2017年4月25日
ハラール、ムスリム対応という言葉に続いて、昨今は「ムスリムインバウンド」という言葉を聞く機会が増えました。インバウンド(訪日外国人客)関連の事業者はこれまでの中国、韓国、台湾からの誘客に続き、今度はASEAN(東南アジア諸国連合)からのムスリム客誘致に力を入れているのです。そうした動きもあって、今では首都圏はもとより、地方都市でもムスリム客を目にする機会が増えました。今回は、ムスリム客に人気の飲食店とその人気の秘密を探りましょう。
ムスリム客の書き込みが認証代わり
「ムスリム対応している飲食店で、参考になるのはどこか」と聞かれると、私はまず日光軒(栃木県佐野市)と祭(大阪市福島区)の2つを挙げています。理由は、独自の細やかな配慮によってムスリム客の信頼を獲得しているからです。日光軒は老舗の中華料理店、祭は開店からまだ1年足らずの日本食店ですが、店内を見渡すとムスリム客が残していった痕跡の多さに驚かされます。
日光軒には在日ムスリムのほか海外のクリケットチームのサインや写真が飾られ、長年多くの人に愛されてきたお店であることが一目で分かります。一方、祭にはムスリムダイヤリーと名付けられたアンケート兼メッセージノートが常備されており、何がおいしかったか、どうやってお店を知ったのか、日本のどの空港から来てどの空港から帰るのか、といった質問のシートが貼り付けられています。ノートにはムスリム客が思い思いのメッセージを書き残しており、他のムスリム客が眺めて楽しめるように工夫されています。
両者に共通しているのは、ハラール認証を取得していないという点です。アルコールを求める日本人客に対応している一方で、ムスリム対応として皿、調理器、食材の保管等を徹底して分別しているのが評価されているのです。祭ではムスリムスタッフを雇用しているのもプラスになっていると思われますが、何より店内の書き込みがハラール認証に代わるものとして捉えられているのです。
人気店は女性を取り込んでいる
このチャートをご覧下さい。これは「国別・男女別ムスリム来客数と客単価」です。データの提供元は先述の祭(定員30名)で、オープンした2016年5月から12月までの集計データをチャートにまとめています。
まず確認できるのは女性客の多さです。本連載の第3回でも女性客の重要性を解説しましたが、この結果を見る限り、その傾向は益々強まっているといえます。これはあくまで1店舗のデータに過ぎませんが、女性が全体の76.5%、マレーシアとインドネシアの女性だけでも全体の55.4%を占めるというのは非常に興味深いです。
客単価は概ね1,300円から1,600円といったところですが、シンガポールは女性1,853円、男性2,007円と、他の国と比べて高額になっています。ぐるなびのアンケート調査結果(*)によると、外国人客の平均単価はランチが1,644.6円、ディナーが4,161.5円との事ですので、今後はどう客単価を上げていくのかが課題でしょう。
客単価を上げるには
飲食店が客単価を上げるには、メニューを改編する、注文数を増やす、団体客を増やす、飲食以外の購入機会を増やすなどさまざまありますが、ここではムスリム客に適した例をご紹介します。
まずは体験ニーズに応えるサービスの提供です。訪日観光客のニーズがモノ消費からコト消費に移っているのはよく知られています。本連載の第4回でもムスリム客のニーズの変化について触れ、日本ならではの絵になるシーンを求めている様子を解説しました。「やってみたかった」というニーズに応える体験型サービスの付加価値は高く、顧客の満足度を高めることができます。
次はお土産です。「日本産のハラール商品はどこで買えるのか?」という質問は今でもよく受けます。空港、免税店、大手百貨店の一部では取扱いが始まっていますが、宿泊先近くのスーパーやコンビニまでにはまだ行き渡っていません。従って、来店客に日本産のハラール商品をお土産として提供するのは効果的です。サンプルを試したりして楽しみ方を知ることができれば、顧客の購入意欲を高めることができます。
最後に朝食です。ムスリム対応している飲食店は増加傾向にあるものの、朝食を用意しているケースはまだまだ少ないのが現状です。ホテルに宿泊しているムスリム客はあれこれ気にしながら、民泊しているムスリム客は前日に買い込んだものを自炊して朝食を取っています。ディナーで来店されたお客様に明日の朝食としてプラス一品お勧めする事は客単価を上げるのに有効な上、ムスリム客からも喜ばれるでしょう。
次回は訪日ムスリムがどうやって店舗を探索しているのかを検証します。
*ぐるなび「加盟店(飲食店)」「中国人ユーザー」アンケート調査結果 2016年9月27日
<筆者紹介>
横山真也
Yokoyama & Company (S) Pte Ltd マネジングディレクター
ハラールメディアジャパン株式会社 共同創業者
ハラール関連事業としては2014 年元日に「世界初の英語発信による日本ハラール専門ポータルサイト」HALAL MEDIA JAPAN を開設、14 年にはハラール・ベジタリアンレストラン検索サイト・アプリ「HALAL GOURMET JAPAN」をサービスイン。日本最大のハラールトレードショーであるJAPAN HALAL EXPO を14 年と15 年に開催、16 年には新たにHALAL EXPO JAPAN として日本初のムスリムファッションショーTOKYO MODEST FASHION SHOW と併せて東京で開催した。17 年11 月には東京・浅草で4度目となる同イベントを開催する。