そもそも薄切りのお肉の食べ方が分からない?
日本の食文化を象徴するものの一つに、薄切りのお肉があります。多くの飲食店様から「すき焼きやしゃぶしゃぶをハラールで提供したい」といった声をいただくのですが、弊社からは「残念ですが、現時点ではあまり売れないと思います」という回答をさせて頂いております。
薄切りのお肉、日本人にとっては一般的なスタイルですが、ムスリムのお客様にはまだまだ受け入れられにくいのが現実です。なぜムスリムのお客様には薄切り肉が売れにくいのか、その理由と未来の可能性について考えてみます。
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海外の肉屋でも薄切り情報については「日本語表記」のみ
1. 薄切り肉の文化は日本独自のもの
日本では「お肉を薄切りにして調理する」ことが一般的ですが、実はこの食文化は日本特有のものです。世界的に見ると、肉はブロックのまま焼いたり、大きなステーキとして提供されるのが主流です。
ムスリム圏でも同様で、例えば中東ではケバブのように串焼きにするか、インドネシアやマレーシアではカレーや煮込み料理に使うことが一般的です。欧米のムスリムの方々も、ステーキやグリル料理を好む傾向があります。そのため、薄くスライスされたお肉に対する馴染みがなく、そもそも「どうやって食べるのか分からない」という状態になりやすいのです。
2. まだまだムスリムのお客様は“分かりやすい”料理を求めている
ムスリムの旅行者や在住者にとって、日本の食文化はまだ未知の部分が多くあります。そのため、まずは「何の料理かすぐに分かる」ものが選ばれる傾向があります。
たとえば、ステーキ、ハンバーグ、グリルチキンといった、世界共通で食べられている料理の方が受け入れやすいのです。すき焼きやしゃぶしゃぶといった料理は、「具材を煮込んで、タレにつけて食べる」といったプロセスが分かりづらいという声があります。
3. ハラールすき焼き・ハラールしゃぶしゃぶは、過去に多くのお店が失敗
これまでも、ハラール対応のすき焼きやしゃぶしゃぶを提供する店は多くありました。しかし、多くのお店が思うように売上を伸ばせず、取り扱いをやめたりしています。
理由はやはり「薄切り肉の文化がムスリム圏にはない」「食べ方が分かりにくい」「味付けが馴染みのない甘辛いものが多い」といった点です。ムスリム旅行者の多くは、日本の食文化を理解する余裕がないまま限られた日数で観光しているため、わざわざ新しい食べ方に挑戦しようとはしません。そのため、どうしても定番の料理が選ばれることになります。
4. 数年後には状況が変わるかもしれない
しかし、これは「今現在」の話です。5年後、10年後、日本のハラール対応がさらに進み、例えばムスリムの旅行者も「日本はもう5回目です」という方が増えてきた際に状況は変わるかもしれません。
実際、かつては日本の寿司、日本式カレー、もつ鍋なども「ムスリムには難しい料理」とされていましたが、今ではハラール対応の店舗が増え、人気メニューの一つになっています。同じように、すき焼きやしゃぶしゃぶも、時間をかけて認知度を高めれば、ムスリム市場で受け入れられる可能性は十分にあります。
5. 「日本人と全く同じものを食べたい」という時代になれば売れる
現在のムスリム市場では「ハラール和牛などを使い、馴染みのある料理を食べる」ことが優先されています。しかし、今後、日本の文化への理解が進むにつれ、「せっかく日本に来たのだから、日本人と同じものを食べたい」と考えるムスリムの方々も増えてくるでしょう。
ムスリム関係なく、まだ日本に慣れていない外国人旅行客は「海外でも馴染みのあるメニュー」を求める傾向が強いですが、慣れてきた方は「日本人と全く同じもの」を受け入れるようになっています。ムスリム旅行者も同じように、訪日回数が増え、日本食への興味がさらに深まれば、薄切り肉を使った料理も売れるようになる可能性があります。
6. 「薄切りのお肉を流行らせる!」という強い意志があれば先駆者になれる
今すぐには売れなくても、「薄切りのお肉をムスリム市場で定着させる」という強い意志を持ち、諦めずに提供し続けたらどうなるでしょうか?
長期的に見れば、文化の壁を乗り越え、ムスリム市場で「すき焼き・しゃぶしゃぶの先駆者」になる可能性があります。スタートした最初は売れないと言われていた他の料理も、根気よく提供を続けた店舗が今では成功を収めている事例もあります。
ハラール対応をした薄切り肉料理が「日本ならではの新しいグルメ」として認知されれば、10年後にはムスリム旅行者の定番メニューになっているかもしれません。
まとめ
ムスリム市場において薄切り肉が売れない理由は、文化的な違いや食べ方の分かりにくさにあります。しかし、これは時間とともに変わる可能性があり、10年後には日本のムスリム市場で当たり前になっているかもしれません。
また、「薄切り肉を流行らせる!」という強い意志を持ち、根気よく提供し続ければ、将来的にその市場の先駆者になれる可能性もあります。ここは経営判断の一つとなってくるのではないでしょうか。