オペレーションの複雑化と属人化を避ける

世界中から訪れる旅行者、そして国内でも急速に多様化する食のニーズ。ベジタリアン、ヴィーガン、ハラール、コーシャ、グルテンフリー、アレルギー対応など、飲食業界が直面する課題は年々広がりを見せています。かつては「特別なリクエスト」とされてきたものが、今や当たり前に存在する前提条件となりつつあります。

一見すると「個別対応は大変そう」「別々に用意するとオペレーションが煩雑になる」と考えがちです。しかし実際には “避ければ避けるほど後から大変になる” のがフードダイバーシティ対応の特徴です。後回しにすればするほど、設備投資やスタッフ教育、仕入れルートの見直しなど、負担が一気に膨れ上がります。

別々にやるとオペレーションが複雑に

例えば、通常メニューとアレルギー対応メニューを完全に分けて作ろうとすると、仕入れや在庫管理、調理手順が二重三重になり、現場は混乱しやすくなります。その結果、ヒューマンエラーのリスクも高まり、提供スピードや品質に悪影響が出てしまいます。

実際に「特別メニュー」を用意している店舗では、

  • 注文が入るたびに厨房が慌ただしくなる
  • 提供に時間がかかることで顧客満足度が下がる
  • 特別対応をできる人材が限られるため属人化が進む。

といった課題が報告されています

共通化・汎用化で「やればやるほど楽になる」

一方で、食材や調理法を工夫して “共通化” を進めると、むしろ効率が良くなります。

  • 動物性食材を一部植物性に置き換えることで、ヴィーガンやアレルギー対応も同時に可能に。
  • ハラール対応を意識した仕入れにすれば、国内外の幅広いニーズを一度にカバー。
  • 「みんなが食べられるメニュー」を基本にすることで、追加対応が最小限で済む。

例えば、乳製品不使用のカレーを開発した店舗では、ヴィーガン、乳アレルギー、宗教的理由で乳製品を避ける方など、幅広い層に好評を得ています。結果として「特別メニュー」を作らずとも、誰もが安心して食べられる一皿が完成し、厨房の負担も軽減されたのです。

成功事例から学ぶ

  • ホテルビュッフェでは、最初から動物性食材を抑えた共通メニューを軸に構成することで、世界中の宿泊客に対応できるだけでなく、食材ロス削減にもつながった例があります。
  • カフェチェーンでは、プラントベースミルクを常設化したことで、ヴィーガンや乳アレルギー対応に加え、健康志向の顧客層も獲得しました。
  • 地方の飲食店では、地域の食材を活かしつつハラール対応を導入したことで、訪日観光客のリピート率が向上し、地域全体の集客にも貢献しています。

海外との比較から見える日本の課題

海外ではすでにフードダイバーシティ対応が「前提」として進んでいます。

  • ヨーロッパの多くの都市では、レストランのメニューにベジタリアンやグルテンフリーの表示が標準化されています。イギリスでは、アレルギー成分表示が法律で義務化され、違反すると罰則が科されるほど徹底されています。
  • 北米では、プラントベース食品の市場規模が拡大しており、チェーンレストランでも必ずヴィーガン向けメニューが存在します。対応が「選択肢の一つ」ではなく「顧客の期待」となっています。

一方、日本では「ニッチな要望」と捉えられることがまだ多く、対応の遅れが観光立国の成長を阻む可能性があります。海外からの旅行者が「日本は食事の選択肢が少ない」と感じれば、再訪意欲や滞在満足度に大きな影響を与えかねません。

まとめ

フードダイバーシティ対応は、後回しにすればするほど難しくなり、現場の負担も増えます。しかし、最初から「共通化」「汎用化」を意識して取り組めば、効率的で持続可能な仕組みを作ることができます。対応を進めれば進めるほど、結果的にオペレーションはシンプルになり、顧客満足度も向上します。

そして、海外の事例が示すように、フードダイバーシティはすでに「世界標準」です。いま日本が積極的に取り組むことで、訪日観光の競争力を高め、国内外の顧客から選ばれる飲食業へと成長していけます。