2018年4月24日

今年もGMTI(グローバル・ムスリムトラベル・インデックス*1)が発表されました。ムスリムフレンドリーな旅行先をランキングするこのレポートは、世界130の国と地域を対象にしています。今年の発表会は昨年と同じくインドネシアのジャカルタで開催され、ランキング発表直後から各国報道機関が記事を配信しました。今月はこのランキングにおける日本の評価について考察します。

2ランクアップ、日本の躍進続く


 このチャートはOIC(イスラム協力機構)非加盟国におけるGMTIのランキングの推移です。成長著しい日本は今年もランクを2つ上げ、4位に躍進しました。2013年に23位であったことを考えると隔世の感がありますが、日本はムスリム(イスラム教徒)旅行者に対する環境整備を着実に進めてきた結果です。中でも13年以来ASEAN(東南アジア諸国連合)各国に対するビザ(査証)取得要件の緩和が大きな契機になったのは間違いありません。今では訪日ムスリム旅行者の2人に1人が利用しているハラールメディアジャパンの開設は14年で、これも環境整備に少しばかり貢献したかもしれません。
 日本には昨年、今年のランクアップに影響したと考えられる出来事がありました。MMTR(ムスリムミレニアルトラベルレポート*2)とJMTI(ジャパンムスリムトラベルインデックス*3)の発表です。前者はムスリムの若者に人気の旅行先ランキングで、日本は世界3位となりました。一方、後者はGMTIの日本版で、全国47都道府県を順位付けしたものです。いずれもGMTIを発表するクレセントレーティング社(シンガポール)がまとめたものですが、それぞれのランキング算出の根拠となるデータは異なっています。つまり、日本の躍進はあらゆるデータを分析した客観的な結果であるといえるのです。

コミュニケーション力不足が課題

GMTIは4つのセグメント(環境、サービス、コミュニケーション、アクセス)に関する14項目の評価を数値化した上で算出されています。昨年は11項目だったのが、今年は新たに3項目(ユニークな体験、デジタル対応、交通インフラ)が追加されました。いずれも世界の観光市場において、国を問わず重要視されているものです。

このチャートは日本に対する評価の推移を示しています。安全性は4年連続で満点の100点。宿泊施設、ビザ、基礎インフラに対する評価が向上しています。レストランとプレイヤー(礼拝)スペースへの評価が横ばいであるのに対し、ホスピタリティー(おもてなし)とコミュニケーション力についての評価は下がっています。基礎インフラは向上している一方でホスピタリティーが下がっているとの評価は、察するに他国との印象の差ではないでしょうか。ムスリム旅行者をもてなす施設は増えたものの、ホスピタリティーの面で他国よりも劣っていると評価されたのかもしれません。

ミレニアル世代の評価が重要


 最後にOIC非加盟国トップ五カ国を比較してみましょう。日本は安全性がシンガポールと並んで首位で、デジタル対応は単独トップですが、ハラールレストラン、プレイヤースペース、コミュニケーション力については最下位でした。コミュニケーション力の強化には外国人人財やテクノロジーの投入といった対策も取れますが、高評価を得るまでには相当時間を要しそうです。
 ただミレニアル世代(1980〜2000年前後生まれ)の旅行者は「Accessible: デジタル対応(日本は首位)」や「Authentic: ユニークな体験(日本は2位)」を重視しているので、日本が総合4位に躍進したのはこの世代の評価が影響した可能性があります。また、この世代はAffordable(値頃感)も重視するので、日本が交通インフラで3位と意外に評価されていないのは、料金の高さゆえであると推測されます。
 総合評価で6年連続トップに立ったのはシンガポールで、同じムスリムマイノリティー国である日本にとって、お手本となる存在であり続けています。全14評価項目中6項目で評価が催行ですが、実は課題もあります。今年追加された「ユニークな体験」では、台湾と並んで最下位なのです。現にミレニアル世代に人気の旅行先ランキングでは、マレーシア、インドネシア、日本、タイ、オーストラリアに次ぐ6位に甘んじています(*2)。観光資源を新たに開発する必要がある同国が、この点をどう克服してゆくのかにも注目したいところです。
 今回はOIC非加盟国のランキングを中心に、日本に対する評価を考察しました。次回は加盟国も含んだグローバルランキングから、日本がさらに上位を狙うには何が必要なのかを深掘りします。

*1 Master Card CreascentRating, Global Muslim Travel Index 2018
*2 Master Card Halal Trip, Muslim Millennial Travel Report 2017
*3 Master Card CreascentRating, Japan Muslim Travel Index 2017

PDF版はこちらからダウンロードしてください。

<筆者紹介>

横山真也
ヨコヤマ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役
フードダイバーシティ株式会社 共同創業者
2014 年に「世界初の日本ハラール専門ポータルサイト」Halal Media Japan とハラール・ベジタリアンレストラン検索サイト・アプリHalal Gourmet Japan を開設。14 年と15 年に日本最大のハラールトレードショーであるJapan Halal Expo、16 年はHalal Expo Japan にて東アジア初のモディストファッションショーTokyo Modest Fashion Show を主催。17 年は世界初のムスリムロリータコレクションKawaii Hijabi Collection とファッションスクール生コンペGeneration M Design Award を主催した。「MasterCard CrescentRating -Japan Muslim Travel Index 2017」では共同編集長を務めた。趣味は矢沢永吉で、ライブ参加は通算132 回。