2018年11月14日

去る10月10日から12日まで千葉市で『第二回日本の食品輸出エキスポ』が開催されました。日本の食品輸出一兆円の早期達成を目指して昨年初開催された同エキスポは、海外から多数のバイヤーを招聘する商談会として注目されています。今月は、このイベント通じて日本の食品の輸出について考察します。

輸出一兆円は目前も他国に見劣り


 日本の農林水産物・食品の輸出は堅調に推移しています。中間目標としていた7,000億円を一年前倒しで2015年に達成(7,452億円)に達成し、念願の1兆円も来年には達成できる見通しです。過去10年間の年平均成長率は8.5%で、着実に実績を伸ばしています。

 しかしながら、世界的には日本の存在感は薄いといわざるをえません。上のチャートは食料食品輸出の上位10カ国と日本の実績を示しています。日本は首位の米国の約20分の1、10位のイタリアの6分の1程度しか輸出できていないのです。念願の1兆円はあくまで通過点に過ぎません。世界の食市場は年平均成長率が6.5%、アジア市場は9.8%(*1)ということを考えると、日本の成長率は決して高いものではないのです。
 世界の食市場にはネスレ(スイス: 食品売上797億米ドル)、ペプシコ(米国: 同628億米ドル)、アンハイザー・ブッシュ(米国: 同455億米ドル)など巨大企業がひしめいています。日本企業ではサントリーホールディングス(同200億米ドル)がトップで、これに次ぐのがキリンホールディングス(同142億米ドル)とアサヒグループホールディングス(同142億米ドル)。こうした売上規模の差は、そのまま世界の食品輸出市場における日本のポジションを表しているようにも見えます。

ハラール和牛を求めていた中東のバイヤー

 先述のエキスポでは、昨年以上に食の多様性に対応した商品が出展されました。全出展企業600社の出展商品を調べたところ、グルテンフリーの関連商品を出展していたのは26社、ハラールは17社、ベジタリアンとヴィーガンは8社ずつ、コーシャ(ユダヤ教にのっとった食物)は1社でした。
最多のグルテンフリー商品では、こんにゃく麺、玄米パスタ、グルテンフリーラーメンといったユニークな食品が見受けられました。これらを出展した企業に聞いたところでは、「アレルギー対策とダイエット食材としてのニーズが大きくなっている」とのこと。フランスで乾燥しらたきが「ZEN PASTA」として人気を博しているのはその一例です。エキスポ全体の中ではまだ少数派であるものの、こうした食の多様性対応商品がユニークなニーズを捉えていることが確認できました。
 一方で残念な声も聞かれました。ハラール和牛です。この連載では以前からハラール和牛、ハラール国産牛のポテンシャルの高さをご紹介していますが、エキスポに出展したのはわずか一社のみ。東南アジアと中東からのバイヤーは「世界の牛肉市場では赤身が人気になっているが、中東のお客は霜降り牛を求められる。中でも霜降りの和牛は有名だ。ようやくハラール化が始まったので、ぜひ仕入れたいと思っていた」と非常に残念がっていました。農水省は和牛の輸出振興にも注力しているので、今後の対応が期待されます。

農林水産省肝いりのプロジェクト

 今夏、自民党の小泉進次郎氏らの提言を受けて、農水省がある情報サイトを立ち上げました。GFP(農林水産物・食品輸出プロジェクト)と名付けられた、農林水産物・食品の輸出を目指す生産者を対象とするコミュニティーサイトです。サイトに登録した生産者に対し、同省が輸出の可能性を診断した上で、輸出に関する助言や輸出業者とのマッチングも行うというもの。サイトの開設から一カ月半で400件以上の生産者が登録するに至っています。
 このサイトが目指すのは、あくまで日本からの輸出増です。その思いは「1億人ではなく100億人を見据えた農林水産業へ」というキャッチフレーズにも込められており、オーガニックや農業生産工程管理(GAP)の国際認証「グローバルGAP」といった国際的なニーズにも積極的に取り組もうという意気込みが見て取れます。同省は来年以降活動を本格化させ、勉強会や商談会といったイベントを通じてリアルに商談につながる場を提供してゆくとのことです。

 このプロジェクトは、生産者に対する従来の広く薄い支援から、狭く厚い支援への方針転換にも見えます。今後は、やる気のある国内の生産者と日本の食品に関心を持つ海外バイヤー、顧客をどう結びつけるかが課題になるでしょう。拡大し続ける食市場の中で、世界の巨大企業とどう伍してゆくのか。官民挙げての知恵と努力が求められそうです。

*1 「農林水産物・食品の輸出の現状」農林水産省平成28年2月より
*2 日本政府観光局 2017年訪日外客数年間推計値

PDF版はこちらからダウンロードしてください。

<筆者紹介>

横山真也
ヨコヤマ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役
フードダイバーシティ株式会社 共同創業者
ハラール、ビーガン、オリエンタルベジタリアン、グルテンフリーといった食の多様性対応~フードダイバーシティ~のプラットフォーマー。Halal Media Japan(ウェブ)、Halal Gourmet Japan(アプリ)、Halal Expo Japan(商談会)、Tokyo Modest Fashion Show(ファッションショー)といった複数ブランドの事業を展開している。今秋新たにUPSTARTS(オンラインBtoB=企業間取引=商談会)を立ち上げ、食の多様性対応商品の輸出をサポートする。ビジネス・ブレークスルー大学LA(ラーニングアドバイザー)、同大学院TA(ティーチングアシスタント)