“未来のタンパク源”になりうるか
気候変動、人口増加、そして動物福祉への関心の高まり――。世界の食を取り巻く環境は急速に変化しています。その中でいま注目を集めているのが「培養肉」。動物を屠殺せず、細胞から肉を育てるこの技術は、食料安全保障やサステナビリティの観点から“未来のタンパク源”として期待されています。
シンガポールではすでにレストランで培養チキンが提供され、アメリカでも販売が始まりました。そしてイスラエルでは世界初の培養牛肉が承認され、商業化に向けた動きが加速しています。
では、日本市場はどの段階にあり、世界とどう向き合うべきなのでしょうか。本記事では、培養肉の現状と展望を、日本・世界の両面から探ります。
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1. 培養肉とは?
培養肉(Cultivated Meat)は、動物を屠殺することなく細胞培養によって作られる新しいタンパク源です。培養肉(Cultivated Meat / Cell-cultured Meat)と呼ばれるだけでなく、ラボラトリーミート(Lab-grown Meat)、ノーキルミート(No-kill Meat)、クリーンミート(Clean Meat)など様々な呼ばれ方をしています。
どうやって作るの?
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牛や豚、鶏などから ほんの少しの細胞(お肉のもとになる細胞)を取ります。
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その細胞を、栄養たっぷりの液体の中で育てます。
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細胞がどんどん増えて、筋肉のかたまり=お肉になります。
つまり、畑で野菜を育てるみたいに、研究室で「お肉を育てる」といったイメージです。
2. 世界市場の動向
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アメリカ・シンガポール・イスラエルが先行
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2020年にシンガポールが世界で初めて培養肉の商業販売を承認。
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アメリカでも2023年にFDAとUSDAが承認し、培養チキンが販売開始。
- イスラエルではAleph Farmsが世界で初めて培養牛肉の販売承認を取得し、Believer Meatsなど複数の企業が商業規模の工場建設やコスト削減技術で世界をリードしています。
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投資規模の拡大
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グローバルでは200社以上のスタートアップが参入。
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2020〜2024年の累計投資額は数十億ドル規模に達している。
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市場予測
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各調査会社は「2030年までに数百億ドル規模」「2050年には世界の肉消費の10〜20%が培養肉」という見通しを発表。
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3. 日本市場の現状
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法規制と認可の課題
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日本ではまだ培養肉の販売は承認されていない。
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食品衛生法の枠組みや安全性評価プロセスの整備が必要。
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スタートアップの挑戦
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東京大学発ベンチャー「インテグリカルチャー」が世界的に注目される。
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他にも細胞培養技術を応用したフードテック企業が増加中。
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消費者の認知度
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「食べてみたい」という声は増えているが、価格や安全性に対する不安も依然として大きい。
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4. 培養肉がもたらす可能性
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環境負荷削減
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従来の畜産に比べ、温室効果ガス、水、土地の使用量を大幅に削減できると期待される。
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宗教・食の多様性への対応
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ハラールやコーシャの観点からも「屠殺を伴わない肉」として議論が始まっている。
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将来的にはヴィーガンやベジタリアンとも共存しうる「選択肢のひとつ」になる可能性。
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食料安全保障
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高齢化・人口減少が進む日本においても、新しい食の産業として注目される。
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5. 未来展望
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短期(〜2030年)
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日本では規制整備と安全基準の策定が進み、限定的な販売が始まる可能性。
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高価格帯レストランや展示イベントでの提供から普及がスタート。
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中期(2030〜2040年)
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コストダウンが進み、一般家庭向けにも流通。
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外食チェーンや給食など大量供給の場に拡大。
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長期(2040年以降)
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培養肉が「肉のひとつのカテゴリー」として定着。
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畜産、植物肉、培養肉の共存時代へ。
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まとめ
培養肉は、まだ日本では実用化に至っていないものの、世界ではすでに商業化が進んでいます。環境、宗教、健康といった多様なニーズに応えるポテンシャルを持ち、日本においても「フードダイバーシティ」を支える重要な選択肢となる可能性があります。今後の規制整備と技術革新に注目が集まります。