国際空港で考える、案内と利用者の認識のずれ
先日、「世界の山ちゃん セントレア店」が、牛すき焼き、幻の手羽先、幻のチューリップ、手羽先天ぷらの4品を「ムスリム向けメニュー」として発売したことがニュースになりました。
しかし、同店の「ムスリムポリシー(Our Muslim Friendly Policy)」には、「ムスリム向けメニューにはハラール認証肉を使用しておりません」と明記されています。また、今回の取り組みを紹介するハラル・ジャパン協会の記事では、ムスリム対応として「ノーポーク・ノーアルコール」と表記する旨が説明されています。
世界の山ちゃん セントレア店でムスリム対応スタートさせます!
第20回アジア競技大会(2026/愛知・名古屋)開催と並行して、
中部国際空港(セントレア)が支援する食の多様性の強化策の中、
世界の山ちゃん セントレア店で合計4品・板牛すき焼き Beef Sukiyaki
・幻の手羽先 Phantom Chicken Wings
・幻のチューリップ(特製たれ使用) Phantom Tulip (Made with a Special Sauce)
・手羽先天ぷら Chicken Wing Tempuraでムスリム対応として「ノーポーク・ノーアルコール」表記をいた
します。(https://jhba.jp/new/22172/)
世界から旅行者を迎える国際空港で、この条件のメニューを「ムスリム向けメニュー」として案内することは、どのような意味を持つのでしょうか。「ムスリム向けメニュー」という案内から利用者が期待する内容と、実際の提供条件が一致しているか。情報開示の有無に加え、その伝わり方と対応の実態を考える必要があります。
ハラール認証肉の使用は優先順位が高く、最もトラブルになりやすい部分
「ハラール認証肉の使用」は観光庁のデータを参照しても重要度が非常に高いことが分かります。
| 回答 | 人数 | 割合(資料掲載値) |
|---|---|---|
| 必ず確認し、確認できなければ口につけない | 138人 | 62% |
| 確認するが、分からない場合はやむを得ず食べる | 51人 | 23% |
| 特に気にしないで食べる | 35人 | 16% |
出典:観光庁「ベジタリアン・ヴィーガン/ムスリム旅行者おもてなしガイド 資料編」(2024年4月)、43〜44ページ。割合は四捨五入のため合計が101%です。
実際、当社フードダイバーシティ株式会社が飲食店・宿泊施設のハラール対応を支援させていただく中で、現場で最も多く起きているトラブルも「ハラール認証肉の使用有無」に関するものです。
「ムスリム対応メニュー」「ムスリムフレンドリー」の基本的な認識とは?
統計的な裏付けはありませんが、当社がこれまでムスリムのお客様と接してきた経験では、多くの方が「ムスリム向けメニュー」や「ムスリムフレンドリー」という表記を見ると、ノンポーク・ノンアルコールを基本とした野菜料理や魚料理、あるいはハラール認証肉を使用した肉料理を想定します。少なくとも、肉料理について「豚肉を使用していなければよい」という意味で受け止める方は、当社が接してきた範囲では極めて少ないと感じています。
さらに世界から旅行者を迎える国際空港では、こうした案内に対し、宗教上の食事条件を理解したうえで料理が提供されていると期待されることも十分に考えられます。
一般的にムスリムが「ムスリムフレンドリー」と聞くと、食事に関しては「ハラール」であると理解をします。(NPO法人日本ハラール協会)
またNPO法人日本ハラール協会も、一般的にムスリムは「ムスリムフレンドリー」という言葉から、食事がハラールであると理解すると説明しています。また、日本での言葉の使われ方との違いが、誤解を生む場合があると指摘しています。
提供者側が「豚肉とアルコールを使用していない」という意味で「ムスリム対応メニュー」「ムスリムフレンドリー」と案内していても、お客様が同じ意味で受け取るとは限りません。

認識のずれへの対応を担うのは現場、信頼を失うリスクを負うのは店舗
案内と利用者の認識にずれがあった場合、説明や対応を担うのは、お客様と直接やり取りする現場のスタッフです。食べた後にハラール認証肉を使用していないと分かれば、その場で説明しても、お客様の不安や不信感を解消できるとは限りません。
また、こうした行き違いが口コミやSNSで広がれば、実際の提供条件とは異なる情報まで拡散され、店舗の評判や信頼が損なわれるおそれもあります。
取り組みを支援する空港会社や、助言・監修を行うコンサルティング会社が、現場での説明や対応、店舗の評判への影響まで引き受けるのでしょうか。支援・監修する立場にも、問題が起きた際の対応や責任の分担まで見据えた提案が求められます。
世界から旅行者を迎える国際空港だからこそ
国際空港は、世界から訪れる旅行者を迎える「国の顔」でもあります。そこで「ムスリム対応」と案内する以上、利用者がその言葉から何を期待し、どのような条件の食事だと理解するのかまで、十分に考えるべきではないでしょうか。
情報開示は、お客様が自ら判断するためのものです。仮に「書いてあるのだから問題ない」と、提供者側の認識だけで押し切るのであれば、国際空港のおもてなしとして誇れる姿勢とは言えないと当社は考えます。
情報を記載したかだけでなく、お客様にどう伝わるか。その視点に立つことが重要ではないでしょうか。
