プロセスを制御します。

※3 培養上清液
細胞を培養した後の培養液を指します。この上清液には、細胞が分泌した成長因子やその他の分子(老廃物なども)が含まれ、細胞培養において正負両面(細胞の生存と増殖、細胞死・増殖停止の両側)にわたり重要な役割を果たします。

※4 培養肉
動物から採取した細胞を培養して、組織工学の技術を用いて作られる人工肉のことです。動物を直接屠殺することなく生産されるため、環境負荷や動物倫理に配慮した技術として注目されています。

※5 リコンビナント
遺伝子組換え技術を利用して作られた生物や物質を指します。特定の目的に応じて遺伝子操作を行い、新たな形質を持たせた微生物やタンパク質が「リコンビナント」として利用されます。