2019年は中東エンタメがグッと接近!ドバイ発の3Dアニメ『フリージ』とイラン人監督が描く日本人家族『二階堂家物語』

遠いようで意外と近い、中東のエンタメ

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今年はこれまであまり縁のなかった中東発のエンタメが日本にぐっと近くなる。中東といえば戦争、テロなどのイメージが先行しがちで事実、エンタメどころではない地域が多い。しかしその実、フィルム・スクールやアニメの学校なども盛んにできていて、政府がそれらを支援する国もある。なんといってもエンタメは平和を呼び込み、若者に夢と仕事を与えるからだ。そんな傾向が強くなることを願いつつ、ここに2つの例を紹介したい。

一つ目はドバイ発の3Dアニメ、『フリージ』(Freej)だ。ドバイといえばひたすらゴージャスなイメージのキンキラキン都市。UAE(アラブ首長国連邦)の首都であり、中東のビジネスの中心地でもある。まばゆい超高層ビル群とラクダに混じって砂漠を爆走するランボルギーニが名物だ。

そんなドバイでエンタメ産業を興そうと奔走している人がいる。アラビアン・ビジネス・マガジンにて“最も影響力あるアラブ諸国の人々”の一人に選ばれているモハメド・サイード・ハリブ。2005年にUAE初の3DCGアニメーションによるテレビ作品『フリージ』を制作し、大人気を博した。これまで全5シーズン、計70話が放送され、日本では春からTOKYO MXでシーズン1がオンエアされる。日本語吹き替えは高畑淳子を筆頭に、野沢由香里、小林さやか、片岡富枝が担当する。

その内容はというと男性優位なイスラム社会を生き抜いてきた高齢女性たちの日常。アット・ホームなドバイの下町を切り取ってみせてくれる。去年来日した際にハリブ監督にお話を伺った。「UAE、とりわけドバイはあまりに急速に発展したため、今や貧しかった頃を知るのはおばちゃんやおばあちゃん世代だけになってしまった。僕自身はドバイっ子でおばあちゃんに育てられたので彼女世代の女性たちの逞しさや知恵、ユーモアたっぷりな語り口を良く知っている。これを物語にしたら面白いんじゃないか、と思って『フリージ』を作った」

左から カリド・オムラン・スカイット・サルハン・アルアメリ、 高畑淳子、 モハメド・サイード・ハリブ監督、 ウム・サイード

ハリブ監督はアメリカのノースイースタン大学で学び、『フリージ』はその頃から温めていたプロジェクトだ。その上監督は親日家。以前はハネムーンで日本に来てディズニー・ランドを楽しんだという。「ドバイの人達は総じて日本が好きだ。僕自身は『キャプテン・翼』と『おしん』を見て育ったといっても過言ではない。中東ではこの2つがもの凄い影響力を持っている。それは日本の文化の構造と中東の文化の構造に共通点が多いからだろう。その根底には年長者と家族を大切にする伝統がある。そんなことにもインスパイアされて『フリージ』を手がけた」

『フリージ』では主人公のウム・サイード(高畑淳子)を筆頭に3人の女性キャラクターが登場。ウム・サイードはコーヒー中毒で皮肉屋。先日亡くなった市原悦子さんに近い感じの、ちょっと辛辣だが憎めないおばあちゃんである。イスラムの古い習慣やしきたりを重んじ、ラマダン(断食期間)もぶちぶちと文句を言いつつきっちり守るタイプ。なんだか馴染める。

4人のキャラクターは全員ヒジャブというベールで顔をほとんど覆い隠しているがこれはイスラム圏以外ではなかなか理解されないのでは? 監督が言うには「もともとヒジャブはインドから入ってきたもので女性たちにとても重用された。昔はメイクをすることが許されなかったので顔の下半分を隠し、目元を強調して美を競っていたんだ。今は中年から上の世代の人たちが使っているが皆、砂ボコりを避けたり紫外線から肌を守ったり、なかなか役立つ代物なんだ」

なるほど、勉強になります。4人の日本人女優たちが『フリージ』をどのように料理してくれるのか、楽しみになってきた。

中東エンタメは輸入されてくるものばかりではない。今公開中の『二階堂家物語』はイラン人のアイダ・パナハンデ監督が撮った日本の作品である。主演は加藤雅也と石橋静河。舞台は奈良県の天理市。奈良はプロデューサーを務める河瀬直美(カンヌ映画祭出品の常連監督) のホーム・グラウンドである。そんなコテコテの日本映画を、来日経験ゼロのイラン人女性が撮りあげた。

思えばこういうケースは初めてではない。2010年の『ノルウェイの森』を覚えているだろうか。村上春樹の世界的大ベストセラーをベトナムのトラン・アン・ユン監督が撮り、主演の松山ケンイチと菊池凛子はその名を世界に轟かせた。しかし『ノルウェイの森』と違い、『二階堂家物語』はオリジナル脚本。アイダ監督が共同で執筆した。奈良の旧家、二階堂家の後継者問題をめぐり、加藤演ずるバツイチの父親、辰也と娘の由子(石橋)が対立する。二人はそれぞれ、家から離れた別の人生を歩みたいという思いがある一方で、祖母のハル(白川和子)の気持ちも無視できない。ハルは何が何でも二階堂家を存続させるため、男の子を産んでくれそうな嫁を辰也にすすめる。崖っぷちの選択をせまられる辰也は、今度は由子に婿をとらせようと画策する。

大学時代に映画製作を学び、小津安二郎が大好きだと語ってくれたアイダ監督は自身がアジア人であることを強く意識している。「例え国籍が何であろうと、アジア人である以上家族というものから離れることはできません。日本でも中東でも同じことです。でもこれからの時代、親が子供に言うことを聞かせるだけでなく、色々なコミュケーションのとりかたを探る必要があるし、子供の方も常にオープンでフェアな心でいることが大事だと思います」

アイダ・パナハンデ監督

中東から見たジャパンとジャパンから眺める中東。二つの世界はとても遠いようで実は思っていたほど距離はないのかもしれない。

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