なぜ残されるのか、理由をお客様目線で考える

訪日ムスリム観光客の増加に合わせて、日本各地でハラール対応が進んでいます。
ムスリムが食べられる食材を厳選して魚や、野菜を調理し、調理器具、出汁、調味料にも気を配って——。

それでも現場からは、「せっかく用意したのに、あまり食べてもらえなかった」という声が聞こえてきます。

“食べられるもの”と“食べたいもの”は違う

例えばムスリム旅行者にとって魚や野菜の料理は、確かに“食べられるもの”です。しかし、それらは調味料さえ気をつければどこでも食べることができます。ムスリムに限ったことではありませんが、旅行者が旅行先で選ぶのは“食べられるもの”ではなく“食べたいもの”です。

日本の魚介類は非常に美味しいですが、そもそも生で食べることに抵抗がある方も多く、そこに価値を感じてお金を払う方は”まだ”そこまで多くありません。選択肢として魚を食べる場合もサーモンやマグロなど、食べ慣れている魚を選ぶ傾向が強いです。

例えば食材なら「ハラール和牛」「ハラール地鶏」が求めらている

ムスリム旅行客が日本で心から求めているのは、ハラール和牛ハラール地鶏のような母国ではなかなか食べられない“特別な体験になる食材”です。こうした食材を取り入れることが満足度を上げるカギです。

例えば料理なら「ラーメン」「寿司」「てんぷら」などが求められている

ムスリム旅行者が日本で「食べたい!」と思う料理は明確です。ラーメン、寿司、てんぷら——これらはSNSでも人気の“日本らしい料理”の代表格。ハラール対応をしながら、こうした「食べたい料理」を提供できるかどうかが問われています。

料理が残されたことに怒るのはちょっと待って

「せっかく作ったのに残された!」と腹を立てる気持ちはわかります。でも、ちょっと立ち止まって考えてみましょう。

日本人も、旅行先で料理を残すことがあるのではないでしょうか?

たとえば――

  • 期待していた味と違ったとき

  • 量が多すぎて食べきれなかったとき

  • 珍しい料理に挑戦したけど口に合わなかったとき

  • 体調的にどうしても受け付けなかったとき

そんな経験、誰しも一度はあるはずです。「もったいない」「申し訳ない」と思いながらも、手が止まってしまう。それは決して作ってくれた人を否定しているわけではないのです。訪日ムスリム観光客が料理を残した理由も、きっと同じ。“食べたい”と思わせる要素が足りなかった“最後まで食べたくなる構成になっていなかった”、そうした背景があるだけかもしれません。

そして、「わざわざ対応したのに!」という思いは、裏を返せば “対応してあげた自分たちの努力を評価してほしい” というエゴでもあります。

だからこそ、「なんで食べないんだ!」と怒るよりも、「どうしたら“食べたい”と思ってもらえるか?」と考えることが重要です。

他と比べられる時代になった

昔は「ハラール対応している店がほとんどない」状況でした。だからこそ、ムスリム観光客も“食べられる”ことが重要でした。しかし今は違います。日本全体がハラール対応を進め、旅行者には選択肢がある。つまり、“対応している”だけでは選ばれない時代になったのです。

会席料理は“理解不能”かもしれない

例えば旅館や料亭などの会席コースは日本らしいおもてなしの象徴ですが、その多くは「お酒を楽しむ前提」で構成が組み立てられています。お酒を飲まないムスリムにとっては、料理の順序や内容が「なぜこうなるのか?」と戸惑うことが少なくありません。特に、ご飯と味噌汁、漬物がコースの最後に出てくる構成は理解できないという声が多くあります。

もちろんそれを楽しみたいという方も多少いるでしょうが、日本の伝統を尊重しつつ、ムスリムのお客様にとっても納得できる体験にするためには、こうした点をしっかり理解し、コース全体の組み立て方を見直す必要があります。

これから求められること

  • ハラール対応の基本を守るのは当然
  • 食材では「ハラール和牛」「ハラール地鶏」など母国で食べられないものを
  • 料理では「ラーメン」「寿司」「てんぷら」など“食べたい”メニューを
  • 会席の構成や体験自体も見直す柔軟さを

「食べられる料理」から「選ばれる料理」へ。ハラール対応は、今こそ“次のステージ”へ進むときです。