「当たり前の可視化」が新たな顧客を生む

関東を中心に店舗を展開し、アメリカやフランス・パリにも進出している、おむすび専門店「おむすび権米衛」。同店は公式サイトのアレルギー情報一覧に「ビーガン」「グルテンフリー」の項目を設け、商品ごとの対応状況を公開しています。

参考:おむすび権米衛「アレルギー情報一覧」

この取り組みで注目したいのは、ヴィーガンやグルテンフリー対応のために専用商品を開発したことではありません。すでに販売している商品の情報を整理し、必要としている人に分かる形で伝えていることです。フードダイバーシティ対応では、この「当たり前の可視化」が非常に重要です。

フランス・パリでも展開するおむすび権兵衛

日本人には当たり前なことでも、外国人には分からないことが多い

日本人であれば「おむすび」と聞くだけで、米を中心に作られ、小麦や動物性原材料は使われていないだろうと想像できます。

しかし、日本の食文化に詳しくない外国人旅行者には、おむすびの基本的な材料も、梅や昆布といった具材も、醤油やみそ、だしに含まれる原材料も分かりません。

店側の当たり前は、お客様の当たり前ではありません。

日本人なら説明なしに理解できる情報を、外国人にも判断できる形で示す。その情報差を埋めることが、「当たり前の可視化」です。

新商品を作る前に、既存商品を確認する

フードダイバーシティ対応というと、専用メニューの開発や、特別な食材の仕入れが必要だと考えられがちです。

しかし、最初に取り組むべきことは、新商品を作ることとは限りません。まずは既存商品について、

  • 動物性原材料を使用しているか
  • 小麦を含む原材料を使用しているか
  • 魚介だしを使用しているか
  • 醤油やみそなどの調味料に何が含まれているか
  • 調理器具や揚げ油を共用しているか

を確認することが重要です。

調べてみると、すでにヴィーガンやグルテンフリーに該当する商品が見つかる可能性があります。その場合、レシピを変える必要はありません。既存商品の価値を確認し、それを必要としている人に伝えるだけでも、立派な対応になります。

店にとっての「対応済み」が、お客様には見えていない

日本の飲食店や食品メーカーには、もともとヴィーガン、ベジタリアン、グルテンフリーなどの条件に該当する商品が数多く存在すると考えられます。

ところが、その事実が公式サイトや店頭に表示されていなければ、必要としている人には見つけてもらえません。店舗側が「聞かれれば説明できます」と考えていても、外国人旅行者は必ずしも質問してくれるとは限りません。言葉の問題もありますが、それ以前に、対応している可能性が分からなければ、問い合わせる候補にも入らないからです。

  • 旅行前の検索で見つからない。
  • Googleマップや生成AIに聞いても出てこない。
  • 店頭まで来ても、自分が食べられる商品を判断できない。

その結果、本来は食べられる商品があるにもかかわらず、購入を諦めてしまいます。

これは、商品の問題ではなく、情報の問題です。

「対応しているけれど伝えていない」は、「対応していない」と判断される可能性があります。

すべての商品を対応させる必要はない

おむすび権米衛の表示でも、すべての商品がヴィーガンやグルテンフリーになっているわけではありません。

対応する商品には「〇」、対応しない商品には「×」を表示し、商品ごとの違いを明確にしています。この方法であれば、全商品を作り変える必要はありません。既存商品の確認と情報開示から始めることができます。

重要なのは、どの商品を、どのような条件で選べるのかを、正確に伝えることです。

注意事項も含めて可視化する

おむすび権米衛の公式サイトでは、同一厨房で複数の商品を手作りし、調理器具や備品も共用しているため、他商品に含まれるアレルギー物質が混入する可能性があることも明記されています。

また、揚げ物については、他の商品と同じ油で揚げた場合、その食材に含まれるアレルゲンも対象になると注意を促しています。

参考:おむすび権米衛「アレルギー情報一覧」

そのため、同サイトの「グルテンフリー」表示を、小麦アレルギーやセリアック病の人に対する完全な混入防止保証と同一視することはできません。厳格な管理が必要な場合は、利用店舗への個別確認が必要です。

食べられる商品を伝えるだけでなく、

  • 同一厨房で調理している
  • 調理器具を共用している
  • 揚げ油を共用している
  • 混入の可能性がある

といった注意事項も伝える。これも「当たり前の可視化」の一部です。できることだけでなく、できないことも正確に示すことで、利用者自身が判断できるようになります。

日本の「当たり前」を、世界に伝わる情報へ

おむすびは、日本人にとって非常に身近な食べ物です。だからこそ、「説明しなくても分かる」と考えてしまいがちです。しかし、日本人が長年の食経験から理解していることを、外国人旅行者も同じように理解しているとは限りません。

  • 何から作られているのか。
  • どのような調味料が使われているのか。
  • 自分の食事条件でも食べられるのか。

これらを分かる形で伝えることによって、日本の当たり前の食文化が、外国人旅行者にとって安心して選べる体験に変わります。

  • 新しい商品を作る前に、すでにある商品を確認する。
  • 確認した情報を整理する。
  • そして、必要としている人に伝わる言葉で表示する。

日本人にとっての「当たり前」は、可視化することで新しい価値になります。

おむすび権米衛のヴィーガン・グルテンフリー表示は、特別なメニュー開発だけがフードダイバーシティ対応ではないことを示す、分かりやすい事例といえるでしょう。