完璧さではなく、共通点と確認力が重要
昨今、訪日インド人市場への注目が高まっています。
観光庁によると、2026年6月のインドからの訪日客数は、6月として過去最高を記録しました。さらに観光庁は、インドなどから初めて日本を訪れる層の拡大を図り、日本を旅行先として定着させるため、戦略的な訪日プロモーションと、多様な食習慣・文化的慣習に対応した受入環境の整備を進める方針を示しています。
日本の飲食店や宿泊施設にとって、インド市場は今後無視できない存在になっていくと考えられます。
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弊社では2019年、インドを訪問し、現地の食事情を「多宗教国家インド ベジタリアン等のフードダイバーシティレポート」として紹介しました。当時、街中にインド料理店が圧倒的に多く、和食を含む外国料理を日常的に目にする機会が少なかったことから、「様々なスパイスを使った料理に慣れたインド人に、世界の食をどう訴求するか」という課題と、大きな市場の可能性を感じました。
それから7年以上が経ち、訪日インド人市場が実際に広がろうとしている今、日本側に求められているのは、単に「ベジタリアン料理を一品作ること」ではありません。まず理解すべきなのは、インド人の食習慣は一様ではないということです。
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高いベジタリアン比率
インドのベジタリアン比率については、調査によって数値が異なります。
Pew Research Centerがインドの成人約3万人を対象に実施した調査では、自身をベジタリアンと回答した人は39%でした。一方で、肉を一切食べない人だけでなく、特定の肉を避ける人、特定の曜日だけ肉を食べない人などを含めると、81%が何らかの形で肉の摂取を制限していました。
一方、観光庁が2026年に公表した資料では、Euromonitorの2023年データを基に、インドの「ベジタリアン等」の人口比率を20.2%としています。この資料における「ベジタリアン等」とは、肉類、家禽類、魚介類を食べない、または基本的に食べない人を指します。
Pew Research Centerの39%と観光庁資料の20.2%には開きがありますが、これは調査主体、調査方法、調査年、ベジタリアンの定義が異なるためです。同じ条件で単純に比較できる数字ではありません。
ただし、いずれの調査からも、インドには相当数のベジタリアンがいることが分かります。さらに、食習慣は宗教だけで決まるものでもありません。Pew Research Centerの調査では、同じヒンドゥー教徒でも、地域によってベジタリアンの割合に大きな差が確認されています。家庭、地域、宗派、曜日、行事、個人の考え方によっても、食べるものと避けるものは変わります。
日本側が「インド人向けメニュー」を一つ作り、それですべてのインド人に対応できると考えることには無理があります。

どこでも見る「Veg」と「Non-veg」表記
イスラム教徒も2億人を超える
インド市場を考えるうえでは、ベジタリアンだけでなく、イスラム教徒への対応も欠かせません。
インドの2011年国勢調査では、イスラム教徒は総人口の14.2%を占めています。また、Pew Research Centerの推計では、2020年時点でインドのイスラム教徒は約2億1,300万人、総人口の約15%とされています。
インドでは、イスラム教徒は人口比で見ると少数派ですが、人数では世界有数の規模です。そのため、インド人旅行者の受け入れにおいては、ハラール対応が必要となる場合もあります。予約時には、ベジタリアンかどうかだけで判断せず、宗教上の理由から避けている食材があるかについても確認することが重要です。

インド最大級のモスク Masjid Jama
食品は緑のマークと茶色のマークで識別
インドでは、食品がベジタリアン向けか、ノンベジタリアン向けかをマークで識別できるようになっています。
ベジタリアン食品には「緑色の丸」、肉・魚・卵などを含むノンベジタリアン食品には「茶色の三角」が表示されます。注意すべきは、乳製品はインドの分類ではベジタリアン食品に含まれる一方、卵はノンベジタリアン食品に分類されます。
出典:インド食品安全基準局の表示制度を反映した現行規則、Food Safety and Standards(Labelling and Display)Regulations, 2020

最低限、確認したい4つの項目
インド人旅行者から予約や問い合わせを受けた際は、少なくとも次の項目を確認することが重要です。
- 肉・魚・魚介類を食べるか
- 卵を食べるか
- 牛乳、バター、チーズなどの乳製品を食べるか
- 玉ねぎ、にんにく、その他の根菜類を食べるか
重要なのは、店側が宗教や食習慣を推測して決めないことです。同じ宗教に属する人でも、実際の食べ方は異なります。本人または旅行会社に、食べられない「食材」を具体的に確認する必要があります。
「食べられる料理」と「旅行中に食べたい料理」
また、「食べられる料理」と「旅行中に食べたい料理」は必ずしも同じではありません。インド人旅行者は、日本ならではの和食を体験したい一方で、旅行中も食べ慣れたインド料理を希望することがあります。特に団体旅行や長期滞在では、「1日1回はインド料理を入れてほしい」という要望も少なくありません。そのため、食事制限の有無だけでなく、和食・洋食・インド料理を旅行中にどの程度の割合で希望するかまで、事前に確認しておくことが重要です。
和食では天丼が対応しやすい&好みにも合いやすい
インド人旅行者から和食の要望があった場合、比較的対応しやすい料理の一つが天丼です。
インドでは揚げ物料理が広く親しまれており、旅行中も揚げ物を好む方は少なくありません。そのため、天ぷらはインド人旅行者にも受け入れられやすい和食の一つと考えられます。
ご飯の上に野菜やきのこの天ぷらをのせることで、肉や魚を使わなくても見た目にボリュームがあり、日本らしい食体験として提供できます。
ただし、一般的な天ぷらの衣には卵が、天丼のタレには魚介類の出汁が使われることがあります。衣とタレをあらかじめヴィーガンで共通化しておけば、使用する具材を変えるだけで、多様なお客様に展開しやすくなります。
要望が複雑だからこそ、共通点がますます重要になる
インド人旅行者の食習慣は、宗教、地域、家庭、個人の考え方によって異なります。肉や魚だけでなく、卵、乳製品、玉ねぎ、にんにく、根菜類など、避ける食材の組み合わせもさまざまです。
すべての要望に対して個別の料理を用意しようとすると、仕入れや調理工程が増え、厨房の負担も大きくなります。要望が複雑になるほど重要なのは、それぞれの違いだけを見るのではなく、食べられるものの「共通点」を見つけることです。
その共通の土台として活用しやすいのが、肉、魚、卵、乳製品などの動物性原材料を使用しないヴィーガンです。まず料理のベースをヴィーガン対応で設計し、必要に応じて肉、魚、卵、乳製品などを後から加えることで、複数の食習慣に対応しやすくなります。
もちろんヴィーガンですべてのインド人に対応できるわけではありませんが、そこからお客様の条件に応じて足したり引いたりすることが、現場の負担を抑えながら、多様な要望に対応するための現実的な方法です。
インド市場を獲得するために必要なのは、完璧さより確認力
インド人旅行者を受け入れるために、最初からあらゆる食習慣に対応できる専用メニューを用意する必要はありません。
重要なのは、すべてに対応できることではなく、「何を食べられないのか」「どのような料理を希望しているのか」を事前に確認できることです。そのうえで、自店の料理に使用している食材や調味料、出汁などを把握し、対応できることと、できないことを明確に伝えます。曖昧なまま「対応できます」と答えることは、お客様との認識のずれやトラブルにつながります。
また、予約担当者が確認した内容を、料理長や調理スタッフ、配膳スタッフまで正確に共有することも欠かせません。確認しただけで現場に伝わっていなければ、対応したことにはならないからです。インド人旅行者の食習慣は多様であり、一つの「インド人向けメニュー」ですべてに対応することはできません。だからこそ必要なのは、完璧な設備や豊富な専用メニューではなく、相手の条件を確認し、自店の対応範囲を整理し、正確に説明する力です。
できることを増やす前に、まずは正しく確認し、正しく伝えられる体制をつくること。それが、インド市場から継続的に選ばれるための第一歩となります。
フードダイバーシティ株式会社では、インド人旅行者の受け入れに関する確認項目の整理から、メニューの設計・開発、スタッフへの情報共有、国内外への情報発信まで、飲食店や宿泊施設の状況に合わせて支援しています。インド市場への対応をご検討の際は、お気軽にご相談ください。お問い合わせはこちらから。
参考資料
- 観光庁「2026年7月長官会見要旨」(2026年7月31日更新)
https://www.mlit.go.jp/kankocho/page01_00065.html - Pew Research Center “Religion and food”(2021年6月29日)
https://www.pewresearch.org/religion/2021/06/29/religion-and-food/ - Food Diversity.today「多宗教国家インド ベジタリアン等のフードダイバーシティレポート」(2019年1月13日)
https://fooddiversity.today/article_10389.html