「代替」から「体験価値」へ

近年、日本でもヴィーガン対応を掲げる飲食店や商品が急増しています。インバウンド需要の高まりを背景に、「とりあえず肉を植物性に置き換える」「動物性食材を抜く」といった対応は、もはや珍しいものではなくなってきました。

しかし、こうした単なる“置き換え”にとどまるヴィーガン対応は、今後確実に淘汰されていくと考えられます。そしてその兆候はすでに、世界の先端都市において明確に現れています。

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ロンドンで起きている“静かな選別”

ヨーロッパの中でもヴィーガン市場を牽引してきたロンドンでは、一時期、市場の拡大とともに多くのヴィーガン対応店が誕生しました。しかし現在、その流れには変化が見られます。

単なる代替メニューに依存した店舗は、閉店、業態転換、メニューの見直しを余儀なくされるケースが多く出てきています。その理由はシンプルです。消費者の期待値がすでに次の段階へと進んでいるからです。

かつては「ヴィーガンであること」自体が新しさであり、選ばれる理由となっていました。しかし現在のロンドンでは、それはもはや特別な価値ではなく、“前提条件”に過ぎなくなっています。

「食べられる」では足りない時代

従来のヴィーガン対応は、「食べられない人にも対応する」という配慮が中心でした。肉の代わりに大豆ミートを用いたり、乳製品の代わりに植物性素材を使用したりする方法が一般的でした。

しかし消費者は、すでにこうした“置き換え”に飽き始めています。なぜなら、そこには驚きや発見、そして技術や工夫が感じられないからです。今求められているのは、ヴィーガンかどうかにかかわらず、一般的な料理と同等の水準を持つ体験価値です。

“代替”の発想をしないお店が結果を出す

では、どのような店がこれから支持されていくのでしょうか。それは、“代替”という発想にとらわれないお店だと考えています。

代替という発想に立つ限り、「一般的な料理と比べてどうか」という評価軸からは逃れられません。その結果、「悪くはないが本物の方がいい」という印象にとどまりやすく、強い支持にはつながりにくくなります。

一方で、植物性食材を前提に料理を設計し、発酵やスパイス、テクスチャー、さらには多様な調理法を駆使して独自の体験を生み出す店は、「一般的な料理と比べてどうか」という評価軸から離れた形で勝負しています。これから選ばれるのは、「代替としてどうか」ではなく、その店ならではの価値があるかどうかです。

その象徴的な事例として挙げられるのが、ロンドンのレストラン「Plates」です。ミシュランの評価を受けている同店では、来店客の多くがベジタリアン・ヴィーガンではなく、料理そのものの価値によって支持を集めています。

淘汰はこれから世界的に本格化する

市場が成長すれば、必ず選別が始まります。ヴィーガンというカテゴリも例外ではなく、これはヴィーガン市場が拡大しているからこそ起きている現象だと考えています。

“置き換えればいい”という発想のままでは、やがて顧客に見抜かれてしまいます。そして、より魅力的な体験を提供する店へと人は流れていきます。

ロンドンで起きている淘汰は、いずれ世界中でも現実のものとなるでしょう。ヴィーガン対応は、もはや付加価値ではありません。料理としての完成度が問われる競争の中に、すでに組み込まれています。

その現実を直視できるかどうかが、これからの分かれ道となります。