「実際に利用できる店舗数」をKPIにする重要性

ベジタリアン、ヴィーガン、ムスリム、グルテンフリーなど、多様な食習慣を持つ外国人旅行者の受入環境整備に取り組む自治体やDMOが全国で増えています。

セミナーや勉強会を開催して地域の飲食店に対応を呼びかけ、その後、対応可能な店舗をまとめた「対応店リスト」や「飲食店マップ」を制作する。

こうした取り組みは、一見すると正しい進め方のように見えます。しかし、対応店リストを制作し、Webサイトに掲載しただけで、外国人旅行者が店舗を訪れるようになるわけではありません。

問題は、対応店リストを作ること自体ではありません。重要なのは、そこに掲載されている店舗が、外国人旅行者にとって本当に「利用できる店」になっているのかということです。

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「予約があれば対応する店」「言われれば対応する店」を対応店とは呼ばない

対応店リストに掲載されている店舗の対応内容を確認すると、「事前予約があれば対応可能」「事前にご相談いただければ対応可能」「お客様からお申し出があれば対応可能」といった店舗が少なくありません。実際に、このような対応方針の店舗が大半を占めているケースも見受けられます。

もちろん、個別の要望に対応しようとする姿勢は重要です。しかし、それらの店舗を「対応店」としてリストに掲載するだけで、外国人旅行者の来店につながるのでしょうか。

外国人旅行者で、数日前から飲食店を予約して行動する方は稀です。また、予約が必要な店舗であっても、予約方法が電話のみというケースは少なくなく、言語の壁や国際電話の利用環境などが障壁となり、予約を断念してしまうこともあります。

また、「事前に申し出ていただければ対応可能」「ご相談いただければ対応可能」という店舗であっても、、言語への不安から、自ら要望を伝えることをためらう旅行者は多いです。

そのため、対応可能であることだけでは十分とは言えず、旅行者が来店前に対応内容や予約の必要性、予約方法などを容易に確認できるよう、適切な情報発信を行うことが重要です。

  • 店頭にも書いていない。
  • メニューにも書いていない。
  • Google Mapsにも書いていない。
  • WebサイトにもSNSにも書いていない。
  • 予約方法が電話のみ。

この状態では、旅行者から見れば「対応していない店」と同じです。

逆の立場で考えてみる

ここで、一度立場を逆にして考えてみてください。

自分が言葉の通じにくい国を旅行しているとき、初めて訪れる飲食店で、自分が食べられない食材や調味料を説明し、使用している食材を一つひとつ確認したうえで、「この料理を自分が食べられるように変更してもらえませんか」と交渉できるでしょうか。

さらに、その店が本当に対応してくれるのか分からない状態で、わざわざ時間をかけて店を訪れるでしょうか。多くの旅行者が求めているのは、店頭で交渉しなければ食べられるかどうか分からない店ではありません。店舗を探す段階で対応内容を確認でき、安心して店を訪れ、通常のメニューから自分が食べられる料理を選び、その場で注文できる店です。

重要なのは、飲食店側が「対応できます」と考えているかどうかではありません。旅行者が店舗を探す段階で対応情報を確認でき、実際に来店した際に、特別な交渉をすることなく注文できる状態になっているかどうかです。

対応店リストは「知ってもらうきっかけ」に過ぎない

対応店リストを制作し、それが旅行者にお店を知ってもらうきっかけになったとしても、旅行者はそれだけで来店を決めるわけではありません。多くの場合、来店前にはGoogle MapsやSNSなどを確認し、最新の店舗情報やメニュー、料理写真、口コミなどを見たうえで、実際に利用するかどうかを判断します。

「対応店数」ではなく「常時注文可能店数」をKPIに

食の多様性に関する受入環境整備事業では、「何店舗が対応できるようになったのか」という「対応店数」が成果指標として使われることがあります。

しかし、対応店としてカウントされている店舗の中に、「事前予約があれば対応する」「言われたら対応する」といった店舗が含まれているのであれば、その数字だけで地域の受入環境が整備されたと評価することはできません。

例えば、30店舗を対応店として掲載していても、そのうち通常営業時間に来店し、その場で対応メニューを注文できる店舗が3店舗しかないのであれば、旅行者にとって実際に利用できる選択肢は3店舗です。

重要なのは、「対応する能力がある店舗数」ではありません。外国人旅行者が店舗を訪れた際に、事前予約や特別な交渉をすることなく、実際に対応メニューを注文できる店舗が何店舗あるのかということです。

そのため、自治体やDMOが食の多様性に関する受入環境整備事業の成果を検証するのであれば、「対応店数」ではなく、「常時注文可能店数」を重要なKPIとして設定すべきです。

具体的にはヴィーガン対応であれば、通常メニューにヴィーガンの表記がされていて、その場で注文できる状態です。ムスリム対応であれば、使用食材や調味料、調理環境などの対応方針が整理・開示され、旅行者がその情報を確認したうえで、自ら食べるかどうかを判断し、通常営業時に注文できる状態です。

飲食店側の自己申告に注意

重要なのは、「対応できます」という飲食店側の自己申告ではありません。旅行者が対応情報を事前に確認でき、安心して店舗を訪れ、実際に注文できる状態になっているかどうかです。

例外

なお、料亭やホテル、旅館、コース料理専門店など、もともと事前予約を前提として利用される店舗・施設については、必ずしも通常営業時間に対応メニューを常時提供する必要はありません。

重要なのは、予約時にベジタリアン、ヴィーガン、ムスリム、グルテンフリーなどへの対応内容や料理画像が明確に示され、旅行者が希望する食事を選択・申告できる体制が整っているかどうかです。

必要なのは「対応店リストを作る事業」ではなく「利用できる店を増やす事業」

  1. セミナーを開催した。
  2. 対応店舗を募集した。
  3. 対応店リストを制作した。
  4. 対応店リストをWebサイトに掲載した。

対応店リストを作成することは、事業の目的ではなく、外国人旅行者が実際に店舗を利用できる環境を整備するためのプロセスの一つに過ぎません。対応メニューを開発し、店舗をリストへ掲載するだけでは、事業の成果とはいえません。

重要なのは、外国人旅行者が店舗を見つけ、対応内容を事前に確認し、安心して来店・予約できる環境を整えることです。そのためには、Google Mapsや店舗Webサイトへの正確な情報掲載、料理写真やメニュー情報の充実、多言語での情報発信、SNSでの継続的な発信、旅行会社やメディアとの連携など、旅行者が店舗を認知してから実際に利用するまでの導線を設計する必要があります。

また、情報を公開して終わりではありません。公開した情報が実際に旅行者へ届いているのか、店舗への来店や予約につながっているのかを継続的に確認し、その結果を踏まえて改善を重ねていくことが重要です。

食の多様性に関する受入環境整備事業では、「対応店リストを完成させること」をゴールに設定するのではなく、外国人旅行者が店舗を知り、比較・検討し、安心して選択し、実際に利用するところまでを見据えた事業設計が求められます。その視点を持つことで、初めて受入環境整備が旅行者の満足度向上や地域の誘客につながる取組となります。